22
「――できったぁ……とと、あれ?」
ようやく今日学ぶ範囲の最後までテキストの問題を解くことができて、思わず声を上げてしまい、慌てて口元を押さえていたのだが、気が付けばオクトール様の姿がどこにも見当たらなかった。
集中していて、部屋から出て行ったのに気が付かなかったのだろうか。
それにしても、わたしを置いて出ていくとは、なんと不用心な……。一人にしても大丈夫、と、最低限そのくらいは信用されているんだろうか。まあ、この部屋、家具ばかりで何か盗むようなものも見当たらないんだけど。そもそも侯爵令嬢だから物を盗む必要もないわけだが……。
特に何も言われていないから、ここで待っていればいいんだろうか。
広い部屋のどこにもオクトール様がいない、と、辺りを見回していると、ふと、少しだけ開いている扉を見つける。廊下に繋がる扉ではなく、いつも閉まっている。
もしかして、あの扉の先に、オクトール様がいるんだろうか。でも、勝手に扉を開けるのはな……。人の部屋だし、許可もなく動き回るのは気が引ける。
かといって、いつ戻ってくるのかも分からないし。
「……開けなければセーフかしら」
わたしは少しばかり開いている扉の前に立つ。本当に隙間が少し開いているだけなので、中を見ることはできない。多分、この開き具合、意外と勢いが足りなくてちゃんと閉まらなかった、とか、そんな感じだと思う。
「オクトール様ー、いらっしゃいますかー?」
わたしは扉に向かって声をかける。声を張り上げたわけじゃないけど、扉が開いているのなら声は届くだろう。
この扉の先にいる、というわたしの予想は当たっていたようで、「少し待ってくれ!」というオクトール様の声が聞こえた。
言われた通り、扉の前で待っていると、ばたばたという足音が聞こえてきて、扉が開かれた。
思ったよりも勢いよく扉が開く。わたしはとっさに背後へ後ずさりした。あのまま立っていたら顔面に扉がぶつかる。
「ごめ――っ、すまない」
オクトール様は、ずれていた眼鏡を一瞬で直す。ものすごい早業だ。
「中、入って」
オクトール様越しに見えるのは、なにやら散乱している部屋だ。本は山積みになっているし、紙も散らばっている。なにやらよく分からない道具も並んでいるし……物置か?
「これでも片付けた方なんだが……普段、研究室にはノーディーニ以外入れないんだ。少なくとも、一見して分かる足の踏み場は作ったから、君でも歩けるはずだ」
……研究室だった。よかった、物置ですか? とか聞かなくて。




