20
考えてもみなかった言葉に、今度はわたしが驚く番だった。人付き合い苦手そうだから、彼からそんなことを言ってくれるとは思わなかったのである。
わたしが驚いているのが分かったのだろう。彼は眼鏡のふちを撫でながら言った。
「君が僕のために努力してくれるっていうのなら、手を貸すのが道理だろう。……眼鏡あるし」
なるほど、思ったよりも眼鏡の鎧は頑丈らしい。二人きりで勉強、くらいなら自ら提案できるのか。
彼に勉強を教えてもらえるとは、かなり効率が良くなるんじゃないだろうか。何も分かってない人間が独学でやるよりずっといいだろう。
「わたくしは助かりますけれど……オクトール様もオクトール様でお忙しいのでは?」
わたしもやることが山積みだが、オクトール様だって婚約パーティーの準備があるし、それに魔法道具の研究だってあるだろう。
「多少は平気だ。それに、君がどのくらい知識があるのか把握していたほうが、会話を振りやすい」
一理ある。しかも、「この間教えたところだ」なんて言われれば、ごく自然に仲がいいアピールに繋がる。嘘じゃないから、設定を考える必要も、演技をすることもない。オクトール様としても話しやすくなるのだろう。
「……それでは、勉強をするためにこちらに来たら、ついでに少し触れあいをしましょうか」
「ふれあい」
眼鏡のブリッジを押し上げるオクトール様。だから言葉だけで動揺するなって。
「ついさっき、触れあいに慣れましょうと言ったばかりですわよ」
「それは、そうだが……」
別にキスだのハグだのするつもりはない。手をつないだり、腕を組んだりくらいはできるようになってもらわないといけないが。
少なくとも、さっきのように肩が触れあう距離で隣に座っても、動揺せず落ち着いていられるくらいにはなってもらわないと困る。
「王位を目指すために必要なことですわよ。それにアインアルド王子を出し抜いて国王になったら――……いえ、なんでもありませんわ」
世継ぎのために、夫婦の営みというものが半ば強制になるわけで、手も触れられない、では困るのだが、今それをオクトール様に伝えたら顔を真っ赤にしてぶっ倒れるかもしれないと、わたしは口をつむぐ。
「と、とにかく! 触れあいどうこうを差し引いても、勉強を教えてくださるのはとてもありがたいので、オクトール様の都合が大丈夫なのでしたらお願いしたいですわ」
オクトール様は恋愛が随分苦手みたいだし、スキンシップに関しては、わたしが完全に管理するしかない。
前世は色恋なんて縁のない娯楽だと思っていたが、恋愛漫画や恋愛小説はそれなりに読んできた。完全に駄目ではないはず。
「頑張りますわよ!」
ガッとオクトール様の手を掴んで、強い握手を交わした。
……成程、握手は大丈夫なのか。脳内にメモしておこう。




