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『シックス・パレット』。
前世でかなり賛否両論あった男性向けの恋愛ゲームの名前だ。
なんでもありなファンタジー世界に第一王子として生まれた主人公がヒロインを攻略していく話で、ストーリー的にはそこまで目新しいものはない。
一番の売りは、浮気ができる、というゲームシステムだ。
まあ、この国では、王族や貴族、金持ちなど、複数の女性を養える男が多くの妻を迎え入れる一夫多妻制は当たり前のことなので、浮気、という風にはならないのだが。
それでも、攻略中のヒロインの好感度やデート状況などをうまいことプレイヤーは調整して、いかにバッドエンドにいかずにハーレムを迎え入れることが、というのを楽しむゲームなのである。
このとんでもねえゲームシステムに、当然炎上した。女性を軽視しすぎている、とか、そんな感じで。
しかし、制作会社は、「ゲームはあくまでゲーム。私たちの元へ苦情を入れた女性を誰一人としてゲームに登場させておとしめたわけではない」と、批判意見をバッサリ切り捨てたことで、逆にそれが評価され、システムに嫌悪感を抱いた層と、ゲームファンの中ではっきりと評価が分かれる一作になった。
なぜ女のわたしが男性向けゲームである『シックス・パレット』に詳しいか、といえば、一重にわたしがシナリオライターの一人だからである。ちなみに、先日わたしに変わって第六夫人となったベルデリーンのルートがわたしの担当だった。
『シックス・パレット』の制作会社に学生時代からの友人がいて、仕事がない、と泣きついたら、「ライターが途中で逃げたから、これ続き書いて」と、原稿データを渡されたのである。
書いているときは楽しかった。攻めた設定だなあ、とか、王子のクズっぷりが一周して逆に面白い、とか。
でも、それはやっぱり創作だから。
現実で、自分の婚約相手がふらふらと他の女の元へ遊びに行っていたら普通にストレスだ。
まあ、不幸中の幸い、と言うべきか、『ベルメ・ルビロス』は別に、王子に振られてハーレムから追い出されたからといって、女性向け作品のように、国外追放とか、死罪とか、そういう結末はたどらない。
わたしが転生した『ベルメ・ルビロス』というキャラクターは、ヒロインたちの恋路の障害になるだけの存在にすぎない。
というかそもそも、『シックス・パレット』という作品自体、年齢制限ギリギリまで攻め込んだエロに特化しているので、全然血生臭くないのである。グロ方面は全くで、死人の一人も出やしない。
わたしが書いたベルデリーンルートで、やきもちをこじらせたメインヒロインのエルレナが、ベルデリーンと王子を刺し殺すバッドエンドを提出したのだが、「そこまでしなくていい」と突き返され、二人の生死は不明のまま終わる、という、ヤンデレみを残したまま、しかし生きている可能性もある、というようなエンドになった。演出上、どっちともとれるようなエンドになっているけれど、死んだらリテイクになったので、多分普通に生きてる。
まあ、六回も夫人の順位が落とされて、その果てに婚約破棄された貴族令嬢、って、どう考えても問題大ありで、追放も処刑もなくたって、お先真っ暗な感じしかしないんだけど。現実的に考えたら。