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雑談というよりは面接や質疑応答みたいなものになっていた会話も、最後の方はちゃんと話になっていて、普通に歓談になっていた。……といっても、オクトール様が眼鏡を取るとこは最後までなかったから、完全に心を開いてくれたわけじゃないんだろうけど。
とはいえ、一回二回、顔を合わせて話をしただけで信頼を得ることなんて到底できないと思っているから、別にショックでもなんでもない。そのうち眼鏡なしの彼とも会話ができればいいな、とふんわり思っているが。
結婚するのであれば、少なくともノーディーニさんくらいには信頼してもらえるようになりたい。
とは思うものの、わたしって、彼に何をしてあげられるんだろう。魔法道具の天才と名高いから、頭が悪いわけじゃないだろうし……。社交のフォロー? でも本人は社交に出ないしな。フォローすることあるのかな。
帰る時間になり、そんなことを考えながらわたしは廊下を歩く。見送る、とオクトール様が一緒に歩いてくれているけれど、まだかなり距離がある。精神的にではなく物理的に。
手を伸ばしても繋ぐことができないようなこの距離感が、彼との心の距離でもあるんだろう。
――と。
廊下を曲がろうとしていたオクトール様が、後ろ向きに歩いて戻ってくる。逆再生しているみたいな動きだ。
「……何かありましたの?」
ひょい、と廊下の曲がり角の先を覗こうとすると、オクトール様に引き留められた。
「見ない方が――え、あ、ご、ごめん! 腕、掴むつもりはなくて……っ」
結構がっちり腕を掴んで引っ張られた。別に痛くないのだが――勝手に触ったことにオクトール様は恐縮している。
その隙にわたしは廊下の先を見た。
「あ」
声がこぼれたのはオクトール様だったか、わたしだった。いや、その両方かも。
曲がり角の先には、アインアルド王子とエルレナがいた。しかもかなりイチャイチャと人目をはばからず――あっ、キスした。
ちゅ、ちゅ、と可愛らしいものから、段々激しいキスになっていく。ようやるなあ、こんな誰が通るかも分からないような廊下で。……いや、誰か通るかもしれないというスリルがいいのか? わたしには理解できない趣味である。
オクトール様に、迂回できる道がないか聞こうとして、彼の方を見ると、それはもう、ゆでだこのように顔を真っ赤にしていた。顔だけでなく、耳も、首も真っ赤だった。
見ていて可哀想になってくるくらいに。こういうの、駄目なタイプの人か。
「……」
――……いや、わたしたちがわざわざ迂回する道理はないな。色々な人が通る可能性がある場所でいちゃついている向こうが悪い。やるなら自室でよろしくしてろよと言いたくなる。
わたしは足を上げてかかとに力を集中させ、わざと足音を立てた。




