01
モルトベルグ王国第一王子、アインアルド・ミハイル・モルトベルグ。
それが、わたしの婚約者の肩書であり、名前である。
その、はずだったのだが。
「――ベルメ・ルビロス! 貴様との婚約破棄を、この場で公表させてもらう!」
今、この瞬間、この時を持って、わたしの婚約ではなくなるらしい。
ざわざわと、辺りがどよめく。
今日はアインアルド様の誕生日パーティー。社交界デビューを終えた国中の貴族が全員出席している、と言っても過言ではない。立ち上がることもままらないほどの大病を患っているか、隠居してボケきっているとかでなければ、今、この場にいるはずだ。
そんな状況で、堂々と言うなんて、いい性格しているな、と思う反面――わたしは歓喜に満ち溢れていた。
婚約破棄。王子からの。
この時を、わたしがどれだけ待ち望んだことか!
――『おさがり』がついに捨てられるのか。
どこからともなく、そんな声がわたしの耳に届く。カクテルパーティ効果、というやつだろうか。自分に関係していたり、興味があることは、ざわめきの中でも聞き取れる、というアレだ。
『おさがり』。そう、『おさがり』だ。
一夫多妻制が存在し、偉くなれば偉くなるほど、金を持っていれば持っているほど、多くの妻を持つことが当たり前で常識になるモルドベルグ王国。
最初はアインアルド様の、第一夫人、正室、未来の王妃候補、としてわたしと彼と婚約したはずなのに。
気が付けばわたしの立場は、今や七番目の女にまで成り下がっている。故に、『おさがり』と社交界でわたしは呼ばれているのだ。
侯爵令嬢であるわたしを、よくもまあそこまでコケにできるものだと言いたいが、相手は第一王子で、次期国王にと求める声が多い男。文句のつけようなんてないし、そもそも七人もの女を娶ること自体は、この国の王族であればおかしくはない。むしろ少ない方、とまで言われる始末。
でも、わたしはそんな男と結婚するなんて、絶対にごめんだった。
文化を否定するつもりはないけど、わたしの身に起こるなら話は別。一夫多妻なんてクソくらえ。一夫一妻こそ至上。浮気野郎の×××なんて腐ってもげろ――っといけないけない。
『今の』わたしは侯爵令嬢、ベルメ・ルビロス。まぎれもないお嬢様なのだから、脳内であれど、ここまで汚い言葉を使っては駄目だ。ボロがでる。
なにせ、わたしには前世で一般人として生きた記憶が残っているのだから。生粋のお嬢様に擬態するには、徹底しないと駄目なのだ。
たとえこの世界が、前世にあった、ハーレム系ギャルゲー『シックス・パレット』に酷似していたとしても、今、わたしがベルメ・ルビロスという人間になったのなら、これが現実なのだから。