#08 斬魔剣
ボニーとクライドが消えた部屋に、ふわりと舞い降りて来た二人の人影があった。
「エスカルを失ったのは少々、残念でした。役に立つ悪魔だったのに」と言ったのは細くて背の高い金髪の悪魔だ。
「ものを作り出すことのできる悪魔なんて、大勢いる」と答えたのはレンドだった。
「エスカルの作り出す武器は、他の悪魔ではちょっと真似のできない精巧なものでした。特に我々のように攻撃力の劣る悪魔にとっては重宝するやつでした」
「ふん。それで、アズム、何を探している」
金髪の悪魔は名をアズムと言うようだ。
「やつら、知らなかったようで、何も取らずに行ってしまいましたが、エスカルが作り出した武器の中で最高傑作と言えば剣なのですよ」
アズムはすたすたと部屋の隅に歩いて行くと、エスカル自慢の武器が飾ってある棚の前に立った。棚には拳銃や自動小銃、ショットガンなど銃器がところせましと飾ってあった。
いずれも相手を弱らせ、攻撃をひるませる効果はあるが、その程度だ。攻撃能力のあるボニーやクライドは興味を示さなかった。
アズムは片手でひょいと棚を動かした。
棚の後ろが隠し棚になっていた。
「棚の後ろに棚が隠してある。エスカルのやつ、なかなかオシャレでしょう。くっくっく」とアズムが笑う。
隠し棚には剣や槍、弓といった古代の武器が並んでいた。
「こんなところに隠しておくから、いざという時に使えないのだ」
「エスカルのやつ、肥え、太り過ぎて、こういった武器が扱えなくなりました。だから、銃器に頼るしかなかったのでしょう」
「ふふん」とレンドは鼻を鳴らすと、隠し棚の中で一際目立つ、巨大な剣を手に取った。
「ああ、それはエスカルがつくりだした武器の中で最高傑作と言われている斬魔剣クレイモアです。その剣は全ての悪魔を浄化することができます。でも、浄化してしまっては喰らえない。使えません」
「全ての悪魔を浄化できる・・・」
「おっと、危ない。こちらに向けないでくださいよ」
アズムはそう言うと、別の細身の剣を手に取って言った。「やっぱりこれですよ。雷切ライトニングソード、これが一番です」
「ふん。じゃあ、それは、アズム、お前にやる。俺はこれをもらっておく」
レンドは斬魔剣を背に負った。
レンドの能力は厄介だ。相手に喰らわれると、内から崩壊されることができる。つまりは一度、相手に喰らわれなければならないのだ。だが、これで喰らわれることなく、ライムを倒すことができる。
「エスカルを食らい、クライドのやつ、パワーアップしているでしょう」
悪魔は悪魔を喰らうことで成長する。強くなって行く。そして、ある日、能力が芽生える。どんな能力が芽生えるのか、悪魔自信にも分からない。能力を有する悪魔を喰らっても、相手の能力をわが物にできる訳ではない。自らの能力がパワーアップする。
「そうでなくては困る」
「ライム殿も苦戦するのでは? いや、もしかして、クライドに喰らわれてしまうかもしれませんね。それでよろしいのですか?」
「良いも悪いも、ここでクライドに喰らわれるようなら、それまでのやつだったと言うことだ」
「なるほど」
「お前も良いのか? ここでライムが喰らわれて」
「それは困りますね~ライム殿を食らい、パワーアップするのは私なのですから」
「さあ、戦いの様子を見に行くぞ」
「他の武器はよろしいので? この破魔弓ガーディアもなかなかの優れものですよ。これも悪魔を浄化することができる。でも、矢に限りがあって、弓ですので、矢がなくなれば使えませんが」
「武器など、ひとつ、あれば十分だ。こんなものに縋っていては、エスカルの二の舞になる。自らの能力を磨く以外、ここで生き残る道はない」
「確かに、おっしゃる通りです」
二人はふわりと舞い上がると、窓から出て行った。