#07 邪悪な悪魔の狐
「何? こいつ」
部屋の隅で鎖に繋がれていた小さな生き物をつまみ上げて、ボニーが言った。
「狐・・・か?」
「そうみたい」
ボニーに首根っこをつまみ上げられた狐らしき生き物が、じたばたとあがきながら言った。「止めろ! 降ろせよ」
「おや、言葉をしゃべるみたい。長生きしたのね」
「人間世界でよほど悪いことをしたようだな。だから、こうして魔界に転生した」
魔界で人の姿以外の形をした悪魔は珍しい。
「僕は人間世界で三百年、生きた化け物狐だったんだ。お前らとは格が違う!」
「へえ~格が違うってよ」
クライドが腹を抱えて笑う。
「ふふ。可愛いわね。飼っても良いかしら」
ボニーが狐の頭を撫でた。
「止めろ! って言ってるだろう。僕を放せ」
「どうやら、お前、エスカルに飼われていたみたいだな」
「うるさい!」
「大人しくしないと喰らうぞ」とクライドが脅すと、狐は静かになった。
エスカルが倒され、喰らわれるのを見た。こいつらは強い。
「あんた、名前はないのかい?」とボニーが尋ねた。
「名前くらいあるさ。僕の名前はクスコ」
「クスコ?」
「良い名前だろう。母さんがつけてくれた」
「化け狐にも母親がいたのか?」
「僕だって、最初は普通の狐だったんだ」
クスコが身の上を語り始めた。
クスコは山で生まれた。二匹の兄と姉のタマリ、そしてクスコの四匹が同時に生まれた。ある日、山が燃えた。山火事だ。後で知ったが、麓で起きた人間同士の争いで火が飛び火し、山に燃え移ったのだった。母狐はクスコとタマリを救いだすだけで精一杯だった。この火事で兄、二匹を失った。
それでも三匹で生きて来た。
ところが、また人間だ。今度は狩りを始めた。山を走り回る猟犬に見つかってしまった。クスコたち三匹は猟犬に追い立てられ、木の根にできた穴に隠れた。
「あなたたちはここに隠れていなさい。私が囮になる」
そういって母狐は穴から出て行った。
そして、戻って来なかった。
クスコはタマリと二匹になった。
優しくて頼りになる姉、タマリはクスコにとって大切な存在だった。だが、人間はそんな二匹の仲さえ引き裂いて行く。
餌を求めて山をさまよっていて、タマリが人間の仕掛けた罠にかかった。トラバサミが足にがっちり食い込んでいた。逃げられなかった。
タマリに頼まれた。
「クスコ。お願い。私を殺して。喉笛を噛みきってちょうだい。このまま人間に殺されるのは嫌。殺されるなら、あなたが良い。お願い。クスコ。私を殺して」
クスコには出来なかった。
「タマリ。僕には出来ない。姉さんを嚙み殺すなんて、そんなこと、僕に出来る訳ないじゃないか」
クスコはタマリの側から離れなかった。
やがて、ざわざわと草木を揺らしながら、人間が近づいて来る気配がした。
「クスコ、クスコ。もう時間がない。私が人間になぶり殺されても平気なの? お願いよ、クスコ。私を殺して」
「姉さん!」クスコは姉の喉笛を噛みきった。
クスコは草陰から罠を見に来た人間を見た。その人間が首に巻いていたのは、母狐の毛皮だった。
クスコは泣いた。呪った。人間たちを、呪って、呪って、呪っていると悪魔が現れた。
「お前に力をやろう。人の魂を集めるのを手伝ってくれ」
悪魔はノバクと名乗った。ノバクから自由に姿を変えることができる能力を授けられた。
そして、ノバクの魂集めを手伝った。
「どうやって魂を集めるの?」ボニーが聞く。
「簡単さ。人は金というものを奪えば、勝手に殺し合いをしてくれる」
知り合いに化けて、人の家に盗みに入る。金を盗み、知り合いの家に放り込んでおく。すると、金を盗まれた人間と知り合いとが殺し合いを始めるのだと言う。
「なるほどね~」とボニーとクライドが頷いた。
人間であった二人には、よく理解できた。
「そうやって魂を集めていたんだけど、目立ち過ぎちゃったみたい。悪魔祓いに目をつけられてしまった」
ノバクとクスコは悪魔祓いに誘い出され、ノバクは浄化され、クスコは悪魔祓いと共にいた剣士に切られたのだと言う。
「ふふん。それでも三百年、生きたんだ。一体、何人の魂を奪った?」
「覚えていないよ」
その時、「クライド!」とボニーが叫んだ。
「やつらが来たわよ」
ライムたちが姿を現したのだ。