#05 魔界の街
そこには街と言うより、要塞といった方が相応しい、異様な建物だった。
建物は円形をしており、中央部がぽっかりと空間になっている。円形の広場があるのだ。その広間を囲むように三階建ての建物が建っている。
ボニーとクライドは入り口の前で、建物を見上げて言った。
「これが、やつらの言っていたハイタウンか」
「立派な建物ね。銀行強盗をしていた頃を思い出す。なんだか、わくわくしてきちゃった」
「そうだな。ふふ」
建物の入り口は一か所しかない。
入り口を潜る。敵が責めて来た時は門を閉じ、籠城できるようになっていた。
広場の中央に、先ほど、捕獲された悪魔たちが檻に入れられ、放置されていた。見張りに立っていた青き悪魔たちが「誰だ?」とボニーとクライドに近寄って来た。
「エスカルのもとに案内しろ」とクライドが命令する。
「エスカル様のもとへ? お前、ふざけているのか」
青き悪魔は手に持っていた鞭をしならせた。だが、それより早く、クライドが手刀を切る。すると、すぱと鞭を持った青き悪魔の腕が切れて飛んだ。
「何だ⁉」
わらわらと青き悪魔が集まって来る。
クライドは目にもとまらぬ速さで移動する。一瞬、姿を現すと手刀を切る。すると、その先にあるものがすぱと切れる。まるで、目に見えない鎌が飛んでいるかのようだ。そして、姿を消すと、また別の場所に姿を現す。瞬間移動しているようだ。
手や足、頭を切られた青き悪魔までいた。
悪魔に実体はない。手や足を切られても、痛さは感じるようだが、消えたりしない。失った手足は拾い集めて、くっつけるか、再生するのを待てばよい。だが、手を失っては抵抗できないし、足を失っては動けない。
無抵抗の悪魔たちをボニーは次々と飲み込んで行った。
二人の姿に恐れをなした青き悪魔たちが、ばらばらとハイタウンから逃げ出して行った。
「雑魚は放っておけ」クライドが言う。
「うん」
広場の中央に置かれた檻の中にいる悪魔の一人が叫んだ。
「あいつらをやっつけてくれたのか。良かった。助けてくれ。ここから出してくれ」
その言葉に、建物に向きかけたクライドが足を止めた。そして、大きく手刀を切った。見えない鎌は檻を真っ二つに切断した。
半分になった悪魔たちをボニーが平らげた。
「ご馳走様」
「雑魚はくれてやる。俺はエスカルをいただけば満足さ」
「ふふ」
二人は建物の中に入った。
驚いた。薄暗いことを除けば、まるで人間世界のホテルのロビーのようだった。建物内に残っていた青き悪魔たちが侵入者に気がついて、「何者だ⁉」と駆け寄って来た。
「エスカルは何処にいる?」
クライドは手刀を振るって、駆け寄って来た悪魔たちを切り刻んだ。
「親分は何処にいるの? 教えて」とボニーが上半身だけになった青き悪魔の耳元で優しく囁いた。
「上だ。三階にいる」と悪魔が答えると、「ありがとう」と言って、床に蠢いていた悪魔たちを片っ端から飲み込んで行った。
部屋の掃除が終わると、「三階に行くぞ」とクライドが声をかけた。
奥にエレベーターまであった。
「罠かもな」
「危ないわね」
ちんと音が鳴って、エレベーターが三階で止まった。
扉が開く。その瞬間、扉の前で待機していた青き悪魔たちが一斉に自動小銃をエレベーターに向けて撃ち始めた。
もうもうと白煙が上がり、あっという間にエレベーターがハチの巣になる。
青き悪魔たちはしつこいほどに撃ち続けた。
「もう良い。止めろ」
背後から声がする。
電動式の車椅子に乗った、でっぷりと太った悪魔が現れた。エスカルだ。これで白いエプロンでもしていると、肉屋の主人にしか見えない。
青き悪魔たちがエレベーターの中を確かめる。誰もいなかった。
「エスカル様、いません!」
青き悪魔が叫んだ瞬間、ガシャンと窓ガラスを割って、クライドが飛び込んで来た。
「しまった!」
「馬鹿め。お前らの考えなど、お見通しだ」
「しかし、銃までつくりだしているなんて、恐れ入ったわ」とボニーがクライドに続いて、部屋に飛び込んで来た。
クライドが手刀を切る。
ばたばたと部屋にいた青き悪魔が倒れた。