#02 ボニー&クライド
千九百三十年代、アメリカ。
アメリカを皮切りに世界中で巻き起こった世界恐慌の真っただ中、一組のカップルがアメリカ全土を熱狂の渦に巻き込んだ。
ボニー&クライドだ。
クライドが店に入って強盗を働き、その間、ボニーが車で待機。強盗を終えたクライドを車に乗せると、一気に州境までに走り、隣の州に逃げ込む。この手口で強盗を繰り返していた。まだFBIの無かった時代だ。警察は州を越えて捜査を行うことができなかった。
女優を夢見た、若く、美しいボニーの写真が新聞に掲載されると、二人は一気に人気者となった。世界恐慌の嵐が吹き荒れていた当時、人々は二人の姿を見て憂さを晴らしていたのかもしれない。
それを知ったボニーとクライドは、悪いやつから金を盗む、義賊を気取った。
「私たち、地獄に落ちるわね」
助手席のボニーが言う。
二人は愛車、フォードV8を走らせ、アイビーの農場に向かっていた。
「地獄でも二人、一緒だ」
「うん。あなたと一緒にいる」
「悪魔どもを従え、地獄でバロウ・ギャングをつくってやる」
バロウ・ギャングはクライドのつくったギャング団だ。アイビーはギャング団のメンバーの父親だった。暫く、匿ってもらう為、アイビーの経営する農場を目指していた。
「面白そうね。地獄にも店や銀行があるのかしら」
「さあね」と言ってクライドは「へっ」と笑った。
一時期、世間のヒーローとなった二人だったが、交差点で立ち往生した彼らを助けようとバイクを止めた二人のハイウェイパトロールを撃ち殺し、その後、六十歳の警官を撃ち殺したことにより、二人の評判は地に落ちた。
義賊でも何でもない、所詮は血に飢えた犯罪者に過ぎないことを世間は悟ったのだ。彼らに吹いていた追い風が逆風に変わりつつあることに、ボニーもクライドも気づいていた。
沈黙の後、クライドが言った。「ロイはどうする?」
「ロイ?」とボニーは眉をひそめた。
ボニーは十六歳の時に、同級生のロイと結婚している。
「あいつも地獄に来るぞ」
「嫌なこと言う・・・」
ロイは強盗で五年の実刑判決を受け、服役している。似た者同士の夫婦だった。その後、ロイとは会っていない。クライドと出会い、恋に落ちたからだ。
「地獄が刑務所みたいだったらどうする?」と今度はボニーだ。
「嫌なことを言いやがる」とクライドが顔をしかめた。
クライドは刑務所にいるのが嫌で、足の指二本を切り落としている。
「あれ、アイビーのトラックじゃない?」
「うん。ああ、そうだ」
「故障しているみたい」
道端にアイビーのトラックが停まっていた。
猛スピードで疾駆していたフォードはスピードを落とした。
クライドが確かめようと首を伸ばした時、
――ゴオ~ン!
と反対側の道端から轟音と煙が上がり、クライドの頭が破裂した。
「きゃあああ――!」とボニーが叫んだ時には、道端から六人の警官が飛び出して車を取り囲み、雨あられと銃弾を浴びせかた。
今まで何度も修羅場を潜り抜けて来た二人だ。完全に息の音を止めるまで油断はできなかった。警官たちは車が動きを止めるまでショットガン、自動小銃、ピストルを撃ち続けた。
車は制御を失い、道端に突っ込んで動かなくなった。
実に百十二発の銃弾が車に撃ち込まれていたという。
二人は穴だらけになって死んだ。