#27 おのれが犯した罪を知れ!
城に戻ると、ヴァンサンが樹木に囚われていた。
だが、流石はヴァンサンだ。樹木に囚われながらも、足掻き続けていた。絡みつく枝を怪力で引きちぎり、払いのけ、抜け出そうとしていた。バトムはヴァンサンを制圧しようと必死だった。
バトムの背後には、エルジェーベトが椅子に優雅に腰をかけて見ている。
「不味そうなやつだ。バトムを。そなたにくれてやろう。存分に喰らうが良い」
エルジェーベトはそう言うと、「ほほほ」と笑った。
「姫様。直ぐに、あの女を捕まえて参ります。暫くの御辛抱を」
「焦らずとも良い。若い女を喰らったばかりだ」
ボニーのことだ。ヴァンサンがぎりぎりと歯ぎしりをする。
「ぐわわっ~!」
ヴァンサンが狂ったように暴れる。絡みつく樹木を引きちぎるのだが、樹木の勢いに負けそうだ。いずれは力尽き、樹木に絡み取られてしまうだろう。
そこにライムが飛び込んで来た。
「ヴァンサン!」
「おうっ。ライム。無事だったか」
「助けてくれてありがとう」
「ふん」
魔界で礼を言うやつなど珍しい。
ライムは「今、解放してあげる」と言って、手刀を切る。見えない鎌が飛んで行って、ヴァンサンに絡まりついていた枝を切断する。クライドが持っていた見えない鎌を繰り出す能力だ。
「おうっ!」とヴァンサンが樹木から解き放たれた。
「そうはさせませんよ~」バトムはあきらめない。指揮者のように両手を揮うと、床を割って、樹木が次々と伸びて来た。樹木は枝を伸ばし、ヴァンサンとライムを虜にしようとする。
樹木がライムに絡みつく。
次の瞬間、ライムは別の場所に移動していた。分身したのだ。アズムから奪った分身する能力だ。
「無駄だよ」
ライムが掌を広げてバトムに向けると、樹木は伸びるのを止めた。いや、樹木が動きを止めたのではない。バトムが動きを止めたのだ。
フリーズが持っていた相手の動きを止めてしまう能力だ。
ヴァンサンが伸びかけの樹木をなぎ倒しながら、突進すると、片手でバトムを掴んだ。そして、思いっきり床に叩きつけた。
「ぐえええっ!」と悲鳴を上げて、バトムが床に叩きつけられる。
それでもヴァンサンは容赦しない。床に伸びたバトムを、ゴキブリでも踏みつぶすかのように、何度も踏みつけた。
床に伸びていたバトムが床にめり込んで行く。体中の骨がばらばらになって、バトムは動けなくなった。
「ひえっ!」とそれまで成り行きを見守っていたエルジェーベトが逃げ出す。
「うぬっ!逃げさぬぞ」とヴァンサンが怒気を含んだ声で叫んだ。
ひょうと跳躍すると、走り去ろうとするエルジェーベト目の前にどすんと舞い降りた。
「下郎めが。私に触れるではない! 下がれ、下がれ」
エルジェーベトが命令するが、ヴァンサンは相手にしない。じりじりとエルジェーベトに近づいて行った。
「誰か~私を助けるのだ~」
わらわらと下僕たちが部屋に雪崩れ込んで来た。ライムは下僕たちの前に立ち塞がる。
「どけ!」、「姫様をお助けするのだ」
押し寄せる下僕に、ライムが指先で軽く触れる。
「ぐえっ!」と下僕が悲鳴を上げて、霧になって消えて行った。ライムに触れる悪魔は、全て浄化されてしまう。
「無駄だよ」
ライムが次々と下僕に触れると、浄化して消えて行った。
「うわわわわ~!」
下僕たちがドアに殺到し、押し合い圧し合いしながら部屋から逃げ出した。
「どうやら、見捨てられたようだな」
「うぬぬ。魔界でも役に立たないものたちよ」
「ボニーの仇だ。おのれが犯した罪を知れ!」
ヴァンサンは顎を外して大口を開けると、一口でエルジェーベトを飲み込んだ。




