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落ちこぼれの悪魔~ライム・ザ・デビル  作者: 西季幽司
アサシン・バトムの章
22/29

#21 セイレンとボニー

 荒れた荒野を二つの陰が歩いていた。

「セイレン。歌うのは止めて、私は音を操ることができるけど、それでもあなたの歌を聞いていると眠くなってしまう」と言ったのはボニーだった。

「ごめんなさい。楽しくなってしまって」と悪魔少女、セイレンがうなだれる。

「あなたの能力は歌ね。あなたの歌を聞いたやつは、皆、眠ってしまう」

「私の能力・・・」

「そうよ。あなたはその能力を使って、魔界で生き抜いて行かなければならないのよ。襲って来る悪魔たちを歌で眠らせてしまえば良い。そして喰らうの」

「・・・」

「嫌なこと、言ったかしら。悪かったわね。さあ、手を繋いであげる」

 ボニーが手を差し伸べると、セイレンが嬉しそうにその手を握った。

 ボニーはふと思った。子供の身で魔界に生れ落ちた悲しい少女。それがセイレンだ。この先、成長することがあるのだろうか。

 魔界で子供は珍しい。大抵は大人の姿で魔界に転生して来る。子供では魔界に転生するような悪行を簡単に出来ないからだ。セイレンは一体、人間世界で何をしたのだろうか。

 ボニーと手を繋いでセイレンはご機嫌だった。ボニーが止めろと言ったのに、また歌い始めた。

「ボニー。城だ。城がある。ライムは城に向かった」

 突如、大声がした。

「どわっ!」

 ボニーが飛び上がる。

 ヴァンサンだった。

「いきなり声をかけないでよ!」

 ボニーがしかりつけると、「す、すまない」とヴァンサンは素直に謝った。

 アズムに手を貸し、気を失ったボニーをヴァンサンが救い出してくれた。


 ――ライムもヴァンサンも甘い。


 とボニーは思う。気を失った悪魔など、喰らってしまえば良い。それだけだ。私ならそうする。それが魔界の掟だから。

 ボニーが目を覚ますと、ヴァンサンは「俺は悪魔を引き付けてしまう。そういう性質だ。だから、お前から離れる。だけど、何処かで見守っている。だから、安心しろ」と言って、姿を消した。

「馬鹿みたい」とボニーは言ったが、この魔界で、いや、人間世界でも、これだけボニーのことを気にかけてくれた者はいなかったかもしれない。

 言葉通り、ヴァンサンはボニーを見守っていた。時折、ちらと姿が見える。その度、「馬鹿みたい」とボニーは嬉しそうに呟いた。

 そして、レンドとセイレンに出会った。

 二人の存在には気がついていた。レンドがセイレンを救う場面を目撃したからだ。レンドがセイレンを喰らわず、二人並んで歩き始めた時は、「何をするつもりだろう?」と思った。

 何か企みがあってセイレンを連れて歩いているのだと思ったが、その後、何も起きなかった。レンドは本気でセイレンのような、か弱い悪魔を道連れにしたようだった。


 ――ライムの近くにいると、悪魔が悪魔で無くなってしまうようだ。


 と思わずにはいられなかった。

 ヴァンサンと離れ、一人になったボニーはライムを追い続けた。そして、レンドとセイレンに再び出会った。

 レンドはボニーと出会うと、これ幸いとセイレンの世話を押し付けた。

「俺はちょっと辺りを見回ってくる」と言っては、ふわりと宙に舞い上がり、姿を消してしまう。何処かで悪魔の魂を喰らい、力をつけようとしているのだ。

 今もレンドは何処かに行ってしまって、ボニーがセイレンの面倒を見ていた

「良いよ。私をセイレンと二人っきりにして。この子を喰らってしまうかもしれないわよ」とレンドに言うと、「喰らいたけでば喰らえば良い。俺には関係のないことだ。だが、ひとつ、言っておく。お前がこいつを喰らえば、俺はお前を喰らってやる」

 レンドはそう言う。

 レンドのような冷酷な悪魔が、セイレンに対して、特別な感情を抱いているのだろうか。

「城って、あの、王様がいて、お姫様がいるような城のこと?」とボニーはヴァンサンに聞いた。

「そうだ。あのご領主様が住んでいたみたいな、お城だ」

「そんなものがここにあるの?」

 魔界に城とはびっくりだ。

「ある。俺も驚いた。しかも、周りは草木でいっぱいだ」

「水が無い魔界に草木が生えているの?」

「そうだ」

「ふ~ん。なんだか、怪しいわね」

「そうだな。怪しい」

「私、ちょっと様子を見て来る。ヴァンサン、あなた、ちょっと、この子の面倒を見ていて」

「お、俺がか――!」

「そうよ。あなたよ」

「でも・・・」

「城があるのなら、辺りに大勢、悪魔がいるはず。悪魔が大挙して襲って来たら、私にはこの子を守り切ることなんて出来ない。自分の身を守ることで精一杯。でも、あなたなら、大勢の悪魔を相手に戦うことができる。この子を守ることができるはず」

「そう言われても・・・」

「レンドが戻って来るまでよ」

「レンドは何処に行った?」

「知らない。何処かで悪魔を喰らっているはず」

「ふん。野蛮人め」

「あなたが言う?」

「それもそうだ」

「頼んだわよ」と言ってボニーが走り出した。

 ヴァンサンはその後ろ姿を見送った。

 隣を見ると、セイレンがヴァンサンを見上げて、手を差し伸べた。

「な、なんだ?」

「お手て、繋ごう」とセイレンが笑顔で言った。

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