表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

#01 最初の刺客

 魔界は嫌いだ。

 魔界は暗い。闇夜のような暗さではない。薄暗くて、赤黒いのだ。

 人間世界には昼夜というものがあるらしいが、ここにはない。時が流れないので、赤黒い世界が何の変化もなく、延々と続いている。

 ライムは辺りを見回した。

 ライムを喰らおうと悪魔が集まっていた。

 喰らいたいなら、喰らえば良い。魔界になど、興味はない。他者を喰らって強くなりたいとは思わない。このまま誰かに喰らわれて、消えてしまったっていい。

「さあ、おいでよ」とライムが挑発する。

 悪魔たちが近寄ってくるが、ライムがずいと一歩近づくと、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。ライムが持つ清く正しい心が恐ろしいのだ。それに触れてしまうと、浄化されてしまう。

 カイアムが言った。「十人の刺客を送る」と。彼らにライムを喰らう能力を持たせると。彼らに喰われたっていい。だけど・・・とライムは思う。

「一度、人間世界を見てみたい」

 最近、そう思い始めた。

 何故か人間世界の記憶があるのだ。

 そこは光で溢れていた。美しい世界だ。時が流れ、風が吹き、夜が来る。仲間同士で喰らい合うような殺伐とした世界ではない。人は慈しみの笑顔を浮かる。悪魔が浮かべるのは嘲笑の笑顔だ。人は涙を流す。悪魔は後悔などしない。人は人を愛する。ライムは愛を知らない。愛を知ってみたかった。

 投げやりな自分と人間世界を見たくて仕方ない自分がいた。どうしたら良いのか、ライム自身にも分かっていなかった。

 ただ、刺客が訪れるのを待っていた。そして、何かが変わるのを。


 ライムを取り囲む悪魔たちの群れが別れ、一筋の道が出来た。

 その道を一人の悪魔がやって来る。その悪魔を見て、(良かった)とライムは思った。

 悪魔は人の姿をしている。服を着ているし、帽子を被っていたりもする。やって来る悪魔がスラリとした体型の見栄えの良い悪魔だったからだ。えんじ色の上下のスーツをぴしっと身にまとっている。見かけだけで、ライムを取り囲んでいた悪魔どもと違うことが分かる。野獣のような悪魔に喰らわれるのは嫌だった。喰らわれるなら、スマートな悪魔に喰らわれたかった。

「待っていました」とライムが言うと、「私はフリーズ。あなたを喰らいに来ました」と言った。

「僕に近づくことが出来ますか?」

「大丈夫でしょう」

「逃げた方が良いですか?」

「逃げたって同じことです。さあ、心の準備は出来ましたか?」

「いえ。どうしようか、まだ迷っています」

「私と戦うのですか?」

「僕に戦いなんて無理です」

「では、喰らわれなさい」

「それも嫌なのです。僕には――」

 夢がある、なんて言うと悪魔どもは腹を抱えて笑うだろう。

「僕には、何です?」

「あなたは人間世界を見たことがありますか?」

「ありませんよ。だから、あなたを喰らい、レベルを上げて、悪魔評議会のメンバーになるのです。そして、人間世界に行って、魂を集める」

「僕を喰らうとレベルが上がるのですか?」

「ええ。それはもう」と言ってフリーズは楽しそうに笑った。

 フリーズの話を聞いて、我慢できなくなったようだ。ライムを取り囲んでいた悪魔たちが、「俺だ」、「俺が先だ」、「レベルを上げるのだ!」と群がって来た。

「止めてくれ!」

 ライムは両手で頭を覆って蹲った。

 悪魔たちがライムに押し寄せる。

 一人の悪魔がライムに触れようとした、その瞬間、


 ――ひやあわああああ~!


 と奇妙な叫び声を残して、光に包まれ、消えて行った。ライムを押し囲んだ悪魔たちが次から次へと光の粒子に変わって行く。赤黒い世界で、そこだけ明るくなった。

 清く正しい心に触れた悪魔は浄化されてしまうのだ。

「それくらいにしておきなさい!」

 フリーズが声を上げると、突然、静止画のように悪魔たちの動きが止まった。

「やはり、並みの悪魔では、あなたを喰らうことが出来ないようですね」

 フリーズが言う。

 恐る恐るライムが立ち上がる。

「さあ、どきなさい」

 フリーズが言うと、動きを止めていた悪魔たちが、呪縛から解き放たれたかのように動き出し、ごそごそとライムとフリーズを遠巻きに取り囲んだ。

「それでよろしい」

「あなたの能力は――」

「私は他者の動きを止めることができるのです。もういいでしょう。私に喰らわれなさい!」

 ライムは金縛りにあったかのように。動けなくなった。

 悪魔が悪魔を喰らう瞬間はグロテスクだ。顎が外れたかのように、口が大きく開いて、相手を一飲みで飲み込んでしまう。

 フリーズが大きな口を開けた。

 そして、そのまま固まった。

「あなたは、自分の能力を受けたことがないようですね」とライムが言う。「僕が持っている、たったひとつの能力は、自分が受けた能力をそっくりそのままコピーできる能力なのです。あなたは、能力を僕に使った。だから今、あなたの力を使って、あなたの動きを止めてみました」

 清き正しい心は能力ではない。属性のようなものだ。ライムが持っている能力、それは他者の能力をコピーする力だった。

 ライムがフリーズに歩み寄る。

 清き正しい心を持っているライムは孤独だ。誰も傍に近寄ることができない。近寄ると光に包まれ、浄化されてしまうからだ。

 フリーズは浄化されない力をカイアムから与えられていた。

 手が触れる距離に近づいた。そんな悪魔はフリーズが初めてだった。

 すると、次の瞬間、ライムは大口を開け、フリーズを飲み込んでしまった。

「ああっ! 喰らってしまった」

 ライム自身が驚いてしまった。悪魔の習性が発動したのだ。戦いに敗れた悪魔を喰らってしまう。それは悪魔としてライムが持って生まれた(さが)だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ