#17 囮
「なあ、ライム。タルヴァザって何処にあるんだ?」
ミリの腕に抱かれたクスコが尋ねる
「デビルズタワーにあるらしい」
「デビルズタワーって何処にあるんだ?」
「魔界で一番、高い山だって。だから、高い山を目指して歩いている」
荒れた平地の続く魔界だが、わずかに起伏がある。山もあって、遠くから見ることができた。
「ふ~ん。そうなのか。タルヴァザって地獄の門のことだろう。それを潜れば人間の世界へ行けるっていう。人間の世界に行ってどうする?」
「クスコは人間の世界を知っているんだったね」
「やつら、悪魔以下だぜ。ひどいところだ」
「そうかい。それでも行ってみたいんだ」
ライムは何故か懐かしい顔をする。
「ふ~ん」
「タルヴァザに行くのが嫌なら、ついて来なくても良いよ」
「俺はお前らについて行く」
「何故だい?」
「俺、一人じゃ弱いから」
「そうかい。でも、クスコ、君は巨大な怪獣にだってなることができるじゃないか」
「あれは見かけだけさ。十倍の大きさになっても力が十倍になる訳じゃない。大きくなっても、俺は俺のままさ」
「そうなのかい」
「だから、ライム。お前と一緒にいる。お前は俺のこと、ペットにしない。お前は俺のこと、喰らったりしない。お前は強そうだ。それに・・・」
「それに?」
「ミリがいる。ミリはどこか・・・」クスコはするりとミリの腕から抜け出して言った。「タマリに似ている」
タマリはクスコの姉だった狐だ。
「あら、そう」とミリが言う。満更でもなさそうだ。
クスコは照れたのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、二人を置いて駆けて行った。
調子に乗って、行き過ぎた。気がつくと、後ろから来るライムとミリが見えなくなっていた。
「そこの狐」と呼び止められた。
「誰?」
「私だ」ボニーだった。
「何だ、お前か。何か用か?」
「用事があるから呼び止めたんだ」
「何だい?」と首を傾げるクスコに近づくと、ボニーは首根っこを掴んだ。
「あっ!何をするんだ」
野生動物の習性のようなものだ。首根っこを捕まえられると、抵抗できない。しかも、変身能力も使えなくなってしまう。
「お前には囮になってもらうよ」
ボニーはクスコの首根っこを押さえて、仁王立ちになったままライムとミリが近づいて来るのを待った。
「止めろ!」
ようやくライムとミリが追いついて来た。
「お前は・・・」
ボニーの姿を見つけたライムが呟く。
「こいつは預かったよ」とボニーが背中を向けて駆け出した。
「ま、待て!」とライムとミリが後を追う。
その様子をアズムが空から眺めながら、「その調子だ」とほくそ笑む。
ボニーはライムたちを袋小路になった谷筋に誘き出すことに成功した。崖で行き止まりになった場所まで来ると、ボニーはくるりと振り返ってライムたちがやって来るのを待った。
「止めろよ! 放せ」とクスコが暴れる。
「ほら、そんなにやつらが良いなら、放してやるよ。戻りな」
ボニーがクスコの首根っこから手を放した。クスコが飛び跳ねながらミリのもとに戻った。
「みなさん、ようこそ、いらっしゃいました」
背後から声がする。
ライムが振り返ると、アズムが谷筋を塞ぐようにして立っていた。それも一人じゃない。五人のアズムが横に広がって、ライムたちを逃がさまいと立ち塞がっていた。
「ライム、罠よ!」ミリが叫ぶ。
「そうみたいだね」
「見物はこれからですよ~!」と頭上から声がする。
アズムだ。もう一人、アズムがいた。
「まだいたのか!」
「私は無限に分身することができるのですよ」
空中に漂うアズムは手に持っていたライトニングソードを振るった。