#16 仲間割れ
「あの女が破魔弓を持っているとは、ちょっとした計算違いだった。ハイタウンで見た時に破魔弓を始末しておけば良かった」
アズムが地団太を踏んで悔しがる。ヴァンサンを使って乱戦を演出し、戦いを有利に進めることが出来ていた。ミリの破魔矢が無ければ、ライムを喰らうことができたかもしれない。
「いいか。ヴァンサン、次はお前があの女を喰らうのだ」
「あの女を⁉」
「そうだ。お前、ライムにビビりやがって、役に立たなかったじゃないか。だったら、女の相手をしろ。あの女なら触れても浄化しない。女を喰らうのだ」
「女を喰らうのか?」
「おいおい。何だ? まさか女の成りをしているからといって、喰らうのが可哀そうだとか言うんじゃないだろうな。見た目なんか関係ない。中味は悪魔だぜ」
「女は嫌だ」
「こいつ・・・」
ギラりとアズムがライトニングソードを抜く。「私の言うことを聞けないようなら、喰らってやるまでよ」
それを見たヴァンサンは「うがっ!」と大声を上げると、アズムに突進して行った。ヴァンサンの鍵爪がアズムを襲う。アズムが間一髪で交わすと、ヴァンサンは振り返りもせずに、走り去って行った。
「ふん。逃げ足の速いやつめ」
アズムはライトニングソードを背に背負った鞘に納めた。
「私が力を貸してあげようか」
女が現れる。ボニーだった。二人の様子を何処からか見ていたようだ。
「ほう~あの時の女か」
アズムはレンドと共にクライドとボニーがライムと戦うのを見ている。
「私だったら、女だろうが何だろうが、気にせずに喰らってやるよ」
「良いね。お前に頼もう」
「私があの女を喰らってやるから――」
「分かっている。ライムは私が喰らってみせる。仇をとってやるよ」
「そうと決まれば、行くよ」
「まあ、待て。作戦を立ててからだ。闇雲に戦いを挑んでも、やつには勝てない」
「面倒な男だね」
「お前、確か音を操ることができたな?」
「ええ、だが、やつには効かないわよ」
「分かっている。とにかく、やつの動きを封じることだ。やつはこちらの動きを封じる能力を持っている。それが厄介だ」
「そうね」
アズムは暫く考えてから、「乗れ」と言った。
「えっ⁉」
「背中に乗れ。お前は飛べないだろう。空から探すのだ」
「な、何を?」
「決戦場だ」
アズムはボニーを背負うと、ふわりと空に舞い上がった。かつてはクライドの背中に乗って移動していた。そのことを思い出した。
上空から地形を確かめる。
魔界は基本的に平で岩盤がむき出しになった土地が広がっている。草木は生えていないし、川も流れていない。それでも、起伏があって、山や谷がある。
「何を探しているの?」とボニーが聞くと、「袋小路だ」とアズムが答える。
「袋小路?」
「やつらを追い詰めることができる場所が必要なのだ」
何か戦略を思い付いたようだ。やがて、「ここだ!」とアズムが叫んだ。理想的な場所を見つけたのだ。確かに、切れ込んだ谷が奥で広がって、袋小路の広場のようになっている。
谷を見下ろすことができる場所に舞い降りると、「場所はここで良い。後は、やつらをどうやってここに誘い込むかだな」とアズムが言った。
「ああ、それなら任せておきな」
「何か考えがあるのだな」
「まあね」
「では、やつらをここに誘い込むのは任せた。後は上手く出来るかどうか、少し試してみよう」と言ってアズムがスラリとライトニングソードを抜いた。
「あんた・・・」ボニーが身構える。
「心配するな。お前を斬ったりしない。お前は音を操ることができる。音を増幅させることも出来るんだろう?」
「勿論だ」
「じゃあ、お前の能力とこの剣の力を使って、やつらを地面にひれ伏させてやろう」
「ああ、いいね」
何を始めるのか分からなかったが、ボニーは急に楽しくなって来た。面白いやつだ。こいつはクライドとは違う、知恵を持った悪魔だ。