#13 悪魔少女
魔界では、悪魔は泡のように湧いて出る。
ところ構わず、突然、湧いて出る。生まれたての悪魔は脆弱だ。これほど襲いやすいものはいない。周りに悪魔がいると、直ぐに喰らわれてしまう。
レンドはふわふわと宙に浮くことができるようになった。
能力ではなく、属性のようなものだ。
斬魔剣を背に抱え、レンドは宙に浮きながら、移動していた。
ふと眼下に目を遣ると、一人の悪魔が生れ落ち、周りにいた悪魔たちが、それを喰らおうと集まり始めていた。
見慣れた光景だ。
何時もなら無視するのだが、何故か気になった。悪魔たちに囲まれている悪魔が、見たことがない悪魔だったからだ。
悪魔は少女の姿をしていた。
悪魔たちに憐憫の情などない。父性本能、母性本能など持ち合わせていない。子供の姿をしていても、守ってくれようとする悪魔などいない。
悪魔少女に群がる悪魔たちは、お互いに牽制し合いながら、包囲網をじりじり狭めていた。誰よりも先に悪魔少女に喰らいつきたいのだが、弱肉強食の世界だ。うかつに戦いを挑んで、相手の力量を測り間違えば喰らわれてしまう。隣の悪魔より先に喰らいたは良いが、その隙に自分が喰らわれてしまっては元も子もない。
(丁度良い)とレンドは思った。
悪魔少女を包囲する悪魔たちの背後にふわりと舞い降りると、ギラりと斬魔剣を抜いた。
(試し斬りだ)
レンドは悪魔たちを背後から無言で斬りつけた。
「うぎゃ~!」、「げええ~」
凄まじい威力だ。
致命傷を与えなくとも、切っ先が触れるだけで、悪魔たちが浄化して行く。
「うわっ!」、「ひええええ~」
逃げ惑う悪魔たちを追いかけ、レンドは斬り続けた。
悪魔たちは逃げ去ってしまった。
「ふむ。こいつは使えるな。だが、アズムが言っていたように、浄化してしまうのが難点だ。少しは喰らっておけば良かった」
レンドはそう独り言を言うと、斬魔剣を背に負った鞘に納めた。
立ち去ろうとするレンドに、「あの」と声をかけたものがいた。
悪魔少女だ。
「何だ?」
「助けてくれて、ありがとう」
「助けた? 馬鹿なことを言うな。お前など、どうなっても良かった。俺はただ、この剣の試し斬りをしてみたかっただけだ」
「それでも、助かった」
「そうか」
「私はセイレン」
「・・・」名乗ったものかどうか、レンドは迷った。
「名前くらい教えてくれても良いじゃない」
「レンドだ」
「レンド・・・」
「お前の能力は何だ?」とレンドが聞く。
「私の能力? 分からない」
「いいか。お前は弱くて小さい。お前のような悪魔は、生れ落ちて直ぐに他の悪魔に喰らわれてしまうものだ。だがな、お前のように弱くて小さい悪魔は、生れ落ちた時から能力を持っているものが多い。お前の能力は何だ? それを早く知ることだ」
「そうなのね」
「ああ、まあ、喰らわれないように頑張れ」とレンドが歩き始めると、セイレンがついて来る。歩幅が違う。セイレンは時折、小走りになりながら、レンドの後をついて行った。
「ついて来るな!」とレンドが怒鳴ると、セイレンは足を止める。
だが、レンドが歩き始めると、また、その後をついて行くのだ。
(ああ、面倒だ)とレンドがふわりと舞い上がった。
セイレンに宙を浮くことなどできない。
置いて行こうとしたが、レンドがいなくなると、何処に隠れていたのか、直ぐに悪魔どもがセイレンに群がって来た。
「ああ! くそ。なんでこんなことになったんだ」
再び、レンドは舞い降りると、今度は斬魔剣を使わずに、悪魔を喰らった。悪魔たちがまた、姿を消した。
岩陰に隠れていたセイレンが出て来て、レンドの側にぴったりと寄り添った。
「くそっ!」
レンドが歩き始めた。今度はセイレンの歩幅に合わせて、ゆっくりと。
そんな二人を遠くから見つめる目があった。
ボニーだった。