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落ちこぼれの悪魔~ライム・ザ・デビル  作者: 西季幽司
アサシン・クライドの章
10/29

#09 ハイタウンでの決闘

「やあ~びっくりだね~魔界にこんなものがあるなんて」とライムはハイタウンを見上げながら言った。

「なんだか・・・」と言ってミリは言葉を飲み込んだ。

 趣味が悪いとでも言いたかったのだろう。

「誰もいないのかな?」

「入るのは止めた方が良い。悪い予感がする」とミリが止めたが、「大丈夫。あそこから入れそうだ」とライムはハイタウンに入って行った。

 初めて建物というものを見て、ライムは興奮していた。

「洞窟を潜るみたいだ」と入り口を潜ると、広場が広がっていた。

 中央には真っ二つになった檻が転がっていた。

「あの青い悪魔たち、いないね」

「・・・」

「捕まった悪魔たち、どうなったんだろう?」

「ライム。悪い予感がする。帰りましょう」とミリがライムの袖をつかんだ。

「うん。分かった」と踵を返すと、潜って来た入り口をふさぐように男と女が立っていた。

 ボニーとクライドだ。

 ボニーは胸にクスコを抱えており、「止めろよ。離せ」とクスコが喚いていた。クライドが正面に立ち塞がり、ボニーがゆっくりと背後に回る。

 これが彼らの戦闘形態だ。

「なんだ。もう帰っちゃうのか。お楽しみはこれからだぜ」とクライドが言う。

「そう。中には何があるの?」

「お前が見たことがないようなものがいっぱいだ。見て行くかい?」

「本当?」

「本当だとも。中はホテルのロビーみたいだ。ホテルって知っているか? 人間たちが旅行に行って泊るところだ。と言っても旅行が何だか分からないか」

「ねえ、ミリ。見に行っても良い」とどこまでもライムは能天気だ。

「私の側を離れないで」

 ミリは赤黒い闇の世界で薄く発光している。悪魔たちが忌み嫌う光をまとった存在だ。ミリが腕を組んで来たので、ライムはドキリとした。やはりミリは浄化されない。

「お嬢さんは邪魔だな~」

「ライムの側から離れない」

「そうかい? じゃあ、暫くじっとしておいてもらおうか?」

 クライドが手刀を繰り出した。エスカルを食らった効果だろう。くるくると鎌が回っているようだった手刀が、大きな車輪のようになっていた。

「ミリ!」咄嗟にライムが覆いかぶさる。

 ざっくりとライムの肩口が大きく切れた。

「おや。庇うなんて悪魔らしくない」

「何をするんだ!」

「お前を喰らうのさ」

「刺客・・・なのか・・・」

 カイアムからの二人目の刺客、それがクライドだった。

「今更、遅いね」とクライドが手刀を打ち込もうとしたが、ライムが右手を向けると、クライドの動きが止まった。

「できれば争いたくないんだけど・・・」

 ライムは二歩、クライドに歩み寄ると、「ごめんね」とコピーしたばかりのクライドの能力、手刀を打ち込もうとした。

 その瞬間、「あああ――!」と頭の中で大音響が響き渡った。

「うがっ!」ライムが頭を抱える。

 クライドの呪縛が解け、動けるようになる。

 クライドは素早く、位置を変えると、「甘ちゃんの坊やめ。これでも喰らいな」と続けざまに手刀を打ち込んだ。

 ライムは必死に交わそうとしたが、手刀から放たれた見えない車輪によって、ライムの左手と左足が切断された。

 ライムの体が地面に崩れ落ちようとする瞬間、

「ライム!」

 とミリが両手を広げて、掌をライムに向けた。

 すると、驚くことに、切り離された手足の切断面が赤く輝き、お互いに引き合うようにして手足がくっついてしまった。

「何だ⁉ どういうことだ」

「この娘、ヒーリング能力を持っているのよ!」ボニーが叫ぶ。

 そうミリが持っている能力、それは傷ついたものをあっという間に癒してしまう能力だった。

「お返しだよ」

 ライムがひっついたばかりの左手をボニーに向けると、ボニーの頭の中で大音響が鳴り響き始めた。

 ボニーの能力をコピーしてしまったのだ。

「きゃあ~!」

「自分の能力を受けるのは初めてのようだね」

 ボニーが頭を抱えてうずくまる。ここぞとばかりに、「あばよ」とボニーの腕の中にいたクスコが逃げ出した。

「くそっ、させるかっ!」

 背後からクライドが手刀を打ち込む。それに対し、ライムは手刀で返した。中央で車輪が激しく音を立ててぶつかり合い、はじけ飛んだ。

「捕まっていた悪魔たちはどうなったの?」ライムが尋ねる。

 クライドは高速で移動しながら、手刀を打ち込むチャンスを窺った。

「全部、喰らったよ」

「この街に住んでいたものたちは?」

「青き悪魔にエスカルのことか? それも喰らった」

「そう。じゃあ、仕方ないね」

 ライムが右手を挙げると、高速で動いていたはずのクライドが動きを止めた。動けない。左手では大音響でボニーの動きを止めたままだ。

「うぐぐぐっ!」

 ライムが手刀を打つ。クライドが真っ二つになった。二つに割れた体が地面にばらばらと落ちた。

「まだまだ」

 切断された下半身を求めてクライドがはいずり回る。

「もう終わりにしよう」

 クライドの頭上から声がする。ライムがクライドの顔を覗き込んでいた。

「あっ!」とライムが声を上げた。

 クライドに近寄った途端、ライムはがばとクライドを喰らってしまったのだ。

 フリーズと同じだ。これもカイアムの仕掛けた業なのか。刺客との闘いに勝利すると、自分の意思とは関係なく、ライムは刺客を喰らってしまうようだ。

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