#09 ハイタウンでの決闘
「やあ~びっくりだね~魔界にこんなものがあるなんて」とライムはハイタウンを見上げながら言った。
「なんだか・・・」と言ってミリは言葉を飲み込んだ。
趣味が悪いとでも言いたかったのだろう。
「誰もいないのかな?」
「入るのは止めた方が良い。悪い予感がする」とミリが止めたが、「大丈夫。あそこから入れそうだ」とライムはハイタウンに入って行った。
初めて建物というものを見て、ライムは興奮していた。
「洞窟を潜るみたいだ」と入り口を潜ると、広場が広がっていた。
中央には真っ二つになった檻が転がっていた。
「あの青い悪魔たち、いないね」
「・・・」
「捕まった悪魔たち、どうなったんだろう?」
「ライム。悪い予感がする。帰りましょう」とミリがライムの袖をつかんだ。
「うん。分かった」と踵を返すと、潜って来た入り口をふさぐように男と女が立っていた。
ボニーとクライドだ。
ボニーは胸にクスコを抱えており、「止めろよ。離せ」とクスコが喚いていた。クライドが正面に立ち塞がり、ボニーがゆっくりと背後に回る。
これが彼らの戦闘形態だ。
「なんだ。もう帰っちゃうのか。お楽しみはこれからだぜ」とクライドが言う。
「そう。中には何があるの?」
「お前が見たことがないようなものがいっぱいだ。見て行くかい?」
「本当?」
「本当だとも。中はホテルのロビーみたいだ。ホテルって知っているか? 人間たちが旅行に行って泊るところだ。と言っても旅行が何だか分からないか」
「ねえ、ミリ。見に行っても良い」とどこまでもライムは能天気だ。
「私の側を離れないで」
ミリは赤黒い闇の世界で薄く発光している。悪魔たちが忌み嫌う光をまとった存在だ。ミリが腕を組んで来たので、ライムはドキリとした。やはりミリは浄化されない。
「お嬢さんは邪魔だな~」
「ライムの側から離れない」
「そうかい? じゃあ、暫くじっとしておいてもらおうか?」
クライドが手刀を繰り出した。エスカルを食らった効果だろう。くるくると鎌が回っているようだった手刀が、大きな車輪のようになっていた。
「ミリ!」咄嗟にライムが覆いかぶさる。
ざっくりとライムの肩口が大きく切れた。
「おや。庇うなんて悪魔らしくない」
「何をするんだ!」
「お前を喰らうのさ」
「刺客・・・なのか・・・」
カイアムからの二人目の刺客、それがクライドだった。
「今更、遅いね」とクライドが手刀を打ち込もうとしたが、ライムが右手を向けると、クライドの動きが止まった。
「できれば争いたくないんだけど・・・」
ライムは二歩、クライドに歩み寄ると、「ごめんね」とコピーしたばかりのクライドの能力、手刀を打ち込もうとした。
その瞬間、「あああ――!」と頭の中で大音響が響き渡った。
「うがっ!」ライムが頭を抱える。
クライドの呪縛が解け、動けるようになる。
クライドは素早く、位置を変えると、「甘ちゃんの坊やめ。これでも喰らいな」と続けざまに手刀を打ち込んだ。
ライムは必死に交わそうとしたが、手刀から放たれた見えない車輪によって、ライムの左手と左足が切断された。
ライムの体が地面に崩れ落ちようとする瞬間、
「ライム!」
とミリが両手を広げて、掌をライムに向けた。
すると、驚くことに、切り離された手足の切断面が赤く輝き、お互いに引き合うようにして手足がくっついてしまった。
「何だ⁉ どういうことだ」
「この娘、ヒーリング能力を持っているのよ!」ボニーが叫ぶ。
そうミリが持っている能力、それは傷ついたものをあっという間に癒してしまう能力だった。
「お返しだよ」
ライムがひっついたばかりの左手をボニーに向けると、ボニーの頭の中で大音響が鳴り響き始めた。
ボニーの能力をコピーしてしまったのだ。
「きゃあ~!」
「自分の能力を受けるのは初めてのようだね」
ボニーが頭を抱えてうずくまる。ここぞとばかりに、「あばよ」とボニーの腕の中にいたクスコが逃げ出した。
「くそっ、させるかっ!」
背後からクライドが手刀を打ち込む。それに対し、ライムは手刀で返した。中央で車輪が激しく音を立ててぶつかり合い、はじけ飛んだ。
「捕まっていた悪魔たちはどうなったの?」ライムが尋ねる。
クライドは高速で移動しながら、手刀を打ち込むチャンスを窺った。
「全部、喰らったよ」
「この街に住んでいたものたちは?」
「青き悪魔にエスカルのことか? それも喰らった」
「そう。じゃあ、仕方ないね」
ライムが右手を挙げると、高速で動いていたはずのクライドが動きを止めた。動けない。左手では大音響でボニーの動きを止めたままだ。
「うぐぐぐっ!」
ライムが手刀を打つ。クライドが真っ二つになった。二つに割れた体が地面にばらばらと落ちた。
「まだまだ」
切断された下半身を求めてクライドがはいずり回る。
「もう終わりにしよう」
クライドの頭上から声がする。ライムがクライドの顔を覗き込んでいた。
「あっ!」とライムが声を上げた。
クライドに近寄った途端、ライムはがばとクライドを喰らってしまったのだ。
フリーズと同じだ。これもカイアムの仕掛けた業なのか。刺客との闘いに勝利すると、自分の意思とは関係なく、ライムは刺客を喰らってしまうようだ。




