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アウェー

「あのお坊っちゃんがどうなるか楽しみだぜ」

「また、ボロ雑巾にされるじゃねぇか……?」

「まぁ、いい薬になるんじゃないかな……そろそろ、レクス様も大人になったほうがいい」


 訓練していた兵達は、皆訓練を止め観客と化していた。


「昨日と同じでいいんだな?」

「ああ、構わんぞ」


 決められたルールなどはない。

 魔術も、剣術の使用も何でもあり。

 だが、意図的に相手を死に至らしめるような行為は禁止だという暗黙の了解はある。


 だが、それはあくまでもレベッカに限定された話。

 それが可能な人間にのみ限定された暗黙の了解に過ぎない。

 互いに実剣を用いているが、レベッカはレクスを殺さない。

 そして、レクスはレベッカを殺せないと思われている。


 確認を終えた二人は、距離を開ける為に背を向けて歩き出す。


「なんだ、怯えてるのか?」


 歩きながら、いまだに小刻みに震え続ける自分の手を見る。


(本当に勝てるのか?)

「ああ、勝てる、絶対に俺が勝つ」


 頭の中の自分にそう言い聞かせる。


(また、負けたらどうするんだよ)

「負けないさ。それに、負けた時の事は負けた後に考えればいい。やるからには、勝つつもりで全力でやる。それだけさ」

(また昨日みたいに……)

「昨日とは違うさ……」


 頭の中に響く声は、恐れと不安に満ちていた。


(こんな事に意味なんてあるのか?)

「あるさ……、逃げ出すより。挑戦をする方が格好良いからさ……」


 頭の中の声にそう言い聞かせた。


 ――……。


 呆れたようなため息の後、気づけば頭の中の声は聞こえなくなっていた。






「かかって来なッ! 今日こそ、その性根、私が叩き直してやるよ……ッ!」


 レベッカが煽る。


「やっちまぇえええええ」

「ぶっ潰せ、レベッカッ!」

「身の程知らずな、天才サマに目にものって奴を見せてやってくれぇよおおおおおおおおッ!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお、うおおおおお、姐さん愛してるぅうううううううツ!」


 傭兵達は一斉に沸いた。

 

 荒くれもの達の罵声と歓声が大地を揺らす。


「……ッ!」


 傭兵達の声に、ミリアムは耳を塞ぐ。百戦錬磨の傭兵たちの発する圧に足がすくみそうになる。


「任せなッ!」


 その歓声に、レベッカは、手を上げて答えた。


 【ブレイヴ・ヒストリア】の世界に於いて、レベッカというキャラクターは、作中最強キャラの呼び声が高かった。


 ストーリー終了後、大英雄となったローランでさえ、レベッカを凌ぐ事は無かったとされていた。

 今は、ストーリー開始の一年以上前。

 レベッカもこれから成長するのかもしれないが、今、目の前にいるこの彼女は、既に少なくともストーリー終盤のローランよりも強い筈だ。


 【ブレイヴ・ヒストリア】のレクス・サセックスが超えられなかった壁より、高い壁がレクスの前にそびえ立っている。


「やかましい、野次馬どもだ……」

「ブーッ! ブーッ! ブーッ!」


 完全に場の空気をレベッカが呑み込んでいる。


 昨日は歯止めがきいた傭兵達も、今日は嫌悪感をあらわにしている。

 昨日、レクスが素直に敗北を認めずに悪あがきを続けたせいだ。


――いつも、たまらんな、この感じ……。


 完全なアウェー状態にも拘わらず、レクスは不思議な高揚感を覚えていた。


――この中の誰も俺に期待などしていないのだろうな……。


 誰も、自分が目の前の女性に勝つとは思ってはないのだろう。

 だが、その事が何故かレクスにワクワクとした高揚感をもたらせていた。


――いつもこうだった。皆が無理だと言った。不可能だと。あきらめろと……。


 空を見あげ過去生を思い出す。


 かつて、子供の頃、父が言った。


「(そんなの無理なんだよ。悪い人は皆捕まっちゃうんだよ、守。泥棒は皆捕まっちゃうの……悪い人は皆、警察に捕まっちゃうの)」


 かつて、難攻不落の銀行を前に仲間が言った。


「(いいや無理だろ、あそこは警備が厳しすぎる。あそこだけはやめよう)」


 かつて、有名女優を口説くと言ったら。彼を撃った女はこう言った。


「(や、やめときなさいよ……。あの人は…いくら守でも……無理…。わ、私とか……)」


 誰しもが不可能だと言った事を可能にしてきた過去生を思い出す。


「……でも、俺にはできた。いつだって、できたのさ……ッ! 今度はこの世界で不可能を可能にしてみせようではないかッ! ははッ!」


 皆が不可能だと言った事を成し遂げた時の快感を思い出すと、辺りから聞こえる罵声さえ、心地よく聞こえた。


 ――ここにいる全員の度肝を抜いてやる。


 集中していくその体は、自然と構えを取った。

 昨日までは違う独特な構えを。

 その構えを見て、レベッカと一部の人間は怪訝な顔を浮かべた。


「やってやるさ……」


 決意を口にし、イメージするのは勝利を収めた自分の姿。

 敗北のイメージを頭から振り払う。

 最高の自分の姿をイメージする。

 精神が研ぎ澄まされて行くのを感じ、体が少し震えた。


 そして、


 気付けばレクスはその場から消えていた。

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