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捌章 面影花

寡黙なお梅。彼女の過去とは

俺は邸から出て村の中をあてもなく歩いていた。行き方がわからなくて、完全に迷い果てていた。早く合流しなければならないのに、随分時間が経ってしまった。

 ここで何度夜を明かしただろうか。

(確かこっちだって言ってたような……)


 久方ぶりの外の空気は幾分俺を晴れやかな気分にさせた。

 だから、油断してしまっていた。


 どうやら木陰に誰かが潜んでいたようだ。そいつは音もなく、背後から襲いかかってきた。偶然避けられたが、言うまでもなく俺に戦う力はない。

(???? ま、まずい! 逃げないと!!!)

 一目散に走った。迫り来る足音に心臓が弾けて壊れそうだった。


(……近づいて来る!!)


ーーーーー俺は死ぬのか?ーーーーー

そう思った。


すると……


風を切る音がした。

 そして風はあっという間に黒い影を切り刻んだ。


「……此処で何してるの」

 赤く染まった影に目も遣らずに女は淡々と言った。


「お梅さん……! 助かったよ、ありがとう!」

「……別に感謝する必要はないから質問に答えて」

 俺は此処までの経緯を話した。


 暫くすると彼女はただ、そう、とだけ言った。

 一体何を考えているのだろうか。


 2人で話している間にまたどこからか黒い影が(うごめ)き始めた。

「あんたは下がってて、邪魔」

 彼女は十人程度を1人で相手にするつもりらしい。

「お梅さん、大丈夫なのか……?」

「どうせ戦えないんだから黙ってて」

 黒い影は倒れ続けた。暫くして影は一つも動かなくなった。

 彼女の袴と顔はすっかり返り血で汚れきってしまっていた。


すると彼女は突然(うづくま)って激しく咳き込み始めた。

「お梅さん……?」

 彼女は隠そうとしたが俺には見えた。口元から離した手が血に塗れていたんだ。

 俺はそこでやっと気がついた。

「……血……? おいお梅さん、何か病が?」

「あったとしたら?」

「病があるなら、邸に戻った方がいいと思うが……」

「それは聞けないね」

「なんだよそれ。体が悪いなら休まないと治るものも治らないだろ」

 そう言うと彼女は呆れた様にため息を吐いた。

「はあ。ただでさえ、この村は怪我人が多くて手が足りてないんだから。私みたいなのが入ってもあの人数じゃ治る訳ない。だからあんたは気にしないで」

「そんな……!! 気にしないなんてできる訳ないだろ!!!」

「……」

「私は約束を果たした。だから後は好きにさせてもらう」 

 彼女はそう言って俺を見て、昔の話をしてくれた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

何年前かな。私は隣村に嫁ぐことになった。幼い頃だからあんまり覚えてないけど、最初は憂鬱だった。でも私の夫となるはずだった人が暖かく迎えてくれて、愛してくれた。それで過ごしているうちに私も彼を愛す様になった。村にもすっかり馴染んで、幸せだった。

 勿論その時は幸せに終わりがあるなんて思ってもいなかった。そう、戦いが始まった。


 私達の最期の日の朝。

 夫となるはずであった人は

「僕決めたんだ。これが終わったら正式に結婚しよう。最期までお前と此処で一緒に生きたい」

 そう言った。私は嬉しかった。当然返事は決まっていた。

「うん。勿論」

「私、あなたとなら永遠を見つけられる気がする。……流れる時の中で変わらないものを見つけたい。桜は散っても巡ってはまた咲くように……人は死ぬけれど、その証が生きて命を繋ぐ様に」

 私達は永遠に同じだと、変わらないのだと思っていた。だがその考えはすぐに打ち砕かれた。

 彼はその日いつも通り戦に行った。普段はしないのだが心配になって彼を戦まで追いかけてしまった。だが、これが間違えていた。

 私が行かなければ……


彼は私を庇って背後から斬られた。ほぼ即死だった。たった一言だけ残して。

 お前は生きるんだ、約束だよ、そう言った。

 自分の無力さに打ちひしがれて、現実を受け入れられなくて、そこから動けなかった。見知らぬ影が近づいていることをわかっていても。

 どうせなら一緒に逝きたい、殺してくれ、そう思った。その時、仲間が隙をついて私を逃した。

「おい!! 何してんだ! お前は生きるんだろ! さっさと逃げろ!」

 私は涙で何も見えなかったが、彼の言葉で逃げて逃げて逃げた。


 全てを焼き尽くす炎が村を包んでいた。


 そうして気づけばかつての村の懐かしい顔に囲まれていた。村ではきっと魂の抜けた殻の様だったと思う。皆そんな私のことを気づかってくれた。特にあいつは。


近藤は小さい頃から私のことを何故か気にかけていた。それはこの時も。

 私がうたた寝していた時は勝手に膝枕していたし、無理やり花札に誘われて仕方ないから一緒にやっていた。

 でもそういう日々もその時の私には悪くなかった。

 うたた寝している時の暖かい木漏れ日と風。

 安心して眠れる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


全ての話を聞いて俺は思った。

「辛くないのか……?」


「辛くない、しばしの別れだから」

 話し終わった彼女は気のせいか少し涙を浮かべていた。


お梅とこんなに話したのは初めてな気がする。なんだか少し変な気分だ。


 彼女は皆の居る民家に案内してくれた。そして最後に耳元でこう言った。

「暫く休むことにしようかな。あんたもうるさいから。まあ暫くしたらまた勝手にさせてもらうけど」

「ああ!」

 俺はなんだか嬉しくなった。

段々お梅のキャラがちゃんと確立してきました笑

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