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伍章 覚悟と誓い

霞野村と隣村の戦いは激化している。静とお梅を含む全員が戦いに巻き込まれることになる。

そんな中溝口和也は彼らと共に生きることを選ぶ……

彼の運命は如何に

邸を出た彼らは、村の中心にある家並みに着いた。しかしそこには以前のような活気は感じられなかった。

「以前は賑やかだったのにな」

 藤原は柄にもなく真面目に言った。

「ああ」

 明寺も軽く頷いた。


皆、閑散とした村をただ見つめていた。


彼らにはそれぞれの想いがあり、それぞれの覚悟があった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

彼らは住居を借り、それぞれが身支度を整えると、紅葉の木の下に集合した。

 これからは各々が別々に戦うことになる。

 しばしの別れの宴を彼らは思い思いに過ごす。


「紅葉、綺麗だな」

 近藤(※近藤篤ノ介のこと)は言った。

「……」

 お梅は何も言わなかった。


「1人で見たかったか?」

 すると彼女は口を開いた。

「そんなことはないけど……」

 彼女は少し不思議そうに近藤を見た。

 今日はいつもより少し顔が明るい。

 彼女は誰かと話すことはほぼないが、近藤だけには少し心を開いているようだった。

 近藤は落ちてくる紅葉を掴み、彼女の髪に絡ませた。

「紅葉の髪飾り。粋でいいな」

 すると彼女はそう?と言いたげに髪を靡かせながら、近藤の方を見てはにかんだ。


「おーい! お梅に篤ノ介! こっち来いよー! すごい綺麗だぞー!」

 遠くから綾女の声が聞こえてくる。


 近藤は綾女のいる方に向かった。

「綾女ーはしゃぎすぎじゃないかー?」


 何か思う所があるのだろうか。お梅は彼に手を振り、まだ1人で風に吹かれながら紅葉を眺めていた。


「篤ノ介、すごいだろう」

 確かに綺麗な眺めだったが、騒ぎ過ぎている。

「こんな綺麗な景色。いくら隣村の奴等でも壊さないだろ」

 彼女はそう言う。

「そうだといいな」

 近藤は穏やかに笑って綾女の頭を撫でた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

一方こんなに綺麗な眺めがあるにも関わらず、藤原はずっと下を向いてやけ酒をしている。静とも殆ど口をきいていないようだ。


「桓助、どうしたの? もしかして静ちゃんと何かあった?」

 梢は彼の横に座り首を傾げて言った。怪我もすっかり治ったようだった。

「…………」

「やっぱり。仲直りしに行ったら? こんなに綺麗な景色なんだし」


 暫くして藤原は返事をした。

「ああ、そうだな」



その頃静は明寺にお酌していた。

 

 明寺は言った。

「自然ってのはこんなに綺麗だったのか」

 珍しく彼は穏やかに笑っていた。

「はい」


「今まで気づかなかった。綺麗なものを愛でる暇なんて無かったからな」


 暫く2人の間に沈黙が続いた。


「今だから言えるが、お前には沢山窮屈な思いをさせて悪かったな」 

 彼女は少し照れくさそうに頬を赤らめながら微笑んで言った。

「謝らないでください。私は此処に来て仲間と呼べる人もできて……幸せ者です」


「お前は変わらねえな……」

 明寺は少し呆れたように笑った。


そこに駆け足で藤原が来た。彼は強引に彼女の手を引っ張って連れていった。

「静! 来い!」

 あまりに突然で静も動揺していた。

「か、桓…藤原さん!?」


 人気のない場所に連れて来られ、彼女は心配そうに尋ねる。

「桓助くん、どうしたの? 大丈夫?」

「…………」

 彼は彼女に背を向けたまま暫く黙り込んでいた。


「なあ、この間…悪かったな。お前の気持ちを全然考えれてなかった。俺、お前を守りきれる自信がなかったんだ……情け無いな俺ってホント」

 そう言って彼女の方に向き直った。

 そして彼女に簪を差した。

「これ静に」

 申し訳無さそうに笑って言った。

 彼女も嬉しそうに微笑んだ。

 そして自分の荷物からお守りを取り、藤原に渡した。

「これ桓助くんに持っていて欲しいの。だから受け取って」

 藤原は驚いて言った。

「お前、これすごく大事にしてるやつだろ? いいのか?」

「母様に小さい頃貰ったの。とても大切な物だから桓助くんにって思って。もし何かあったらこれを見て私を思い出して」

 藤原は目を見開いた。

 そして咄嗟に彼女を抱きしめ、耳元で誓うように囁いた。

「俺、必ずお前を守るよ。ただ誓ってくれ。沢山の敵に囲まれてどうしようもなくなったら必ず俺を呼ぶんだ。

それで…一緒に帰って、邸を離れて2人で住もう」

 彼女もまた彼を抱きしめ返した。


その後暫く2人は幸せそうに寄り添いながら紅葉を見た。藤原は静と距離が近づく度に顔を赤くしていた。



「桓助、ちゃんと静ちゃんと仲直りできてるかしら」

「あいつは不器用だが、素直だからな。心配する必要はないだろう」

「そうね」

 梢と明寺はあまり言葉を交わさなかったが秋の風物を楽しんでいた。


「こうやってお前と2人で過ごすのは久しぶりだな」

「そう?……でも確かにこうやってゆっくり過ごすことは最近はなかったわね」

「これから戦いは激しくなる。次にこうやってゆっくり過ごせるのも来年の春頃まではないだろうからな」

「ええ」

 梢は少し淋しそうに下を向いた。

「お前にはこれからも世話になると思うが、頼んだぞ」

「うん」


彼らは沢山呑み騒ぎ、久しぶりの団欒を過ごした。

「おい桓助ぇ! 飲み過ぎだぞぉ〜、そんなに酔っ払っちゃまともに動けねえだろうよ〜」

「そういう篤ノ介だってもうベロベロじゃ〜ん」

「おいお前ら!(ヒクッ)いい加減にしろぉ(ヒクッ)」

「あはは!正之(※明寺のこと)だって人のこと言えないね!」


「もうみなさん、あんまり呑みすぎるとお体に障りますよ?」

「こいつらのことはほっといていいわよ! 静ちゃん」

「……………」

 酔い潰れそうな近藤、藤原、明寺。上機嫌な綾女。酔っ払った男たちに苦笑しながらお酌する静と梢。自分の酒の許容量がわからずに1人で赤くなっているお梅。


彼らは口に出さなくともちゃんとわかっていた。

 これが最後のさかずきである可能性を。


ーーーーーその頃ーーーーー


(退屈だな)

俺は邸で特にすることもなく移ろいやすい秋空を眺めていた。

(あいつら……今頃どうしてるかな)

 俺は暇を持て余していた。あいつらのいなくなった邸は何だか寂しくなった。

 

 そういえば俺どうやって此処に来たか、まだわからないんだよな。

 俺はここに来る直前本を読んでいた。ということは、此処で本を見つければ帰れるのか……? 

 そう思い、することもないので邸の中を一通り探した。しかしそれらしきものは特に見つからなかった。

(俺って向こうだと行方不明者になってんのかな、早く帰らねーと。流石に親父も友達も心配してるだろうし)


 だが俺は迷っていた。帰る方法が見つかったら帰る。でもその後、俺はもう二度と此処には来れないのか?あいつらとももう話せないのか?

 そう思うと邸を歩き回る足が自然と止まった。


俺は普通の高校生だ。此処にいてできることなんてきっとない。気にする必要はないとわかってはいた。

 だけど、どうしても無関係なことだと、他人事だと思えなかった。

 此処にいる人も、出来事も、景色も。暫くいるうちに愛着が湧いてきてしまった。


そんな時、外を歩く子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。

「母様! 僕の父様はどこに行ったの? いつ帰ってくるの?」

「そうですね。父様は今みんなを守るために戦っています。きっと次の春先に帰って来ますよ」

「そうなんだ! 僕、父様が帰って来たら遊んでもらうんだ!」

「はい。だからそれまでいい子で待っていましょうね」

 この村は極端に男が少ない。さらに言えば、彼らは命懸けで戦っている。だから男というだけで敬われるんだ。

この子の父が実際生きているのかはわからないが、きっとこの子も十になったら自分の道を選ぶことも許されずに戦いに駆り出されるのだろう。


何て残酷なんだろう。俺は何て恵まれていたんだろう。自分の道を自分で選ぶことができる、自分の人生を生きることができる。

それなら俺は許されるまで、此処に居て彼らを見届けることを選ぼう。





お梅と篤ノ介のキャラがイマイチ難しいです

色々やらなきゃならないことが多くて更新ペース下がると思いますが、今後も読んでくださると嬉しいです!

感想も待ってます!

次回は関係図(現段階)作ろうと思います!

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