肆章 別れと紅葉 ー静視点ー
静たちは隣村からの攻撃から村を守るために男女関係なく武器をとることを決意した。平和な世界から来た主人公である溝口和也は彼らの決意を理解できなかった。彼らは一体何を以て戦うことを選んだのだろうか。
心なしか紅葉も私たちの別れを泣いているように見える。
「和也さん。しばらく会えないですが、この邸をよろしくお願いします」
「……」
和也さんは答えなかった。思い詰めているような悩んでいるような、そんな風に見えた。
(和也さん……)
此処に来たばかりの時は、彼はこんな表情は見せなかった。
少しでも道理から外れていると思ったら訴える、そんな素直な人だった。きっと彼の故郷と此処では環境も価値観も全く異なっていたのだろう。そんな彼も此処にいるうちに少しずつ色々と理解していっている。
私は決めたから。守りたいものを守ると。梢様に桓助くん(※藤原のこと)、大切な人たち。
守り抜いて、必ず此処に帰ってきます。
これは和也さんもきっとわかってくださる。
ーーーーー かって受けた恩の為にも ーーーーー
〜〜〜〜〜回想〜〜〜凡そ四年前〜〜
私は寄る辺ない身であった。帰る家なんてもうない。私は母にとって邪魔な存在だったんだ。
遠い故郷から逃げるように霞野村に辿り着いた。だが泊まり宿を見つけられなく、村の近くであてもなく座りこんでいた。
冷たい雪風が体にしみる。
心身共に冷え切っていた私は死を覚悟していた。
ただ一つ心残りなのは、小さくて愛しい妹を置いてきてしまったこと。
(せめて最期に妹に……)
眠い、そう目を閉じて心地よい夢に入ろうとした時だった。
「あなた、大丈夫?」
(女の人?)
女性の影が薄目に見える。
だが私は安心したのかそのまま意識を失った。
ーーーーー ああ暖かい ーーーーー
(ああ私死んだんだ)
そう思っていた。しかし目を開けると、そこには天井が広がっていた。
(あれ、私生きてる?)
すると、障子戸を開ける音がした。
「あら。目が覚めたのね、よかった」
「あの、私のことを助けてくださったのですか?」
彼女は笑って言った。
「今はまだ寝ていて。私は梢。あなたは?」
「静といいます。助けてくださってありがとうございます」
「可愛らしい名前ね。どうかくつろいでいって」
この時はまだ村も邸も賑やかだった。一年後にこの平和が崩れるなんてつゆとも知らずに。
私はこの数日後にこの邸の人たちに御礼の挨拶にいった。彼らは私の事情を聞き、此処にいることを許してくださった。しかし実際それは形だけで、誰も私のことを受け入れてくれてはいなかった。梢様と桓助くん以外は。
私はいつも余所者として扱われ、雑用以外では誰とも話すことはなかった。
私は毎日寝泊まりする場所があるだけで幸せだと自分に言い聞かせていた。だが私はやはり孤独だった。それでも梢様とお話しする時は正真正銘幸せだったと今でも思う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ある日、私がいつも通りお皿洗いを1人でしていた時のこと。
桓助くんが厨房に入ってきた。
「何か手伝うよ。俺」
「そんな。お気になさらないでください」
「お前、いつも顔が暗いから心配でさ。たまには誰かが手伝った方がいいと思ってさ」
彼の屈託のない笑顔は当時の私にとってはとても眩しかった。
「此処に置かせて頂いている身ですのでご心配なさらないでください」
私は彼の優しさを無碍にするようなことしか言えなかった。
「そんなこと……だってさ正之とかだってお前にすっげー冷たいし」
「…………」
彼は優しかった。
「もし何かあったら俺でよければ相談乗るから」
「はい」
その言葉だけで私は嬉しかった。彼だけはそれ以降もいつも私のことを心配してくださっていた。
暫くして私はこの村に馴染むことができた。今では私が外出していても誰も眉を顰めない。
それはきっと、彼らのおかげだと思う。
桓助くんは勿論今だって私のことを考えてくれている。
そう、あの時も。
ーーーーー
この村に和也さんが来てから数週間が経ち、梢様の容態も良くなり始めていた頃。
私は最初梢様が重症を負ったと聞いた時、何も手につかなかった。
同時に桓助くんが無事なのか心配で堪らなかった。
「桓助くん、怪我がなくてよかった」
「はは。俺ってホント情け無いな。梢に怪我なんかさせて、お前に顔向けできねーよ」
桓助くんは私に背を向けて、肩を震わせながらそう言った。自嘲するような様子が見ていてとても痛々しくて、彼の背中に寄り添いたかった。
しばらく沈黙が続いた。
「私も戦いに行く。」
そう言うと彼はこちらに思いきり振り返って言った。
「は? お前は駄目だ! 危険すぎる!」
「もう明寺さんには言ったの。私これ以上皆さんの負担になりたくない。それに桓助くんだけに辛い思いもさせたくない。だから止めないで」
桓助くんの顔がとても辛そうだった。本当はまだ明寺さんには言ってはいなかったのだが、そう言うと彼は必ず止めてくると思い嘘をついた。
「なんだよ。いつも全部勝手に決めやがって」
彼は吐き捨てるように言ってその場から去ってしまった。
喧嘩したのは初めてだった。明寺さんはその後すぐに了承してくれたが、桓助くんはその後しばらく私に話かけてくれなくなった。
ごめんなさい桓助くん。私、梢様が怪我をしてやっと気づいたの。
大切な人たちを守れないのに村を守るなんて私にはできないって。
勿論自分にできることなんて少ししかないこともわかってる。
だからこそ私は皆とは少し違うけれど、大切な人たちを守るために戦います。
私はそう誓った。
着物から慣れない袴に着替え、簪も外し髪を一つに結い上げた。
これからは女としてではなく、大切なものを守る1人の戦士として。
自分の中で書き方が完成されてなくてへたくそなので、よかったらアドバイスください!
あと敬語間違ってるかもです、ごめんなさい