弍章 鱗雲
主人公である溝口和也は平凡で毎日に退屈している高校生。そんな彼は父の書斎のふしぎな本を開いた後、見知らぬ場所で目を覚ます。そこで待ち受けるのは?
朝になると俺は耳を突くような銃声と声で目が覚めた。
(うるさいなぁ、なんだよ。これ……銃声!?)
俺はそこで初めて体を起こした。昨日のは夢じゃなかったのか?俺は改めて絶望した。
そんなことより様子を確かめようと部屋の外に出た。耳をつんざくような銃声が頭に響く。俺はおぼつかない足取りで、彷徨うようにあたりをフラフラしていた。
するとどこからか声がしてきた。声の方向へ行くと、女の話し声がした。そこで俺は耳を疑うような話を聞いた。
「〇〇さん、もう容態が良くないんですって。もう時間はないらしいの」
「私たちの村からまた1人男がいなくなるのね、でもせめて最期くらいは幸せでいてほしいわね」
「……きっとそろそろ私たちも」
「なぁに!覚悟は最初から決まってるわよ! この村のためなら私たちは死だって怖くないわ、ねえそうでしょ?」
「……そうですよね。この村を守れるなら自分の命なんて安いものです」
(何を話しているんだ?男がいなくなる?村を守る?)
さっぱり何のことかわからなかった。
ーーーこの時俺はまだ、自分が異世界に飛ばされたということを認識できていなかった。ーーー
まるでお伽話のような話しに空を見上げてぼんやりしていると、銃声はいつの間にか少し静かになったようだった。
庭の櫻は散り始め、鳥たちの囀り《さえずり》が聞こえた。俺を呼んでいるような気がした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
気持ちいいな……
ーーー すると、風のような声がした ーーー
「部屋を出ていいと言った覚えはないな」
振り向くとそこにはとても綺麗な男がいた。こんな顔をしていたのか。昨日は暗くてよく見えていなかった。
(昨日とは違って穏やかな顔だな……)
その絵から出てきたような姿は見とれてしまう程だった。
「逃げるなよ。俺は別にお前を殺したりしねえさ。ただ、言わなきゃならねえことがある」
彼はそういうと、踵を返した。
すっかり銃声は止んでいた。
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ついていくと、昨日より大きな広間に案内された。
そこには昨日姿を見なかったやつもいた。
「端的に言う。お前はすぐにここを出ていけ」
さっきの話しでどういう意図か何となくはわかっていた。だがどうしてもさっきの銃声が気になってしまう。
「な、なあ!話しは逸れるが、さっきの銃声は何なんだ?」
すると彼の代わりに昨日は一言を口を開かなかった男が言った。
「あぁ〜、もうあれくらいは日常茶飯事だよなあ〜。まあ此処は一応安全だから心配すんなよ!」
この中では少し幼い風貌だ。俺ともそんなに年差がないようにみえた。
「悪いがお前に事情を説明してやる義理はないんだ。すぐに出ていけ。長居されるようじゃお前の安全は保証できない」
さっきの男が淡々と言った。
俺としては出ていくことを許されたのはよかった。でも俺はどうやって帰ったらいいのかわからなかった。というか、帰る場所なんて存在するのか?まず俺はどうやってここにきたんだ?家で本を読んでいただけなのに!
俺の中に今まで抑えていた分の不安がどっと押し寄せてきた。
すると先程の若い男が言う。
「何か問題でもあるのか?」
「あ、ああ。実は俺、自分がどうやってここにきたのか全くわからないんだ」
「…………」
しばらく沈黙が続いた。
すると耐えられなくなったのか、突然1人の女が話し出す。
「私は此処にいてもいいと思う!お前が本当に溝口のにんg」
しかし、
「おい綾女! 言い過ぎだ!」
広間に男の怒号が響きわたった。さっきの優しい声とはうって変わって鋭い声だ。
「綾女、気をつけてね」
たしなめるように言うのは確か昨日の梢とかいう女だ。
どうやらこの2人はここにいるやつらをまとめる役割らしい。
「わ、悪い」
するとまた部屋に沈黙が訪れた。
しばらくすると男が
「俺は明寺正之だ。今いらないことを言ったのが綾女。そこのガキが藤原桓助。もう1人は近藤篤ノ介。男は3人。女は右から順に静、お梅、梢。綾女含めて4人。俺たちがこの村を守る長だ」
「悪かったって……!」
「おい正之! ガキって何だよ!俺は何も悪いことしてないだろ! 年も三つくらいしか変わらねーよ!」
「そうやってすぐ頭に血が上るから言われるんだぞ?」
「うるさいな!! 篤ノ介だってガキじゃねーか!」
急に先程までの緊張感が解けた。しかし、
「ねえ、今は無駄話の時間じゃないのよ?いい加減にしてくれる?」
梢とやらの声でまたもや静かになった。
「ねえ、あなた何か聞きたいこととかある?」
彼女は俺にそう優しく聞いた。俺はそろそろ自分の力では帰れないことを理解し始めていた。だから聞いた。決意を固めたんだ。此処でしばらく過ごすと。
「……此処にいさせてくれ! それと、もっと詳しくこの村の事情を教えてくれないか!」
すると突然、大きな爆破音が響いた。
また随分と間が悪い。明寺とやらは俺にここにいろとだけ伝えて、ほとんど全員で広間を出ていってしまった。 残ったのはお梅という女と静だった。
昨日はそんなことを思う余裕も無かったが、静はとても可愛らしい女性だった。しゃんしゃんと鳴る桃のかんざしがとても良く似合っている。
長い沈黙の後、彼女はようやく口を開いた。
「どこまでお話ししてよいのかわからないですが、先程の件について少しお話しいたします。この村はここ三年隣村から攻撃を受けています。なので私達はこの村を守るために戦っています。あなたの安全も危ないというのはそういうことです。私は直ちに出ていくべきだと思います。しかし、それでもあなたが此処にいるとおっしゃるなら止めません」
「…………」
お梅という女はずっと口を開かない。綺麗な目にどこか悲しみを感じるような、引き込まれるような美しさを持つ女だった。
「な、なあ、あいつらは大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。きっと。信じていますから」
彼女の瞳に揺らぎはなかった。
「あなたには明寺さんの空き部屋を使っていただきます」
「いいのか?」
「ええ、明寺さんから勝手にして良いと頂いたお部屋なので。今日からはそこでお休みになってください。明寺さんには私から言っておきますので」
俺は彼女の言う通りにして部屋を借りた。
ーーー俺はこれからどうすればいいのだろうか、どうなるのだろうかーーー
2日目終
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