No.2 ナンパアルファ。
「はぁぁ〜〜……ガチで今日は呑みすぎた。」
あのあと結局、イケメンアルファへの僻みが消えずに酒を滝のように浴びてしまった。
いつもならもっとセーブ出来たはずなのに……
しばらく呑み会は控えようかな。
居酒屋の店内に居るのがとても暑く感じてしまい、酔いで火照った身体を夜風で冷やそうと外に出た。
昔ながらの引き戸の障子をガラガラと開けた途端、涼しい風が頬を撫でた。
知らない間にあのイケメンアルファもあの卓から居なくなってたみたいだし、もう良いか。
「あっちぃなぁ、」
パタパタと手で顔を扇ぎながら、辺りをキョロキョロと見回す。
ちょうど、近くの河川敷が目に入った。
水辺に行けばより涼しくなるだろう、そう思って、河川敷の橋を渡っていく。
橋を渡っていた途中で、見覚えのある人間が、橋の柵に寄りかかっているのが見えた。
綺麗だな、そう思った。
月明かりの下で、その冷たい美しさがより際立っているように感じた。
まるで時が止まったかのように、しばらくそちらを見つめることしか出来なかった。
「あ、」
あちらも俺に気がついたようで、橋を眺めていた綺麗な目が、こちらの姿をじっと捉えている。
「あ、ちっす……」
やり場のない一方的な気まずさを感じ、小さく腰を折り曲げ礼をする。
「……あの、」
「あ、?は、はい。なんすか?」
どうしようと心の中で慌てふためいていると、いきなり話しかけられる。
「さっき、あの……俺の自意識過剰だったら恥ずかしいんですけど、俺の事見てましたよね?」
言いづらそうにこちらの表情を伺いながら、そう問いかけられた。
火照った身体が、一瞬で冷たくなる感覚が走った。
「あ、すんません。イケメンだったからつい見ちゃって……」
この際、もうどうにでもなれ。
どうせこの先このアルファと遭遇する機会もないだろう。
テキトーに受け流して、テキトーに終わらせれば良いんだ。
これが最善策なんだ。
「あ、え?ぁ……そーなんですね、ビックリした。」
でも……
「俺とちょっと話しましょうよ。」
"もっとコイツと話してたい" そう思ったときにはもう、コイツの隣の柵に同じようにもたれかかっていた。
「どーしたんすか、こんなところで。」
「え、どーしたって、何が?」
「ん?だから、呑み会抜け出して河川敷に居るのはなんで?って。」
自分も人のことなんて言えないのにな、などと思いながら、そう問いかける。
俺に尋ねられた途端、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、俺の言葉に促されるようにして冷静に答えた。
「考え事だ。」
「考え事?え、お前みたいな完璧アルファにお悩みなんかあんの?」
そう呟くと、彼は度肝を抜かれたような表情になって、そのまま固まってしまった。
「あ、え?ごめん、なんか俺ダメなこと言っちゃった?」
いや、でもそりゃ人間なんだもの、悩みの種の一つや二つくらいあるもんか。
こんなに容姿端麗で、知的で、スタイルも良くて、クールな雰囲気があって、すげぇモテそうだとしても。
「いや、俺……」
「ん?何、どーした?」
彼は困ったように、顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「なんだよ、何でも言ってみろよ。」
「いや、俺……アルファじゃない、から。」
「はぇっ……?」
一瞬、たぶん、ほんの一瞬。
時が止まった。
「アルファじゃねぇの……?」
「……うん、アルファじゃねぇの、」
「いや、んなわけなくない?」
「いや、んなわけあるんだよ、」
俺は思いっきり、橋の柵を両手でぶん殴った。
「はっ?いきなり何してん……」
再び驚いた顔をするコイツを横目に、俺は今までの妬みや僻みを開放した。
いや、そうせざるを得なかったんだ。
こんなのって、ただの不可抗力なだけであって、俺はなんっにも悪くない!
「はぁぁ……!?こんなイケメンくんがアルファじゃないだとぉぉ!?んじゃ俺のこの顔面はどーしてくれんだよ!お前みたいに脚も長くねぇ短足で豚足なんだけど!」
「え、ごめ……え、?」
「俺アルファだよ!アルファなんだよ!なのになんでお前の方がハイスペックカマしちゃってるわけぇ!?頭良さそうだし、運動神経も良さそうだし!ってかこんなの運動神経悪くても許せるだろぉ……!」
「ちょちょ、ホントに待って。君も充分カッコイイと思うよ……」
「あぁん?んなのちっとも慰めになってねーっつーの!俺よりイケメンな奴にイケメンって言われて、どこの馬鹿が信じんだよ!お前は今すぐ全てのアルファのためにハゲろ!!!」




