着く
ミアネルにつれられ俺は今、街道を歩いている。彼女と会った草原から、すぐ近くにありこれから目指す交易都市ルドーウに続いている道らしい。彼女は、ルドーウで2日後に始まる収穫祭で店を出す為に向かっていた途中だった。
ルドーウには、草原の先にある丘を越えれば目と鼻の先で、今日の日がまだ高い内に到着予定だ。
「あの、あの、お名前を聞いてもいいですか?せっかくですから教えてください」
「あっ!ごめん!俺の名前はコウタロウ。コウタロウ・タキガミ。コウって呼んでくれ」
人に出会って心に余裕が出てきたのか、漫画的なかっこつけ自己紹介をかます。機会があれば一度やってみたかったのだ。
「コウタロウ・タキガミ……やっぱりこちらの名前と全然違うんですね」
「そうだね。俺のいたとこだと名前に『何とか族』ってつく人はいないね」
といいながらミアネルのステータスを出す。始めこそは勝手に出たステータスだが、自分の意思で出したり消したりできることが判明した。道ですれ違う人に試したところ、視界に体の一部が有れば人のステータスが見られるようだ。
「そういえば、ミアネルすごい荷物だけど重くないの?よければ手伝うよ」
彼女の背中には、背負子の様なものにつけられた大きい袋が担がれている。旅の道具や商品なのだろう、彼女の身長より少し高いそれはとても重そうに見えた。
「えと、えと、ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ慣れてますから。それにこの重さがないと調子が出ないんです私」
「そうなの。でも、いつでも手伝うからいつでも言ってね」
「はい。そのときはお願いします」
歩きやすい道とミアネルとの会話のおかげで、楽しく何も苦労することなく旅は進んで行く。
……ルドーウの街に一人で来るのは初めてだった。来るときはいつも『あの子』と一緒だった。
些細な事がが切欠で、一人の旅をするようになった原因のあるルドーウは、なんとなく気が乗らず今まで商売に行くことは無かった。
それでも今回行くことを決めたのは、商機があるのにつまらない意地を張っている場合ではないと思ったからだ。決っしてこの街が好きな『あの子』に会うことを期待している訳ではない。そんな寂しがり屋みたいなこと私が考えるはずがない。
……でも、会えたら何を話そう?
「何だここ。すっげえ!」
ルドーウという街は、俺が想像するヨーロッパといった感じだった。色とりどりのレンガで舗装された道。レンガで作った家。カラフルな屋根をつけた出店。出店や民家から伸びるにぎやかな三角がいっぱいついた旗で街は作られていた。
「コウ。私も領主邸に用事があるから一緒に行こう」
うろちょろといろんな場所を見てる俺は、ミアネルの言葉で本来の目的を思い出した。ちなみにミアネルがタメ口なのは、俺が頼んで丁寧な言葉遣いをやめてもらったからだ。
祭りの準備で忙しく盛り上がっている噴水広場を通り抜け、街とはまた違ったきれいな模様のレンガで作られた坂を進む。領主邸はこの坂の上にある。
坂を登りかけ領主鄭の入り口が見えるころ。領主邸から、青と黒の髪を持った女の子が出てきた。
女の子とミアネルは互いの顔を確認すると同時に「あっ!」と驚きの声をあげた。