金融機関オルバンク
「着いたわ!ここが世界一大きい金融機関オルバンクね!」
俺とシエルはツウリュウストリートを小一時間かけて歩いてきた。
ストリートの商店街には何に使うかわからない道具や、美味しそうな串焼きなど魅力的なものが多数並んでいたが、その誘惑を打ち破ってどうにかたどり着いた。
シエルの財力なら訳もなく購入できるのだろうが、宿泊代や入国料を支払ってもらっている身としては甘えるわけにはいかない。
道中、欲しいものがあったら気にせず言ってねと言われたが、なかなか言い出せなかった理由はこれだ。
いつの間にか俺は、いつか自分で稼いでシエルに何かプレゼントしたいと思っていた。
オルバンクと呼ばれたその建物の外装は巨大なビルを3棟横に並べたような感じだ。
シエル曰く、主要な建物はだいたい領域拡張魔術というものが施されており、外から見た外装より中はもっと広いことが多いらしい。
「さぁ!入るわよ!」
意気揚々とシエルに導かれるまま俺はオルバンクの中に入って行った。
―――オルバンク内
「ですから、歴史書を閲覧したいのでしたらその持ち主から許可証をもらってきてください。オルバンクの金庫に保管されているということは、持ち主がおられるということです。」
「だから!ちょっと借りるだけだって言ってるでしょ!調べ物をしたいだけなの!」
シエルと言い争いをしているのは、オルバンクの受付嬢アリシアだ。
黒髪のツインテールにメイド帽。
ここの制服を決めたのはメイド好きに違いない。
それにしてもこの世界の女性はみんな発育が良いというかなんというか。
ぱっと見、服の上からなので推測でしかないがシエルと同じくらい巨乳だ。
「ちょっともダメです。そもそも歴史書などの古文書類は数が少なく、その存在自体が国宝クラスの扱いを受けています。ですので一般庶民の方々が簡単に閲覧できるはずもないのです。」
「一般庶民って、、、誰のこと言ってるのかしら。わ!た!し!は!アトルリアの第一王女、シエル・アトルリアよ!」
「どこの国の姫様だろうと、許可がなければお通しすることはできかねます。」
顔を真っ赤にして怒っているシエルに対して、対照的にアリシアは静かに言い伏せている。
「シエル。一旦出直しましょう。これは時間の無駄みたいです。、、、、あのアリシアさん。」
「はい。なんでしょう。」
「ちなみにその古文書類を多く所有している人物の名前だけでも教えてもらえないですか?」
こういう冷静なタイプはこちらも静かに質問すると、意外と話を聞いてくれる事がある。
「、、、、、まあ、名前だけなら。、、、ドローズ・ニコラス。彼はこのツウリュウでも指折りの資産家です。ニコラスは古文書マニアでもあります。世界各国からありとあらゆる文献を集め、保有していると聞いています。」
「じゃあそのニコラスってのに許可さえもらってくれば、閲覧させてくれるのよね!」
シエルは拳で受付机の上をドンと叩いた。
「その通りでございます。」
「どの辺に住んでるとかって教えてくれます?」
俺は今にも飛び出していきそうなシエルの頭を撫でながら質問した。
「、、、あまり利用者様の個人情報を差し上げたくは無いんですけど、、、まぁ、有名な方ですし、、、、医療施設メディコの裏のお屋敷でございます。」
そういえばメディコの裏にとんでもなくでかい屋敷があった。
まさかあれがニコラスの自宅だったとは。
灯台下暗しってやつだ。
「ありがとうございます。ほら!シエル戻りますよ!そんなにアリシアさんを睨まない!」
猫のようにアリシアを威嚇しているシエルを連れて俺は、オルバンクをあとにした。
「ご利用ありがとうございました。、、、あら?、、、なぜでしょう?」
アリシアが見つめる受付用ディスプレイに点滅する文字列があった。
【所有者 シエル・アトルリア】
『保有金庫 1 』
シエルの使用可能呪文一覧
【火焔球】
使用者:シエル・アトルリア
ランク:初期呪文
魔術系統:放出系呪文
内容:手のひらに火球を生み出し、前方に放出する。