嬉しい誤算
鳥肌が立つ。
全身にビリビリと感じる。痛い。
これが魔力ってやつか。
冷静にそんなことを考えながらも身体は正直で、震えながらシエルの後ろに隠れていた。
「現れたわね。ヴェルデサーペント。こんなに大きく育っちゃって、、、、どれだけの魔物を食べたの?」
シエルは少し嬉しそうに笑いながらヴェルデサーペントを観察する。
「ほら!トウヤ戦うわよ!後ろでガタガタ震えてないで早く魔術書を出して呪文を唱えなさい!」
「これと戦う!?むむむ無理ですよ!とても人間がかなう相手じゃない!丸呑みにされるか、尻尾で圧殺されるか、牙で串刺しにされるしか、、、、」
「もうダメだ。俺はここで死ぬんだ。ちょっと異世界で金髪巨乳美少女と旅できて良いなぁなんて思ってたらこれだ。やっぱり俺は何もできないんだぁぁぁあ!」
「金髪巨乳美少女!?ちょっと!落ち着きなさい!トウヤ!しっかりして!アンタが唱えないと魔術が使えないんだから!ねぇトウヤー!」
ぐるぐる目を回して自暴自棄になってる俺の肩を、シエルは両手で掴んでグラグラ揺らす。
俺はぐるぐる回る視界に、ユサユサ揺れるシエルの胸を見ながら走馬灯のように思い出していた。
―――数時間前
「だからね、トウヤに紋章が刻まれて魔術書とリンクした時点で、アトルリア家の魔術はその魔術書を媒介にする事でしか使えなくなったの。」
「要するにシエルさんは今、魔術が使えないって事ですか?」
森の中に流れる小川を横目に俺達は歩いていた。まだ俺がさん付けでシエルを呼んでいた頃だ。
「そうよ。召喚騎士しか魔術書を読むことはできない。だ!か!ら!トウヤがしっかりしないと、私が王になれないの!」
前を歩いていたシエルは振り返り、俺の顔に指差し呆れたようにガックリとうなだれた。
「そもそも、魔術書とリンクしてる今は身体能力や魔力がかなり底上げされてるはず。トウヤが今死にそうな顔して歩いてること自体おかしいんだから。」
「そう言われても、特に変わった感じは無いんですが、、、」
そういえば城でシエルに手を握られた時、体の底から力が湧くのを感じたけどひょっとしてあれか?
「わかった!」
突然シエルは大声をだして先程と同じく、振り返りにっこり笑った。
「トウヤは魔術書をまだ読んでない!だから仮契約状態なのよ!きっとそうよ!練習がてら唱えてみなさいよ!」
「えええ、俺が魔術を使うなんて、、、シエルさんの話でなんとなく理解はしてましたけど、、やっぱり怖いというか、、、」
「いいから!ほらリュックから魔術書だして!ったくその後ろ向きな性格どうにかならないのかしら。」
シエルに急かされながら俺は背負っていたリュックから、真っ赤な魔術書を取り出した。
「ひ、開きますよ!」
おそるおそる魔術書を開くと最初のページ以外、全てのページが白紙で構成されていた。
「あ、あれ?最初のページしか書いてないですね。変だな。書いてあるページも知らない文字で書かれてるし。、、、いや、、、読めるぞ。」
「読めるのはあたりまえよ。それは私の魔術書でトウヤはもう私の契約騎士なんだから。」
この文字列。とても引き付けられる。目を離すことができない。
「初期呪文 、、、、火焔球」
「ちょ、待ちなさい!魔力の制御も知らないアンタがいきなり呪文を唱えたら、、、、、
熱い、身体の中が熱い。
俺の体から真紅のモヤみたいなものが出てる。
これが魔力か。
どんどんその光が研ぎ澄まされていき、魔術書のページに吸い込まれた。
ドン!!!!
ものすごい爆音。
木の焦げる匂いがシエルの方から漂ってきた。
ふと我にかえりシエルの方を見ると、シエルは右手を前に出して立ち尽くしている。その手は真紅のモヤに包まれている。
「ほーら。言わんこっちゃない。、、、でも嬉しい誤算がひとつ。トウヤは性格は最悪だけど、魔力量は最高ね。」
シエル前方の木々は見えないところまで消し飛び、近くの草花は静かに燃えていた。
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