魔力の残穢
「シエルさん!ちょっと待ってくださいよ。はぁはぁ、、、もう少しゆっくり行きましょうよ、、、はぁはぁ、、」
俺とシエルは自分達の身長の何倍もある木々が生い茂る、通称[南の森]を歩いていた。
かれこれ城を出てからもう、半日が経とうとしている。
木が生い茂っていて正確な太陽の位置はわからないが、どうやらもうすぐ夜みたいだ。
アトルリア王国はシエル達がいた城を境に大きく北と南に分けられている。
北側は多種多様な人々がくらす、住居地帯。
南側は現在俺達が歩いている巨大な森。
「何よ!だらしないわね。これでもあんまり早く歩いてないわよ。、、、まぁ小さい頃から南の森で遊んでたから慣れてるってのもあるかもしれないけど。」
地面に露出した大きな根っこと根っこの間をジャンプしながらシエルは答えた。
「それにしてもトウヤ。あんた体力無さすぎよ。、、、そういえば元の世界では何してたの?」
「はぁはぁ、、、、元の、、世界の、、、記憶が全く無いんですっ、、
はぁはぁ、、、、だからこうしてシエルさんと一緒に、、歩いてるんじゃないですか、、、はぁはぁ」
俺は途中で見つけた木の枝を杖代わりにして、息を切らしながらシエルについていくのがやっとだ。
「ふーん、まぁいいわ。理由はどうあれこうやって王国大戦に参加してくれてるわけだし。トウヤは呪文を唱えるだけでいいわ!私が王候補なんて全員倒しちゃうから!」
ぶんぶんと腕や足を振り回して、シエルはシャドーボクシングみたいに戦う素振りを見せる。
同時にシエルの大きな胸がゆさゆさと、凶暴に上下左右に揺れていた。
眼福。眼福。
疲れも吹っ飛ぶくらいの眼福である。
しかしこの半日歩きっぱなしの足腰は、まだまだ悲鳴をあげている。
「、、、、そうね。暗くなってきたし、この辺でキャンプを張りましょうか。トウヤも限界みたいだし。」
「はぁはぁ、ありがとうございます。色々と。」
本当に色々ありがとう。
―――数刻後
俺とシエルは焚き火を囲みながら腰を下ろしていた。
やっと落ち着いて喋ることができる。
こういう時は道中魔物とかに襲われるのが鉄板なんだが、不気味なくらい何事もなく歩いてこれた。
シエルは落ち着かないのか、座っている間ずっと周りをキョロキョロ見ていた。
「シエルさん、、、、落ち着かないんですか?」
「、、、、あのさ、それやめて。」
周りを見るのをやめるとシエルはムッとした表情で俺に答えた。
「そのシエルさんっての!なんか距離感じるし、もし戦闘になったら名前呼ぶの長いでしょ?」
「わ、わかりました。あの、シ、シエル?周りなんか見て気になることでもあるんですか?」
女性の名前を呼び捨てにするのはとても気が引けたが、これから長い付き合いになりそうだしここは気合の入れどころだ。
「静かすぎると思って。音もだけど、森のだいぶ奥に来たってのに魔物の魔力の残穢がほとんど感じられない。」
「魔力の残穢って何ですか?」
知らない単語が出てきた瞬間、質問することが道中の日課になっていた俺はすぐに反応した。
「そっか。トウヤはユグドラシルの事何も知らないんだった。あのね、ユグドラシルに生きる生き物は多かれ少なかれ魔力を持っているの。残穢とはそれの残り香みたいなもの。」
「南の森の魔物は奥深くに生息してるから、城近くの浅いところで遊ぶのは安全だったの。それが奥に来てみても、弱い魔力の残穢すらも感じない。」
俺は腕を組みながらシエルの話をうんうんと頷いて聞いていた。
「考えられる理由は2つ。ひとつはもともと魔物は南の森に生息していなかった。子供たちを奥に行かせないようにする大人達の知恵だったのかもね、、、、もうひとつは、、、」
「もうひとつは?」
シエルが急に黙って俺の方を見たまま固まった。
ものすごい驚きようだ。
そんなに驚くようなことを思いついたのか?
「シエル?どうしたんで―
「トウヤ!避けて!
俺の声はシエルの叫び声にかき消された。
その叫び声に俺の体はビクっと反応して、正面のシエルの方にジャンプした。
ガシャァ!
囲んでいた焚き火が大きな尻尾で叩きつけられ無惨にもバラバラだ。
その尻尾の持ち主は、細かく散った焚き火の火花で森の闇に鮮明に映し出された。
暗闇に光る2つの赤い目、開けた大きな口からはジュージューと音を立てて何やら毒のようなものが滴り落ちている。
でかい蛇だ。全長何十メートルになろうかというその大きな体を木々に巻き付けて、こちらを睨んでいる。
身体は黒光りする鱗に包まれており、全身から紫色のオーラのようなものが噴き出ていた。
「シ、シ、シ、シエルッ!ももももうひとつの考えられることって何ですか!?」
俺はシエルの後ろに隠れながら震える口で質問した。
「もうひとつは、残穢を感じられないほど強力な魔力をもった魔物が森の魔物を全滅させて、私たちもその罠にかかってる可能性があるってこと!」
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アトルリア王国
国民の居住区「居住地区」と巨大な草木が密集した「南の森」に二分される王国
城を境に北に「居住地区」南に「南の森」に二分されている。