深夜の謝罪と感謝
晩餐会が終わって時計の針は深夜を指していた。
シエルとルーシィは飲み疲れてベッドで先に就寝している。
ロゥリンとテトは食べすぎたのか2人と同じようにベッドで寝息を立てて寝ていた。
カランッ
ニコラスの持つグラスの中の氷が音を立てて溶ける。
俺とニコラスとラトシールは風が冷たく吹くバルコニーのテーブルに居た。
ニコラスとラトシールは向かい合って椅子に座り、俺はバルコニーの手すりに体を預けている。
「お酒で火照った体に夜風が心地よいですね。」
喋るラトシールの毛並みが夜風になびく。
テトと同じく白銀の毛並みだ。
「本当ですね、、、ここ数日バタバタしていてこんなにゆっくり時間を感じるのは久しぶりです。」
「トウヤ殿はユグドラシルに来てまだ数日。これだけ慌ただしい日々が続いていたのだ。今日くらいはゆっくりされるといい。」
ニコラスが酒を口に運ぶ。
「ははは。その数日で慣れちゃいましたよ。」
俺は苦笑いしながら空を見つめる。
「改めて、、、トウヤ殿。危険な目に遭わせてしまい本当にすまなかった。そしてラトシール様。ドムラからすぐに救い出せずに本当に申し訳なかった。」
ニコラスはその場の床に額を擦り付け土下座する。
「ニコラスさん!顔をあげてください!」
「そうです。ニコラス様。わたくし達親子はすでに救われております。」
ニコラスはゆっくりと顔を上げるとまた椅子に座り直した。
「、、、シエル殿は気づいておられたようだが、ワシは今回の盗難事件の犯人をすでに知っておったのだ。それにもかかわらず回りくどいやり方で、トウヤ殿とシエル殿を危険に晒してしまった。」
ニコラスの目はとても悲しそうだ。
暗い銀色の瞳に影ができている。
「ドムラの父親のザムザは商売に魂をかけている。自分の息子には金と権力だけを与え、真っ直ぐ見ることはない。そんな父親だった。」
「周りの人間を一切信用しない。ドムラはそのように育っていった。しかしたまに屋敷に顔を出すワシにだけは赤ん坊の頃から懐いておった。」
ニコラスはグラスを見つめながら続ける。
「口は悪く、喋る内容といえば父親の愚痴や世の中への不満ばかりであったがな。それでも少しはワシに心を開いていた。」
「ある時ドムラが奴隷商売に手を出すと言ってきた。ワシは断固として反対した。その時にワシはドムラにとって1番聴きたくない言葉を言ってしまったのだ。」
「''お前はザムザとは違う''とな、、、ドムラは激昂しそれ以来ワシを遠ざけて生活するようになった。」
ドムラとニコラスはやはり知り合いだったようだ。
ドムラとの事件の最後に見せたニコラスの表情の意味が俺はここでハッキリ分かった。
「奴が獣人族の皆に対してやった事は到底許されることではない、、、ドムラは父親の背中を追い続けていた。いつか認められるようにな。いつしかその目標は黒く濁った欲望へと変わってしまったのだ。」
「ドムラの事はワシが然るべき対処をする。うやむやには決してしないとここに誓おう。」
かなりの責任をニコラスは感じているようだ。
俺やラトシールも巻き込んでしまったという思いが強いのだろう。
「ニコラス様。そんなに重く背負わなくて良いのですよ。確かにこの数年はわたくし達にとって思い出したくはない記憶になりました。しかし、悪いことだけではありません、、、テトはトウヤ様に、、、パートナーに出会えたのです。」
ラトシールはニコラスと俺の手を握る。
「魔獣の事も、、、わたくしの夫の事もトウヤ様とテトがどうにかしてくれるはずです。」
そう言うとラトシールは俺にニッコリと笑いかける。
月に照らされたラトシールの笑顔はまるで天女のような美しさだった。
「もちろんです。俺たちに任せてください。」
「ふふふふ。頼もしい限りです。」
「そうか、、、ラトシール殿、トウヤ殿。少しばかり心が軽くなった。本当にありがとう。」
ニコラスも俺とラトシールに笑顔を見せた。
俺も少し安心した。
「トウヤ様。テトを頼みます。あの子は、、、まだ自分では気づいていないけれど、とても重いものを背負っています。獣神国ガルニカの、、、歴史をその小さな体に背負っています。いつかテトがひとりで立ち上がれなくなった時、トウヤ様が手をとってください。よろしくお願いします。」
ラトシールはテトと同じ翡翠色の瞳で俺の目を見つめる。
俺は数秒その瞳の力強さに圧倒された。
「はい。もちろんです。テトはもう俺とシエルの仲間ですから。」
「ありがとう。」
深く内容を聞きたかったがラトシールの雰囲気に飲まれて聞けなかった。
口を開くのが俺にとっては精一杯の抵抗だった。
―――数刻後
「トウヤ様。手の甲を見せてもらえますか?」
「ええ。いいですよ。」
俺は両手の白い手袋を取って手の甲をラトシールに見せた。
「右の甲には逆巻く真紅の炎と竜''アトルリア家の紋章''。そして、、、」
ラトシールは俺の左手を両手で持ち見つめる。
「そして生命を司る翡翠の風と獅子''ガルニカの紋章''。」
ラトシールはそう呟き少しの間沈黙する。
「曾祖父から聞いたことがあります。古い王国大戦で1人の契約騎士に複数の王候補が契約する事があったと。」
「おお!トウヤ殿はまさにそれですな!」
ニコラスは少し酔っているのか頬を赤くしている。
「トウヤ様はもし王国大戦で勝ち残ったら何を望むのですか?」
そう聞いたラトシールは急にハッとした表情になる。
「トウヤ様すみません!わたくしったら根掘り葉掘り、、、言いたくなければ言わなくて良いのです!少し酔ってしまったのかも。」
「いえ!全然そんな事なくて、、、俺はユグドラシル以前の記憶がないんです。なのでその記憶を戻してもらおうと思っています。」
「記憶が、、、」
ラトシールは悲しそうに呟く。
「、、、してトウヤ殿。その原因はわからないのですかな?」
「アトルリア王国のガーダンという魔術師に見てもらってなんとなくは分かっています。」
「ガーダン!まさかガーダン・サイモンか!?まだご存命だったとは、、、あの方ほど召喚魔術に長けた魔術師はいない。ガーダン殿はなんとおっしゃられていた?」
「召喚の際に魔術攻撃を受けた可能性があると。たしか秘匿系がどうのこうの言ってたような。」
「うーむ。」
ニコラスはグラスをテーブルに置いて腕を組む。
深く考えているようだ。
「記憶に干渉する魔術は古の魔術として知られています。その凶悪さ故に遠く歴史の彼方に葬られた魔術、、、。何千年も前に。」
ラトシールもニコラスと同じように真剣な顔で考えている。
「そのとおり。秘匿系の一種、、、再現はおろかその魔術の片鱗を掴むことさえ叶うわけがないのだ。」
「、、、その秘匿系ってなんですか?」
ラトシールとニコラスは2人で顔を見合わせると少し驚いたような顔をした。
「そうですね。トウヤ殿はユグドラシルに来たばかり。我々の魔術の機構のことは知るはずもないですよね。」
ラトシールは喋りながら俺ににこりと微笑む。
「わたくしが詳しくお話ししましょう。この世界の魔術の理を。」
八芒武装
晩年のオクタ・デクスが残した8本の魔具。
使用者の魔力を大量に消費するが、それぞれの武装は天変地異を引き起こすほどの能力を備えている。
八芒武装の所有者を八芒星と呼ぶ。
現在使用可能呪文
使用者:シエル・アトルリア
初期呪文
【火焔球】
手のひらに火球を生み出し、前方に放出する。
弍頁呪文
【焔身一体】
使用者の脚力を著しく増幅する。
副次効果として、肉体ダメージの小回復と動体視力が底上げされる。
使用者:テトラ・ガルニカ
初期呪文
【露命治癒】
小さな猫の使い魔を召喚、使役する。
対象者の傷を癒す能力がある。
弍頁呪文
【守護堅円】
多数の六角形の結界を瞬時に円形に展開する。
出力の弱い魔術を拡散させ無力化することができる。




