旅立ち
「あの、意味がわからないんですが」
「最後まで勝ち残った王候補にはユグドラシルの王の権限!召喚騎士はなんと!なんでも望みがひとつだけかなう!、、、と言われておる、、、」
「、、、言われておる?なんですかその曖昧な表現は。」
少しだけ自信なさげなガーダンの表情を見逃さずに、俺はすぐ返答した。
「いやいや、絶対叶う!叶うはずだ!おぬしの記憶を戻すことなんて余裕である!」
少しだけ焦りながらもガーダンの瞳は嘘をついているようではなかった。
人の嘘が見抜けるとは俺は元の世界で相当、人の目を気にしていたのかもしれないな。
俺がガーダンを睨みつけていると、突然テラスの外の中庭から声がした。
「トウヤー!ガーダンから王国大戦の説明は聞いた!?私は準備できたからもういつでも出発できるんだけどー!」
テラスから下を見ると中庭で、軽く旅支度をしたシエルが大きく手を振りながら笑顔で呼びかけていた。
「、、、あんなに楽しそうなシエル様を見るのはいつぶりか、、、アレス様とシャーリー様がおられる頃以来の笑顔ですな。近頃涙もろくなってしまった。ハッハッハ!」
「出発?出発ってどういうことです!?戦いってここでやるわけじゃないんですか!?」
「王候補同士が出逢えばいつでも戦いは始まる。最後の1組になるまでな。しかし、それ以外にもうひとつ手段があるのだ。」
ガーダンはそう言うと杖で魔術書の表紙をコツンと叩いた。
その瞬間四角いリュックが空中に出現。
その中に魔術書がすっぽり入ってしまった。
そのリュックは上からパタンと閉まると、俺の背中にガチャガチャと音を立てて装備された。
「このユグドラシルのどこかに1冊だけ王の魔術書と呼ばれるものがある。それを探し出すことができればすぐさま大陸の王に選ばれる!、、、、まぁ、歴史上1人も見つけ出せた者はいないがな。」
そう語りながら今度は俺の頭をコツンと杖で叩いた。
みるみるうちに俺の洋服は紺色のファンタジー色が強いインナーとズボン、白いフード付きのローブに変わっていった。
「すげぇ、、、魔法みたい。ガーダンってもしかしてすごい人?」
驚きのあまり口調がタメ口になってしまった。
俺はくるくると回りながら、自分の格好を観察した。
「旅立ちの記念に贈り物だ!ハッハッハ!それとこれもな。」
そういうとガーダンは魔術書を出した時と同じように、懐から白い手袋を出した。
「おぬしの紋章は手の甲に刻まれておるのでな。これをいつもつけていなさい。召喚騎士であることがバレないほうが旅をしやすかろう。」
「俺のこれ、いったい何なんですか?この城の至る所にこれと同じ模様が―
手袋をつけ終わりながら喋っていた俺の身体は、急に赤い光に包まれた。
気がつくとガーダンが笑顔で杖をこちらに向けている。
「それもこれもシエル様が説明してくれるはずだ!とりあえず行ってきなさい!」
そう言うと杖を中庭の方にブゥンと振り上げた。
同時に光に包まれていた俺の身体も宙に浮き、中庭に落ちていった。
「うわぁぁあ!」
俺の叫びも虚しく地面スレスレのところで落下は止まり、赤い光は弾けて俺は尻もちをついた。
「痛てててて。ちょ、待ってください!まだ何も教えてもらってませーーぐぇっ!
俺の懇願する声は遮られた。
グンっとフードを掴まれ後ろに引かれ、俺は長座体前屈のような格好でズルズルとシエルに引きずられていた。
「行ってきます!ガーダン!わたし絶対王になるから!絶対に見つけてみせるからね!」
シエルは俺を引きずりながら、満面の笑みでガーダンに叫んでいる。
「ええええええ。まだ心の準備が、、、」
俺の最後の絞り出した心の声はそよ風のように、宙へと消えていった。
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