王国大戦
どうやらここは城の中らしい。
俺は黒いローブの老年の男に外の景色が見えるテラスへ案内されていた。
シエルは身支度があるとか何とか言って、どこかへ行ってしまった。
「あの、、知りたいことが山ほどあるのですが、、、」
老年の跡をついて行きながら質問していた俺は、テラスに出た瞬間言葉を失った。
北欧風の広大な街が目の前に広がり、その遠くには標高が高く巨大な山々。
空には見たことのない鳥や生き物が飛んでいた。
街には人々がひしめき賑わっている。
あれは獣人と呼べばいいのだろうか、耳や尻尾がある種族や鱗に覆われた竜のような種族。
多種多様な種族が行き交っていた。
「初めて見るものばかりであろう?はっはっは、、、無理もない。ここはお主のいた世界とは異なる次元の世界。超大陸ユグドラシルの1国、アトルリア王国なのだ。」
黒いローブの老年の男はテラスの椅子に腰掛けながら俺に語りかけた。
「何だここは、、、本当に異世界なのかよ、、、」
俺は眼前に映るファンタジーRPGのような光景に見惚れた。それと同時に完全にわかってしまった。ここは元いた世界では無いことが。
「お主の質問にはワシが答えよう。申し遅れた、ワシの名前はガーダン。このアトルリア王家に代々仕える召喚魔術師のガーダン・サイモンだ。」
先程までは頭まで黒いローブを被っていたので顔は見えなかったが、今は長い白髭を生やした優しそうな笑顔をこちらに見せている。
「ガ、ガーダンさん。ここが俺のもといた世界とは違うことはよく分かりました。なぜ俺はここに飛ばされたんですか?それにこの手の甲の紋章、、、さっきの赤い光、、あと、、、金髪の少女、、、」
「はっはっは。ガーダンでいい。トウヤと言ったな、、、お主はここに飛ばされたのでは無い。このガーダンが召喚したのだ。、、、このユグドラシルでは100年に一度大陸の王を決める戦いがある。」
「は、、はぁ、、、」
ガーダンは楽しそうに話し始めた。
ツッコミたい所は盛りだくさんだが、とりあえず最後まで話を聞いてみよう。
「ユグドラシルの100を超える国から各国の王候補1名を選出し、それぞれ異世界から召喚騎士を召喚し契約する。」
「王候補と召喚騎士がペアになって国の代表となり、最後の1組になるまで互いの魔導書を破壊し合う、、、、名前を王国大戦、、、どうだ簡単なルールであろう?」
ガーダンは杖を俺の方に向けて、ニッコリと微笑んだ。
「いや、、、すみません、、、よく分かりません、、、そのキャバリエってのに選ばれたのが俺ってことですか?」
「その通り!おぬし元の世界では何をしておった?召喚騎士に選ばれるほとんどのものが、何らかの才能に秀でたものであることが多いのだが、、、、」
ズキっ
またこの痛みだ、、、
ここに来る前のことを思い出そうとすると、頭痛がして何も思い出せなくなる、、、
「それが、、名前以外ほとんど何も覚えてないんです、、、」
「、、、ほほう、なるほどなるほど。やけに冷静に聞いておるなとは思っておったが、それで合点がいった。」
「初めてこちらの世界に召喚されたものは[元の世界に帰してくれ!]と喚き散らすのだが、おぬしは召喚契約の際に何らかの魔術攻撃を受けたと見える。記憶抹消、改ざん、、封印、、何にせよ秘匿系だな。うーむ、これは珍しい!」
ガーダンは俺の頭を観察し、ぶつぶつ独り言のように考えながら言葉を紡いでいた。
しかし急に諦めたようにニコリと笑い、懐から辞書くらいの大きさの真っ赤な本を出した。
「ほれ!これがおぬしとシエル様の魔導書だ!これを破壊されたら資格抹消!、、、、おぬしにもわかるように言うとシエル様は大陸の王にはなれず、おぬしは元の世界に戻る!」
目から鱗の情報が最後に飛び出た。
元の世界に帰れる!?
今すぐこの魔導書とやらを叩き壊そう。
「、、、今すぐ壊そうと思っておるな?、、無論ワシがそんなことはさせんし、今壊したところでおぬしは記憶のないまま強制送還されるぞ。さっきも言ったであろう。それは魔術攻撃によるものだと。うっすらだが魔力の残穢が残っておる。」
「それは困ります!!」
自分でびっくりするほど大きな声が出てしまった。
記憶喪失で戻るなんてここに召喚される事とほとんど同じじゃないか。
冗談じゃない。
「ハッハッハ!何だ、大きな声が出せるじゃないか。、、、、、ひとつだけおぬしの記憶を戻す方法がある。」
「本当ですか!?どうすればいいんです!?教えてください!」
「まぁまぁ、最後まで話を聞け。」
声を荒げる俺を諌めるようにガーダンは手を上下にゆっくり振りながら続けた。
「その方法とは、、、王国大戦で勝ち残る事である!」
この爺さんボケてるのか、、、
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