傲慢病
ニコラスの屋敷の2階。
青や赤、色とりどりのステンドグラスが窓の部分に装飾されている。
メイド長ルーシィの後ろについて、長く続く廊下を歩いていた。
一段と重厚で煌びやかな装飾が施された扉の前でルーシィはピタリと止まった。
「こちらです。」
そう言うとルーシィは、重そうな扉をその細腕で難なく開ける。
ギイイイィィイ
バタン!
俺たちが中に入ったのを確認すると、扉は音を立てて閉じた。
「ロゥリンが無礼を働いたようですまない。彼女はユグドラシルに来てまだ日が浅いのだ。それを言うとお主もそうであろう?トウヤ殿。」
黒い顎髭を蓄え、眼鏡をかけた50代くらいの男が机を挟んで椅子に座っていた。
高級そうな黒のスーツに身を包み、鋭い眼光を放つ。
その瞳はルーシィと同じ黒みを帯びた銀色。
「、、、あなたがニコラスね。どうしてトウヤのことを知ってるの?」
シエルの声色に緊張が見て取れる。
それもそのはず。
初対面の人物に王国大戦の参加者だとバレているのだ。
そのことを知っているのは、明らかに王国大戦に関わりのある人物。
要するに敵だ。
「ユグドラシルに来て日が浅い、、、、まさかさっきのチャイナ服の子!召喚騎士!?」
チャイナ服という単語が俺の口から出てきたことにも驚いたが、それ以上にこの事実に驚いた。
マジか。
俺以外の召喚騎士を初めて見た。
というか俺より相当強そうだったぞ。
「トウヤ殿だけではない。お主もよーく知っておる。アレスの愛娘よ。」
「父様を知っているの!?あなた、、、本当に何者!?」
シエルの父親?
そういえば城を出る時ガーダンが喋ってたような。
そう思うと俺、全然シエルのこと知らないな。
シエルが臨戦体制に入る。
それを確認した俺もすぐにリュックから魔術書を出す。
シエルと道中話していたのが役に立った。
シエルの魔力を肌でビリビリ感じた時は、すぐに魔術書を手に取るように言われていたからだ。
数秒の間、沈黙と緊張が走る―――
「ワッハッハ!すまない!そんなに驚かせるつもりはなかったのだ!2人とも本当にすまない!」
鋭い眼光は一気に優しい眼差しへと変わり、ニコラスはケラケラと笑い出した。
俺とシエルは目を丸くして2人で顔を見合わせていた。
「いやいや、改めて自己紹介といこう。わしの名前はドローズ・ニコラス。現ニコラス家当主でありシエル殿の父、アレス・アトルリアの友人だ。」
「父様のご友人!?本当なの!?、、、、城の外で父様の知り合いに出会えるなんて、、、こんな偶然、、、。」
「あの、シエルのご両親って、、、」
聞くなら今しかない。
そう決心して、俺は重い口を開いた。
「、、、トウヤには言ってなかったわね。父様と母様は私が幼い頃に亡くなったの、、、一番古い記憶は、2人と一緒に南の森で散歩してた時の記憶。私がまだ物心つかない時。」
「そう、、なんですね。」
俺は目を下に伏せて唇を噛み締めた。
「当時ユグドラシル全域に蔓延していた疫病が原因。2人ともよ。正体不明の魔力障害。あらゆる魔導師が原因究明に全力を注いでいたわ。」
「魔力の強いものから生命を奪っていく。そんな疫病につけられた名前は[傲慢病]。遠い国の言葉で傲慢という意味が込められているそうよ。皮肉よね。」
「凄まじい流行り病だったんですね、、、傲慢病、、、今はどうなってるんです?」
この魔力の世界、ユグドラシルにも疫病が蔓延するのかと驚いた。
メディコでも魔術で治療するのを見た。
大抵の病や傷は簡単に治るものだと思っていたからだ。
「そこからはわしが話そう。」
シエルの話を頷きながら聞いていたニコラスが口を開いた。
「このユグドラシルから一定数の強力な魔力をもった生物が倒れると同時期に、傲慢病は跡形もなく消え去ったのだ。まるで病自体に意志があるかのように。」
ニコラスは続ける。
「真相は闇の中。事実として残ったのは、この病は人族にしか伝染しなかったという事。そして大勢の王家の一族が滅びの危機に直面したということだ。」
「傲慢病、、、」
明らかに不自然な病。
到底自然のものとは思えない。
「まぁ。昔の話よ。私も幼かったから理解するのに数年かかったわ。事実を知った時悲しかったけど、今は父様と母様が見守ってくれてると思ってるの。どんな困難も乗り越えて、2人に見せてあげようって!」
シエルは俯いた俺に拳を向けてにっこり笑った。
その拳に俺も拳を同じように合わせ、「そうですね」と笑い返した。
傲慢病
20年前にユグドラシルに蔓延した原因不明の流行り病。
魔力が強い人族に感染し、様々な魔力傷害を引き起こす。
感染したものは数日のうちに衰弱し、のちに死に至る。
魔力傷害
他者の魔力が体に流れ込み、強烈な痛みを引き起こす現象
魔力の性質によって症状は様々




