奴隷輪
「獣人族のテトの速さに追いつける人族なんて初めて見た。」
数分追いかけていた、猫耳の少女は3方向壁に囲まれた路地裏で逃げ場が無くなっていた。
「はぁはぁ。やっと、、、はぁはぁ、追い込みましたよ。さぁ、その本を返してください!」
「、、、あなたから盗むのは骨が折れそう。この本、そんなに大事な物なの?」
猫耳の少女はまるで品定めしているかのような上目遣いで、俺の顔をまじまじと見ている。
「友達というか、パートナーというか、とにかくその人の大切な物なんです。」
「友達、、、そう、、、友達は大事にしなきゃダメ。テトもママからそう教わった。」
そう言うと少女は魔術書を地面にパタンと置き、左右の壁を蹴りながら上まで登っていった。
「すごい身体能力、、、じゃなくて!君!ご両親はどこにいるの!名前はなんと言うんですか?」
壁の上にちょこんと猫のように座っている少女に俺は大きな声で質問した。
「テト。獣人族のテト。パパはいない。ママは一緒にご主人様に飼われてる、、、じゃあもう行くね。バイバイ。速いおにいちゃん。」
そう呟くと消えるように去ってしまった。
「ご主人様?、、、一体なんだったんだ。とにかく魔術書を取られなくてよかった、、、テト、、、不思議な子だったな。」
魔術書をリュックに入れ直し、シエルのところに急いで戻ろうと思った瞬間―
「いたあああ!トウヤ!あんた王女をほったらかしにして、一体どこをほっつき歩いてんのよ!もう!」
「あ!シエル!実はかくかくしかじかで―
―――数分後
俺達はストリートの商店街に戻ってきた。
「ふーん。そのテトって子から取り返してくれたんだ。そんなに汗だくになるまで頑張ってくれたんだね。てっきり私とのショッピングに飽きたのかと思ったわ。」
シエルに言われて気づいた。
俺の体は汗だくで額から大粒の汗が流れていた。
どうやらアトルリアの加護は、それなりに身体に負荷がかかっているようだ。
「まあ、無我夢中でしたからね。」
「と、取り返してくれてありがとう。」
シエルは少し照れくさそうに感謝を述べる。
一緒に行動するようになって、だんだん優しくなってきてる気がする。
「その黒い首輪、たぶん奴隷輪ね。おおかた、主人に金目のものでも盗んでこいとか言われたのね。可哀想に、、、」
「奴隷輪?」
シエルの目が悲しみを帯びて下に向く。
「、、、奴隷輪は魔具のひとつよ。隷属したい相手につけるの。それだけで簡単に主従関係が魔術契約によって結ばれてしまう。命令に背くと魔力傷害を引き起こし、強烈な痛みが身体中を駆け巡るわ。」
「はずせないんですか?」
「かけられた側からはまず無理ね。はずす方法は2つ。主人側の魔力切れ、もしくは契約破棄。」
「奴隷輪はその簡単さと凶悪さゆえに、ほとんどの国では禁止されているの。でも、ツウリュウみたいに貧富の差が激しい国では、まだまだ奴隷文化は根付いている。」
「じゃあ、テトも誰かの奴隷ってことですね、、、、」
2人の間に静寂が訪れる。
どうにかしたいけどどうにもできない。
テト1人を助けたとしても、そのほかの奴隷を全て助けるのは難しいことを理解しているがゆえに、何も言えない。
「、、、そうだ!お礼に何か好きな物でも買ってあげるわ!」
暗い雰囲気を変えるようにシエルはパンと手を叩き、にっこり笑った。
「ええ、でもツウリュウに着いてからというもの金銭面でシエルに世話になりっぱなしですし、、、」
「そんなのいいのよ。王国大戦を生き抜くパートナーなんだから。それくらい当然よ。」
「パートナー、、、」
「な、何よ!私とパートナーじゃ不服なの!?」
「いえ、嬉しいです!友達ってよりもパートナーの方がしっくりきますね!、、、じゃあアレを一緒に食べましょう。」
俺は美味しそうな匂いのする屋台を指差した。
何の肉かわからないがどうやら串焼きのようだ。
「うん!一緒に食べましょ!」
シエルの嬉しそうな笑顔は商店街の人だかりの中でも、ひときわ輝いて見えた。
少しドキッとしたのは心の中に秘めておこう。
奴隷輪
魔鉱物で作られた黒い首輪
つけられた者は強制的に隷属される
魔力が極端に多い者には効果なし
魔力傷害
他者の魔力が体に流れ込み、強烈な痛みを引き起こす現象
魔力の性質によって症状は様々




