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出会い

落ちている

落下している


―――


『想像できることは、すべて現実なのだ』


有名な画家パブロピカソの言葉だ。

人間が想像できることは、すべて起こりうる可能性があるということらしい。

しかしこの場合はその言葉が当てはまるのだろうか。


俺の名前は柊冬夜(ひいらぎとうや)

この春に大学入試を突破して夢のキャンパスライフの真っ最中だ。


[大学で独り暮らし]これが幼い頃からの俺の夢だった。

もともと仲の悪かった両親からの仕送りはほとんど無く、バイトの掛け持ちでなんとか暮らしていた。


大学の図書館で調べ物をしていたはずが、気づいたら上空から落下している。

図書館から一瞬で上空何千メートルにテレポートするという想像を誰かがしたに違いない。

そうでなければピカソの名言が間違っているということになる。


「うううう、意味がわからん」


落ちながらひねり出した俺の声はひどく情けなく、耳に届くのは自分の体が風を切り裂く音ばかりである。

いや、気づいた瞬間は大声をあげたさ。

絶叫するフェーズはとっくの昔に過ぎ去ってるんだなこれが。


しかし、、、地面への到達が遅すぎる。

上空かと思ったけど違うのか?


体感5分くらいは落ち続けている。

最初はこれが走馬灯かとも思ったがさすがに違うようだ。


「、、空、、じゃないのか、、、」


風圧でかすかにしか目を開けていられないが、なんとか周りを確認してみる。


「白い?、、雲の中か?、、いやずっと白い、、、これは、、、ぐっううううっ」


右の手の甲が熱い。まるで熱した鉄を押しつけられているかのようだ。灼熱の痛み。


呪文の九(スペルオブナイン)の詠唱完了致しました。姫様をここに呼んできてください!召喚系呪文は魔力(マナ)の伝達速度が遅いとはいえ、もうまもなく召喚されます!急いでください!』


状況を分析中だった俺の声に覆いかぶさるようにその声は響いた。


―瞬間


白い閃光に俺の身体は包まれて消えた。



――――――



かなりの時間が経った気がする。

まるで何年も何年も夢の中にいたような、そんな感覚。

だんだん意識がはっきりしてきた。


ふにゃっ

なんだこれは?

なにかやわらかいものに顔をうずめている。


大きなマシュマロのような感覚だ。

とても心地よい、どこか懐かしい香り。


ここは天国かもしれない。

なるほど夢の可能性が高いな。


疲れているときに落下する夢はよく見るというし。

俺はやわらかいものに顔をうずめながらその感触を楽しんでいた。


「な、な、な、、、」


「どきなさい!変態いいいいいいい!」


そんな女性の怒号とともに俺の身体は後方に吹っ飛んだ。

どうやら足で思いっきり蹴られたらしい。


ドン!という衝撃音と背中の痛みに俺は目を開けた。


「痛てててて、、いきなり何するんですか!いきなり暴力ふるうなんて普通ありえな、、、い、、」


声が出ない。

さっきピカソがどーのこーのいってたが正直どうでもいい。


そこにはどんなに有名な画家が束になっても描けない。

それくらい美しい美少女が白いレースのような服を身にまとい、腕を組んで立っていた。


カーテンから入ってくる日光を浴びてキラキラとなびく、金色の長い髪。

吸い込まれそうなほど奇麗な深紅の瞳。


透き通るような白い肌。

たわわに実った2つの大きな、、、、、っとこれ以上はやめておこう。


「あ、あんたどこから侵入してきたの!?変な服だし、、王女の部屋に入り込むなんて、、い、、いい度胸してるわね。それに、誰にも触らせたことないのに体までっ!、、」


外国の人形かと思うような彼女の容姿から発せられた声からは、強烈な怒りを感じた。

透き通るほど白かった顔の色がどんどん赤面していく。


「、、、、、死になさい」


「ごっ誤解です!俺にもなにがなんだかわからないんです!白いもやみたいなところにいきなり放り出されて、、」


自分で焦りながらも言葉を発している途中で、違和感に気づく。


「、、、あれ、、落下する前って俺何してたんだっけ、、何も思い出せない、、」


初期呪文(スペルオブファースト)、、、、」


どうやら俺の話を聞く気は微塵も無いようだ。

彼女はぶつぶつと何か呪文のようなものを唱えながら俺の方に右手の掌を向けた。


、、、空気が熱い。俺と彼女の間の空気が深紅に揺らめいている。

だんだんその揺らぎが彼女の手のひらに集中していく。


ヤバイ。何が起きてるかわからないが恐怖を感じる。

俺の中の何かが逃げろと叫んでいる。


しかし動けない。これが死の直前なのか?


「、、、、ボ、、へ、、」


『シエル様!殺してはダメです!その方こそシエル様の召喚騎士(キャバリエ)です!』


突然部屋に老年の男がぜぇぜぇと息を切らしながら飛び込んできた。

その男の叫び声で女性の言葉は遮られた。


真っ黒なローブに長い杖。

杖の先には彼女の瞳の色に似た深紅の球がはめ込まれている。


シエルと呼ばれた彼女の手のひらに集まっていた深紅の光は少しずつ消えていった。

それと同時に恐怖も薄れていった。

いったい何だったんだ。


「、、、、第一印象は最悪ね」


少女は伸ばした右手を腰に当てながら、そう呟やくとがっくりとうなだれた。



―――数刻後



「ねぇ本当にコイツが私の召喚騎士(キャバリエ)なの!?間違いないのよね!?」


「ですから!先ほども申しました通り、召喚座標が少しずれて、シエル様のお部屋に繋がってしまったようです。それにその者の手の甲をご覧ください!しかとこのアトルリア家の紋章が刻まれています。」


腰が抜けてまだすっ転んだ状態の俺を放置して、老年の男と少女は言い争いをしていた。

それにしてもコイツはないだろう。


というかこの部屋はなんだ。

周りの装飾品は明らかに日本のものとは違う。

例えるなら西洋風といったところか。

高価そうな机や、キャンドルが置かれ全てに真っ赤な竜の紋章が刻まれている。


「あ、あの、、説明を、、、」


一つも理解できない状況に、俺の声はひどく小さく掠れていた。


「く、、、ちょっと!あんた!紋章(エンブレマ)をちゃんと見せなさい!」


紋章(エンブレマ)?何を見せろって?、、と、、というか俺の質問に答えてくれませんか?ここは一体どこで、あなた達は何者なんですか!?」


俺はなけなしの勇気を振り絞って、質問を投げかけた。


「そんなのどうでもいいでしょ!ああっもう焦れったい、、、あんたの手の甲に刻まれてるでしょ!よく見せて!」


そう言って少女は俺の手を乱暴に掴んで、自分の方に引き寄せた。

その瞬間、灼熱の痛みが俺の手の甲に走りそのまま全身が真紅の光に包まれた。


「っうわああああ!何ですかこれっ!?燃えてる!身体がっ!全身がっ!燃えて、、、、あれ?熱く、、ない、、、炎じゃない?」


俺の全身に回ったその真っ赤な光は温かく、体の底から力が溢れ出てくるような気がした。

その力の正体はわからないが、俺は感覚的に理解していた。


身体が軽い、、、エネルギーに満ち満ちている。

走り出したらどこまでも走れる、、そんな感覚。


「そう、、、やっぱり私の召喚騎士(キャバリエ)はあんたなのね、、はぁ。100年に1度の王国大戦(ワールドクラウン)なのにこんなに冴えない男が私のパートナーなんて、、、。」


手を握ったまま、少女は深くため息をつきその真紅の瞳で俺の目を睨みつけた。


「あんた名前は?」


「名前?、、ひ、柊 冬夜です。」


記憶がほとんど無いのに自分の名前だけはわかる。変な感じだ。名前以外の情報を思い出そうとすると、脳の奥がズキズキと痛む。


「トウヤ、、変な名前ね。私はシエル。この誇り高きアトルリア王国の第1王女、シエル・アトルリア。」


少女は自信満々に自分の名前を言い切ると、俺の手を急に離した。

その反動で俺はまたドン!と尻餅をつき少女を見上げる形になってしまった。


少女はニヤリと笑うとすぅっと息を吸い込んだ。


王国大戦(ワールドクラウン)の召喚契約は1度のみ。過去に例外はないわ、、、、しょうがないわね、、、、トウヤ!あんたが私を王にしなさい!」


その少女の発する言葉と表情、立ち姿から俺は目を背けることができなかった。

というより圧倒された。


自信に満ち満ちており、気迫というのだろうか。

先ほどの光と同じような不思議な温かさを感じた。


そして俺の手の甲には炎を纏う竜の紋章が刻まれていた。


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