セーラー服の彼女2
私が間接的にそう呼ばれ始めたのは、はてさていつの頃からだったかしら。
無論、私が俗世間的に言う「頭のおかしい」という意味でそう呼ばれていたわけでは断じてないということを大前提として話をするのだけれど、どうやら頭がおかしくなくとも私がした当然であるはずの行動は社会の風潮的なものから少し逸れていたらしい。
常識がどうであるとかを語るつもりはないのだけれど、普通に、普通ではなかったそうなの。
よくよく考えれば、なるほど確かに、私は私以外にそんな人を見たことがなかったわ。私の行動は社会的に見れば間違ってなくとも、そうね、やはり「変わっている」に分類されていたようだった。
当時、その事に気が付いていなかった中学生の私は幼なじみでなんだかんだいつも私の世話を焼いてくれる唯一の友達にその具体的な理由を聞いてみた事がある。
「少なくとも、ほかちゃん以外でそんな人を私は見た事ないなぁ」
そんな事ないでしょう。私くらいの平凡な人なんてそこら中に、それこそ配り歩いても星の数余るくらいにいるでしょうに。
「だとしたら、私は今頃国民から金を巻き上げて何もしない政治家みたいにあらゆる方面から糾弾されてるかもしれないね」
要領を得ないわ。
「別に悪い意味じゃないんだから気にしないでいいと思うよ?好かれはしないかもしれないけど、嫌われるようなことはないからね」
どうしてそう断言出来るの?
「漫画やアニメなんかにほかちゃんが出てくればそれはもう主要キャラに入ると思うもん。オマケにほかちゃんは顔が良いから主人公にだってなれるかもしれないね。でもって、そういう人達はだいたい嫌われたりはしないものなんだよ。むしろ好感が持てるね」
私はその人達とは違うわ。
「分かってるよ。だからこそほかちゃんはこの社会ではそう呼ばれるんだと思うよ?まぁ、私はほかちゃんのそういう所大好きだけどね」
告白するならもう少しまともなセリフを考えてきて欲しいわね。
「そう言わないでよ。私も最初は『変わってるなぁ』とは思ったけど、ほかちゃんのしてきた行動は確かに正しいことなんだからさ」
私だってそう思う。
「だって、捨て猫を拾ったり、迷子の親を探したり、ポイ捨てされたゴミを見つける度にゴミ箱に持っていくのなんて、そうそうできることじゃないよ?クラスのいじめっ子に殴りかかっていったときなんか私、口から心臓が出るかと思ったもん」
何かの小説で見たことがあったのよ。「全てを救うのは難しいが、目の前の人を救えずして全ては救えやしない」っていうセリフをね。だから、日頃からどんな事でも助けたいと思ってるのよ。
というより、誰かを助けるのは当たり前だと思っていたから。
だからこそ不本意だった。
私が―――「変わり者」だなんて呼ばれるのは。
ちなみにだけれど、この「ほかちゃん」っていうのは私のことよ。苗字の「星ヶ丘」の最初と最後の文字にくっつけただけの彼女からつけてもらった私の初めてのあだ名だった。何をするにも「ほかちゃん、ほかちゃん」とよく呼んでくれたから私もそれなりに気に入っていたわ。
それも、今は誰からも呼ばれることはなくなったけれど。