宮之阪のメモ帳3
宮之阪の家の柵の外から見える庭は以前と変わらず手入れされて綺麗なままだった。前回訪れた時はバラがたくさん咲いていたが、季節も移ろい今はマリーゴールドでいっぱいだった。
「どうやら今も庭師が通っているようだな」
ということは誰かが家に一度帰って来た、もしくは帰ってきている可能性が高いな。つまるところ、宮之阪が死はご両親の耳に入っていて宮之阪妹の拘束が解かれている、そう考えておいた方がいいだろう。最悪の場合、戦う事になるかもしれんからな。俺の妹がだけど。
「いくぞ」
俺は妹を一瞥してからインターホンを押した。ものの数秒後、応答があり宮之阪とよく似た声がスピーカーから聞こえて来た。明らかに宮之阪妹のものではないので、おそらくだが宮之阪の母親のものだろう。
「初めまして、宮之阪カエデさんのクラスメートの天野ヶ原といいます。カエデさんには中学の頃からすごくお世話になっていたので……」
詳しい事は言わずに来る途中買った花を見せながらそこまで話すと、友達が娘の為に尋ねて来てくれたと思ってくれたのか俺たちを優しく迎え入れてくれた。
宮之阪にそっくりな宮之阪母に連れられて仏間に通されると、仏壇の周りにはたくさんの花が飾られていた。どうやら手を合わしに来たのは俺たちだけではなかったらしい。ま、当然と言えば当然か。宮之阪だもんな。
それから俺たちは宮之阪妹の事を聞く前に、先に宮之阪の仏壇に手を合わせることにした。線香に火をつけ、香炉にさす。
「……ん?」
すると自然と視界に入って来た。宮之阪の遺影の他にもう一つ、宮之阪妹の遺影だった。当然、頭の中にはてなが飛び交ったが、とりあえず手を合わせた。
「カエデの為にわざわざありがとね」
やせ細っているというよりやつれているという表現の方が正しいだろう、宮之阪の母親が手を合わせ終えたところで話しかけてきた。目の下に濃い隈をつくっているあたり、ストレスのあまり眠れていないのだろう。
そんな人に対して亡くなった娘の事を聞くのは心苦しいのだが、俺は心の中ですいませんと謝りつつ意を決して宮之阪妹について尋ねた。
一分ほど沈黙があって、
「……二人ともそんな事をするような子じゃないと思うのだけど、長く家を空けていた私達には想像もつかない様な何か悩みを抱えていたのかもしれないわ……。つい三日前の事よ」
やつれていてもなお凛とした表情で宮之阪母はそう言った。
話の続きを聞くに、宮之阪妹は自室でロープで首を吊って死んでしまっていたらしい。宮之阪の母親曰く、姉妹仲がかなり良かったらしいので、姉であるカエデを追うようにして自殺したのではないかとのことだった。そうではないという事実を伝えた方がいいのかとも思ったが、わざわざ野暮なことも言うまい。勘違いしたままの方がこの人にとってもいいだろうからな。
それより話を聞いていて引っかかる事があった。俺はすっかり薄暗くなった帰り道を妹と歩きながら、改めて言葉を口に出して思考する。
「首吊り、か……」
それも三日前に。
宮之阪妹は偽物だった。つまりは実際は宮之阪とは全くの他人だ。宮之阪が原因で自殺するとは考えられない。そもそもブアメードの水滴実験だっけか、それをした時に強い「死にたくない」という意志が見て取れた。
自殺はあり得ない。
つまりは、誰かに殺されたわけだ。
頭の中でそれらの言葉をかみ砕き、もう一度反芻する。その瞬間、何かがこれまで抱いてきた違和感の糸に確実に触れた。そんな感覚があった。以前、ユウキが死んじまった時にほんの一瞬頭を過ぎった有り得ないはずの考えが、今回の宮之阪妹の死によって現実味を帯びてくる。
「私もその場に居たわけじゃないので分からないのですが」
俺の隣で顎に手を当てながら妹は言った。
「でも、不可能じゃない。私もすっかり失念していました。もしそうであれば全ての合点が行くというのに」
宮之阪とユウキ、そして河内森キョウコに宮之阪妹をも殺した化け物じみた真犯人。
よく考えなくとも一人心当たりがあるじゃあないか。
「……なぁ、妹。俺が必ず手に入れてやる。だから、確証を得るダメ押しという意味でも、あの宮之阪のメモ帳にどんな意味があるのかそろそろ教えてくれないか」
お前の答え次第で、全てが確信に変わるんだ。
俺がそう言うと、妹は仕方がないと言わんばかりに小さなため息をついて視線をこちらへ移して、
「……いいでしょう。それでメモ帳が確実に私の手元に来るのであれば。……おそらくですが―――」
そして妹は言った。
「宮之阪カエデのメモ帳には―――。」




