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俺の妹1-2

 カメラを隠した次の日、ユウキ不参加の宮之阪との二人きりの作戦会議でKと組んでいる人間を見つけ出す方法についてある程度話し合った後、俺は未だ耳に残っている宮之阪ボイスを何度も再生しつつ帰宅した。


 ふむ、靴が妹のしかないところを見ると、まだ両親は帰ってきていないようだった。妹の方は今日は部活が休みなのだろう、まだピカピカのローファーが玄関に丁寧に揃えてあった。風呂場からシャワーの音がするので、早めの風呂にでも入っているのだろう。


 いつも通りであれば家族がみんな揃うのは二十時頃だ。


 その時間までに俺はさっさとビデオカメラを確認するべく各部屋をまわってそれらを回収し自室に戻った。


 俺の部屋に誰かが入った痕跡は特にみあたらなかった。どこかのミステリー小説のようにドアを開ければ落ちてしまうようにしかけておいた紙がズレていなかったからな。


 それから俺は勉強机に座ると、一つ一つを早送り再生をした。


 リビングの映像は案の定おかしなところは無かった。まぁ、家族が揃っている状態でそうそう変な動きを見せたりはしないよな。次に両親の寝室の映像を見てみたがこちらも別段おかしなところはなかった。二人とも掛け布団の下に隠しておいた鏡を見ても首を傾げるばかりでKのような苦痛の表情を浮かべていたりはしなかった。


 そして一番気になっていた妹の部屋のビデオカメラ。


 帰宅した妹はまず制服から部屋着に着替えると、学校の課題があるのか勉強机に座りスクールバッグから教科書から何やらを取り出した。それから黙々と作業を始めた。特におかしなところはなかった。


 あとは、勉強机の引き出しに忍ばせた手鏡の不意の反応みるだけだった。


 それから数分妹は勉強を続け、そしてふと引き出しに手をかけた所で、その動きをピタリと止めた。まるで写真のように動かないまま固まっている。


 かと思えば次の瞬間、首だけをぐるりと横に向けて妹は真っ直ぐ俺の仕掛けたビデオカメラを見た。


 その開き切った瞳孔は、妹のそれではなかった。


 途端、俺は身体に電流が走ったように椅子から立ち上がると、咄嗟に自分の部屋のドアに鍵を掛けた。


 額に玉のような汗が次々に浮かんでくるのが分かる。心臓の音がうるさい。喉が乾いていく。


 一階から十八時半にタイマーをセットしておいた風呂が沸いた事を知らせる音楽が聴こえてきた。


 ―――――風呂はまだ沸いていなかったのか?

 今までに感じたことのない恐怖にも似た感覚のせいで同じ家なのに、凄く遠くで鳴っている様に感じる。


 動悸が激しい。自然と呼吸が荒くなっていた。手が震えるのを止められない。


 ……何でもいい、何か行動しろ。冷静になれないのは自分がよく分かっているだろ。とにかく動け。じゃないと俺はこのまま思考も停止して、身体も動かなくなっちまう。


 俺は自分にそう言い聞かせて、地面に固定されたと勘違いしそうになるほど重い足を机へと向かわせる。そして震える手でとりあえず自己防衛のためのダンベルを手に取ったところで思わずその腕が当たってしまい、自室に念の為仕掛けていた机の上のビデオカメラが地面に落ちてしまった。


 無機質な機械音の後、ビデオカメラが衝撃でひとりでに動き出し再生される。


 今日の朝、俺が学校に行く時間になって部屋を出てから夕方になるまで、射し込む陽の光が変わるだけの動かない映像が続く。


 だが、映像残り二十分くらいになった時、前触れもなく音もなく俺の部屋のドアが開いた。映っていたのは俺ではなく、妹だった。母親に似てすっかり美人になった妹のその表情は小学生の頃のように俺の部屋に何か勝手に借りに来たわけではなさそうだった。


 ふと、妹がドアのすぐ横のクローゼットを開けた。まるでロボットのような所作で不気味だと思ったのもつかの間、妹はそのまま隠れるようにしてその中に入りクローゼットを閉じた。


 そして、その後学校から帰宅した俺が部屋に入ってきて―――――そこで映像は終了している。


 宵闇は息を潜めて、部屋の明るさとは対称的に外は夜が訪れて深い青色の絵の具で塗りつぶされたかのように暗くなっていた。


 だから映っていた。


 机の正面の窓ガラスに、俺ともう一人。すぐ後ろに立っていた妹の姿が。

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