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もう一人の悪魔

 宮之阪が学校を休んで二日目の全ての授業が終わった午後三時半、俺たち生徒は担任教師の「重要なお知らせがあるらしい」という一言によって体育館に集められていた。突然神妙な面持ちでそんなことを言い出したもんだから、当然クラスのやつらは勘づき、久しぶりに現れたうわさのあいつの話に、誰かが死んだかもしれないにもかかわらずどこか浮ついている様子だった。


 学校長はざわめく生徒達を窘めるように咳払いをしてから重々しく口を開いた。


「……えー、残念なお知らせがあります。昨日、またこの学校で二人の未来ある人間が亡くなっている所が発見されました。どちらもまだまだ若く、我が校が誇る先生と生徒でした」


 ……二人?


「全員が葬式に参列できる訳では無いので、我々はこの場で彼らに黙祷を捧げたいと思います」


 いや、ちょっと待て。俺らが処理したのはあの地理教師だけのはずだろ?


 俺は周りの生徒に合わせて頭を下げ目をつぶりながら、一昨日のことについて思い返す。


 確かに俺達が処理したのは一人だけだったはずだ。俺以外にあいつに協力者がいるとは思えないし、もしかしてあいつは俺とか出会う前にもう一人ヤっていたのか?もしくは違う日に殺していたやつが昨日見つかったとかか?


 校長が場所や状況など詳しい話をしなかったせいで何も分からん。


 数列横に視線を送ると、俺に気がついたユウキもまた知らないようで少し目を伏せた後、首を横に振っていた。


 全校集会後、校内に張り出される新聞の一番下に件の地理教師ともう一人、今回自殺したとされる三年生の名前が記載されていたが見覚えも全くなかった。


「……学校も警察も騒いでないところを見ると、その三年の方も『自殺』だったんじゃないかしら」


 まさか。それならまるで「学校の悪魔」みたいじゃあないか。


「みたいじゃなくてそのものよ。まるっきり私を意識してるじゃない」


「それだけじゃないわ」とユウキは苛立っているのか、校内履きで廊下のタイルを忙しなく叩きつつ、


「これは明らかに人間の仕業よ。Kならわざわざ自殺に見せかけることはないだろうし、そもそも死体を作る必要がないもの」


 爪を噛み眉間に皺を寄せるユウキというのも、これはこれでなかなかに様になっていた。


「……何とも腹立たしいわ。仮にその三年生が普通の人間だった場合、それはもはやただの人殺しだもの。それを意図的に私と同じように行ったのであれば屈辱だわ。これ以上ない宣戦布告よ」


 宣戦布告って大袈裟な。そんな意図があった訳じゃないんじゃあないか?ドラマとかでよくあるみたいに、ついカッとなって殺しちまったからとりあえず偽装工作して、それで結果的にお前と被っちまっただけのように思えるけどな。


 挑発的な事を言ったつもりは無かったのだが、ユウキは「はっ!」と鼻で笑い髪を払いのけ胸の前で腕を組むと、


「笑止!これはただの自殺工作じゃないの」


 どういう事なんだ。


「自分はヤってない、という言い訳の為じゃないのよ。その人殺しは間違いなく狙って『学校の悪魔』のせいにしようとしているの。私自身がそれに気が付かないはずはないということを理解していてわざとね。私の事を知らなかった?そんな言い訳はこの学校に在籍している限り通用しないわ」


 言いたいことはまだまだあるようで、ユウキの怒涛の文句は長い針が時計を半周しても止まらなかった。


「何がしたくてそうしたかは分かりたくもないわね。はぁ、まったく…、今回のせいでKの他にも考えるべき事案が増えたじゃない」


 お前が世界を救いたい精神の塊なのは分かるが、そう色々な方向に手を出してちゃKすらも捕まらないんじゃないか?二兎を追う者は一兎をも得ずっていう言葉もあるくらいだし。


「そんなのは世界を救う気がない人間の言い訳よ。片方救ったから片方救えませんでしたじゃあ悪人とそう変わらないわ」


 そこまではっきり言いきれるユウキに、俺は何も言い返す言葉が思い浮かばなかった。こいつは本気でこの世界を救おうと思っているのだ。世界、地球丸ごと。


「……それはいいとして、じゃあ具体的な案はあるのか?」


「ないわね、今のところは」


 さっきの威勢はなんだったんだ。


「でも、そうね。手がかりも情報もないのよね実際。警察も昨日の夜に来たらしいのだけれど、半日で捜査を打ち切るくらいだから正直アテにならないわ」


 確かに、もうこの学校では何人もの生徒の死体が見つかっているというのに警察は三日そこらの捜査で引き上げてしまっていたからな。


 ユウキは溜息をつきつつ、頭を支えるように手を額に当てながら、


「自殺したとされる生徒の情報も意図的に隠されてて曖昧に濁されているところを見ると、おそらくだけど校長もグルなのよ。彼自信がKどうかは分からないけれどね。もし普通の人間だとしたら警察側から大金でも貰っているんじゃないかしら」


 こいつの推測を聞く限り、この学校は想像以上にKの侵攻を許しているようだった。まさか学校の代表である校長までもが敵方についている可能性が高いとはな。確かにこうも生徒が何人も死んじまっているのに休校的な対策の一つもとる話はなかったからな。


 これはいよいよきな臭くなってきやがったぜ。何か一つきっかけがあれば状況なんてオセロみたく一気にひっくり返りそうだ。

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