宮之阪という女子2-2
この事をユウキに話したところ、もう一日待とうという提案があった。
「あまり考えたくは無いのだけれど、彼女がKになってる可能性を考えたら今日何の準備もなくいきなり家に押しかけるのは危険だわ」
そんな悠長なこと言ってる場合かとツッコミたくなったが、ユウキの言う通りだった。宮之阪がKに襲われていた場合、それは宮之阪じゃなく全くもって別人なのだ。もし格闘技に長けているやつだったら俺なんて一溜りもない。
「それに、本当にKに襲われていたとしたら今日学校を休んでいる時点で手遅れよ」
確かにあいつは頭は飛び抜けて良いが、いかにも勉強大好きってタイプで運動は苦手そうだったな。胸にとんでもない重りもつけてるし。
そんな可能性なんて微塵も考えたくはないが、今からある程度覚悟しといた方がよさそうだな。頼むから明日には学校に顔を出してくれ、宮之阪。俺はまだ与えられるばっかりでお前に何も返せちゃいないんだ。
だが、神様は俺の願いなんて聞いちゃくれないないようで、次の日になっても宮之阪は学校に現れなかった。
「昨日の夜、何回かあいつの家に電話をかけたんだが……」
家にまだ残っていた中学の連絡網から宮之阪の自宅の電話番号を見つけた俺は誰か家にいるであろう時間帯を狙って数回かけたのだ。
「誰も出なかったのね」
俺の言葉を引き継ぐようにしてユウキが言った。毎回留守電サービスが応答するまでコールしたんだがなぁ。
「彼女、ご両親は共働きか何かなのかしら?」
「いや、そんな話は聞いた事ないが、仮にそうだとしても家にいるはずの宮之阪が出ないのはおかしいだろ」
一応今日の放課後にあいつの家に行く予定にはなっているが、まだ今は三限目が終わったばかりの昼休み。授業を受ける時間がもどかしいぜ。それに今日は放課後に全校集会があるらしいのだ。無論、その内容は死体で見つかった「地理教師」の事だろう。
俺の話にユウキは「ふーん」と何かしら考え込むように顎に手を当て俯く事しばらく。
「……いや、だとしたら彼女は無事なんじゃないかしら」
なぜそんなことが言える。今さっきの話を聞いてたか?現状では病気にかかるのと同じくらいKに襲われる確率が高いんだぞ。
ユウキは切れ長の目から覗かせる吸い込まれそうな黒い瞳を向けて言った。
「だからよ。あなたの話を聞いて思ったの。もし宮之阪さんがKに襲われたとしたら偽者が出来ているはずだわ」
確かに、奴らはどういう訳か既存の人間に化けてこの世界に溶け込もうとしているらしいからな。
「ならおかしいと思わない?」
何がだ。
「電話に出ないのがよ。怪しまれたくないと彼女のKが思っているのならば普通電話に出ないかしら?仮にも中学からの知り合いであるあなたが電話してきたのなら」
ユウキの話を聞いて、なるほど、そうかもしれないと思えてきた。だって、あの宮之阪になり変わろうとするんだぜ?相当頭がいいやつに決まっている。であれば、「宮之阪カエデ」が病気と銘打って学校を休むのは怪しまれる可能性が高いって考えにたどり着いても全くもっておかしくない。というかそう考えるのが自然だろう。
「それに、あなたの話を聞く限り彼女は『私』のことについてもある程度気が付いていたのでしょう?」
ここで言う「私」とはつまり『学校の悪魔』の事だ。宮之阪に頼ろうと思っているという相談をユウキにした時にその根拠としてその話をしたのだ。
「ああ、お前が単独犯であるということに何故か気が付いていたし、俺があの地理教師に感じた違和感をあいつも抱いていた」
「……なら、それほどまでに頭のいい彼女が学校を休んだのには必ず本人なりの理由があるはずよ」
言われてみれば確かに宮之阪の偽者が学校を休む理由がない。クラスの反応を見て分かる通り一日休んだくらいで不思議に思われるようなやつだからなあいつは。
ユウキの説得力のある話に俺は昨日から力みっぱなしだった肩からすっと力が抜けていくのを感じた。
良かったぜ本当に。例え偽者であっても、俺は宮之阪が殺されるところなんて見たくはないからな。




