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花柄のペンダント

作者: 有璃香

「8月、もうすぐ8月が来る。私はイルカに会えるこの月が大好きだった。青い空、雲1つ無い空、舟の上から見上げると、混じり気のない水色の絵の具をこぼしたような、そんな空だった。」




「お母さん、今年もあの海に行くの ?」


「行くわよ。」


「やった―!」


「春花がもう少し、みんなととけこめるようになれるまでね。」


「春花、あれでいっぱい、いっぱいだよ。あれ以上うまく仲良く出来ないよ。」


お母さんはニッコリ微笑みました。



「きっと、たくさんの仲間が出来て、みんなと仲良くしている姿が浮かぶの。だから母さんはイルカと仲良くすると心が開けて、友達も増えると思うの。」



「ふーん。」



春花ちゃんはお母さんに背を向けて、顔を下に向けて、数歩歩いて離れて、そして振り向いてこう言いました。



「お母さんに近づくといつも花の匂いがして・・私、それが大好きなんだ。」



走り去ってしまいました。お母さんは1つため息。



「まだ小学3年生だけど、まだまだ大変な事とぶつかって行くし・・友達と協力しあっていかなきゃならないだろうし。」


お母さんは中断していた洗濯を続ける事に。



春花ちゃんは家から出て、スキップしながら、


「もうすぐイルカに会える、会える、イルカに会える。」



そんな歌を歌って行くうちに、近所の小学校の前まで来ていました。1人ぼっちで門の前に立っていました。今日は日曜日なので、ひと気が全くありません。



「あぁ、学校の前まで来ちゃった。嫌だなっ、帰ろっ。」



プイと振り返り、走って帰って行きました。




ひと月が過ぎ8月になり、春花ちゃん親子はイルカに会えるツアーに参加して船に乗る準備をしています。外はとても晴れています。



「忘れ物ない?春花。」


「ないよ。」


「相変わらずカバンの中はいっぱい、何が入っているの?」


「ふふふ、内緒。なぜか出かけようと準備してカバンの中に荷物を詰めると、たくさんになっちゃうんだ。あっ!これ、お父さんの形見のペンダント。」


「いつも持ち歩いているのね。」


「うん!」


ここは船の上、数組の親子が参加していて、それぞれの場所でイルカを待っています。日差しが強く、とても眩しいぐらいです。



「春花大丈夫?」


「大丈夫だよ。だけど帽子持ってこれば良かったね。」



帽子を持って来ていない親子もいて目をパチパチしています。しばらくして遠くの方から、数匹のイルカが近づいて来て、船を囲みました。



「うわぁ、来たよ。」



何人かの子達がイルカに触れようと、手を伸ばしたりしています。



「危ないわね。」



春花ちゃんはカバンからペンダントを取り出し、右手で持って海につけて、



「お父さん見て見て、イルカがすぐそばに来ているよ。人間を怖がらないんだよ。」



ペンダントを海面につけたり上げたりしているうち、指の力が一瞬抜けて海の中へ落としてしまいました。


「あっ!落としちゃった。どうしよう、お母さん。」


お母さんの方を見ると、そこには亡くなったはずのお父さんがいました。お父さんはニッコリ微笑んで言いました。


「よし春花、お父さんが潜って取って来てあげよう。」



すぐパシャンと海に飛び込んでしまいました。


「パパ」



春花ちゃんは海面をのぞきこみましたが、すぐお父さんは顔を水面から見せると、イルカに乗ったお父さんの姿がそこにありました。


「春花もイルカに乗って見るかい?」


「う、うん。」



イルカにまたがると、すぐ海の中へ潜って行きました。とても驚き、それよりももっと驚いたのは水中でも息苦しくなかった事でした。



「パパ、ぜんぜん苦しくないよ。」


イルカの背の前にお父さん、後ろには春花ちゃんがいてしっかりとお父さんをつかまえています。


「ペンダントがあそこにあるよ、ほら。」


指さした方向は海底近くの珊瑚礁に引っかかっていました。


「いろんなきれいな魚がたくさん泳いでいるね。海の中もとてもきれいで良く見える。イルカさん、あの珊瑚に近づいてくれる?」


イルカはすぐ珊瑚礁の前まで行き、


「よし、お父さんが取ってあげよう。」


珊瑚に傷がつかないようにペンダントを取ってあげるとニッコリ微笑んで、


「いつも大切にしてくれてありがとう。」


と言って、手渡すとイルカは上昇して海面から顔を出して、


「春花はここまでだよ。」



お父さんに抱きかかえられて、船に乗せられました。イルカに乗ったお父さんの周りには10匹ぐらいのイルカがグルグル回って泳いでいて、お父さんの体はぬれていませんでした。


「じゃあね、春花。」



手を振りながらイルカたちと船から離れて、あっという間に見えなくなりました。


「パパ。さようなら。」



春花ちゃんも手を振り続けていました。そして気がついた時にはペンダントを胸にあてて眠っていたところをお母さんに起こされました。


「よく寝ていたわよ、イルカ達も今去った所よ。」


春花ちゃんはゆっくり起き上がり目をこすると、ペンダントはぬれていて珊瑚礁のかけらが。そのペンダントを太陽にかざし、



「夢じゃなかったんだ。ありがとうパパ。」


と言って又、眠ってしまいました。



そして時は流れて…



「先生!何うとうとしてるんですか?好きな動物を描くのでしょ?僕はイルカの絵を描きました。」


春花先生は、はっと気づいて立ち上がると、教卓からずらーっと生徒たちが自分の作品をみてもらおうと並んでいます。中学校の美術の先生をしています。



生徒の1人が言いました。



「先生!僕は先生の描いたイルカの絵、大好きなんです!」





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