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焦燥

「・・・んっ・・・ううん・・・・・・」

 見知らぬ天井。それは、ベッドの上で意識を取り戻したミナミが、最初に目にしたものであった。

「ここ、は・・・ッ!?」

 周囲に視線を向けていたミナミだったが、ある物に気づいて思わず声を上げた。それは、自分の両手と両足に取り付けられた、鉄の枷であった。

「な・・・何ですか、これ・・・?」

 枷は鎖でベッドに固定されており、どれだけもがいても外すことはできなかった。そんな彼女の視界の外から、声をかけてきた者がいた。

「目が覚めたか。・・・やっぱり、それをしておいて正解だったな」

「虹崎・・・マコト・・・!」

 ミナミの言葉に小さく笑うと、マコトはベッドのすぐそばまでやってきた。彼は手にしたパイプ椅子を広げると、ベッドの隣に置いて腰掛ける。

「手荒な真似をしてすまないな。だが、どうしてもお前が必要だった。この世界にとっても・・・俺にとっても」

「『この世界』って・・・・・・まさか、ここ・・・私の世界じゃ、ないんですか!?」

 ミナミの問いかけに、マコトは返事をしなかった。だがそれが無言の肯定であることに、ミナミはすぐに気づくのだった。

「か・・・帰してください!私を、誠人さんがいる世界に帰してくださいよ!」

「それは無理だ。もうすぐお前にも出番が来る、それまではここで大人しくしてろ」

「出番、って・・・あんたら、私に何させようってんですか!?」

「難しいことじゃない。お前にもこのドライバーを使って、変身してほしいだけだ」

 手にしたGPドライバーV2をミナミに見せながら、マコトはそう口にした。

「変身って・・・それで、どうしようってんですか?」

「別に・・・とにかく、お前は変身さえしてくれればそれでいい。あとは俺の仲間の仕事だ」

 めんどくさそうに言葉を返すと、マコトはミナミの顔をじっと見つめた。ミナミは不快感と同時に一抹の気恥ずかしさを覚え、彼から顔を逸らした。

「じろじろ見ないでください。私が知ってる誠人さんは、そんなデリカシーのないことしませんよ?」

「あっちの世界の虹崎誠人、か・・・・・・お前、奴のことが好きなのか?」

 その質問は、ミナミにとっては図星であった。彼女は顔を真っ赤にすると、思わずマコトの方に振り返った。

「べ・・・別にあんたには関係ありません!今度同じこと訊いてみなさい、自由になった瞬間ぶっ飛ばしますよ!」

「ふっ、図星か。・・・まあ、聞かずとも分かるけどな」

 ため息をつくようにそう言うと、マコトはミナミに再び問いかけた。

「しかし・・・一体あんな奴のどこがいいんだ?戦ってみて分かったが、あいつはそれほど強い男じゃない。あんなに弱い人間が、お前のことを守れるとは思えないんだがね」

 その時、ミナミが怒りに顔を歪めると、両手の鎖を力いっぱい引っ張った。鎖がベッドの柵に当たり、冷たく乾いた音を上げる。

「あんたにあの人の何が分かるんです・・・?たった一度戦って、たまたま勝てたくらいで、あの人を理解したような口を利かないでくださいよ!」

「分かるさ。別の世界の存在とはいえ、奴は俺だからな」

 そうミナミに言葉を返すと、マコトは椅子から立ち上がって部屋の出口に向かった。

「また来る。それまで、大人しくしててくれよ?」

 マコトが部屋を後にすると、ミナミは再び枷から逃れようともがき始めた。だが枷はしっかりとベッドに固定され、抵抗は徒労に終わってしまう。

「はぁ・・・・・・ん?」

 その時、ミナミは壁際に置かれたサイドボードの上に、一枚の写真が飾られていることに気づいた。その写真にはマコトと思しき少年と、自分と瓜二つの少女の姿が写されていた。

 ――お前によく似た人を知っててね。そいつの名前も、ミナミ・ガイア。・・・お前と同じ名前だった――

「まさか・・・この子があいつが言ってた、この世界の・・・私・・・?」


☆☆☆


 一方。もう一つの世界では、誠人がようやく傷の手当てを終えたところであった。

「まんまとしてやられたな・・・・・・奴らがマルチバースに逃げ込んだ以上、我々には打つ手がない」

 目の前でミナミを奪われたファルコが、悔しそうな声で言った。レイ達も打開策を練ろうとはしたものの、敵が別世界の存在とあってはどうすることもできなかった。

「一体・・・あの男は何者なんでしょう?前にもカグラ先輩からドライバーを奪って、今度はボク達の目の前で、空間の扉を発生させて・・・」

 マコト達を迎えに来たスペクトルの存在が、ずっとミュウの頭に引っかかっていた。その時、誠人が震える手で拳を握り締め、目の前のテーブルを力いっぱい殴りつけた。

「誰であろうと関係ない・・・・・・行かなくちゃ。ミナミを・・・ミナミを、取り戻さないと・・・!」

 そう言って立ち上がった誠人だったが、先ほどの戦闘のダメージは十分に抜けておらず、すぐに足元がふらついた。近くに立っていたシルフィが、慌てて駆け寄ってその体を支える。

「そのお体では、無理でございます。・・・それに、敵がこちらの世界にもういない以上、こちらから手を出すことは・・・」

「それでも・・・僕が行かなきゃなんです。たとえ手掛かりが何もなくても、動かないことには何も変わらない・・・!」

 シルフィの制止を振り切って立ち上がると、誠人はリビングの出口に向かおうとした。だがその時、ソフィアが誠人の前に立ち塞がった。

「ソフィアさん・・・・・・どいてください」

「いいえ、どかないわ。・・・坊や、もう一度よく考えてみなさい。今のあなたが動いたところで、一体何になるというの?敵の正体も居場所も分からない、分かったところで勝てる見込みはない・・・そんな状態で闇雲に動くなんて、愚か者のすることよ」

「なら・・・ミナミを見殺しにしろって言うんですか!?ミナミだけじゃない、奴らを野放しにしていたら、この世界だって危ういかもしれないんです!こんな所で、じっとしている暇なんてない。たとえ手掛かりがなくても、勝ち目がなくても、僕が動かないことには何も変わらないんです!」

 と、その時。シルフィと入れ替わったディアナが、誠人の顔を力いっぱい殴りつけた。

「・・・!ディアナさん!」

 床に倒れこむ誠人を見て、カグラが思わず声を上げる。ディアナに体の主導権を奪われたシルフィも、彼女の体の中で声を上げた。

『ディアナ、あなたなんてことを・・・!』

「しゃあねえだろ。今のこいつにわからせるには、こうするしかねえ」

 シルフィに言葉を返すと、ディアナはうずくまって誠人の目を見ながら問いかけた。

「ボウズ、ミナミを助けたいってお前の気持ちは、ここにいる全員がよーく分かってる。けどよ、仮に今のお前がミナミのもとに辿り着けたとして、もう一人のお前に勝てんのか?もう一人のお前や、その仲間を全員ぶっ倒して、ミナミを救い出せるって確証はあんのかよ?」

「それは・・・・・・その・・・・・・」

 うつむいて口ごもる誠人の胸ぐらを掴み、ディアナは無理やり自分の方へ顔を向けさせた。そしてその目をまっすぐ見つめながら、諭すように言葉を投げかけた。

「いいか?大事な人を取り戻したいなら、まずは自分のことを大事にしやがれ。それもできねえくせに動くのは、ただのお前の自己満足だ。その自己満足の言い訳に、ミナミや世界を使うんじゃねえ!」

「・・・!ディアナさん・・・」

 ディアナの言葉が胸に沁みわたり、同時に彼の中で燃え滾っていた炎が、次第に小さくなっていった。やがて心が落ち着きを取り戻すと、誠人はディアナに、そして仲間達に詫びた。

「すみません・・・・・・僕としたことが、冷静さを失いました」

「ただ、このままじっとしていていいわけじゃないのも事実。何とかして、敵の手掛かりを得ないと」

 レイが強い危機感を持ってそう口にすると、キリアが手を組んで苦々しそうに声を上げた。

「手掛かりって言っても・・・あいつらが自分達の世界に帰っちゃったのに、そんなの見つけられるかな・・・」

「・・・まったくない、ってわけじゃないかも。あいつなら、マルチバースのことも何か知ってるかもしれない」

 ソフィアが何かを思いついたように、しかし重々しく声を上げた。その意味深な言葉を受け、茜が身を乗り出すように尋ねる。

「あいつ・・・って、誰の事?」

「・・・本当は、頼りたくない相手だけど・・・・・・ガモン・イレイダーなら、もしかしたら・・・!」

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[一言] まじか、まさかここでガモンを頼るのか
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