強襲
翌日。事態は、大きく動くこととなった。
「過去のリンクのデータを全てアップロード・・・・・・時間と空間の計算も、問題なし・・・」
モニカとキャロル、そして誠人によく似た少年達が見守る中、スペクトルは機械に次々にデータを入力していった。そして彼がキーボードのエンターキーを押した瞬間、目の前の装置から一筋の光線が発射され、程なくその光線が照射された場所に、空間の歪みが発生した。
「すごい・・・エルダ、リンクは発生してる!?」
キャロルが上ずった声で問いかけると、エルダと呼ばれたオレンジ色の髪の女が、近くにあった別の機械のモニターに目を向けた。
「いや・・・リンクは発生していない。だが・・・それと全く同じ現象が、今目の前で起きている・・・!」
目の前で発生した空間の歪みに、エルダも高揚した様子で声を上げた。青いメッシュを入れた白髪の女性が、スペクトルのもとに歩み寄ってその肩を叩く。
「コングラチュレーション、ドクター」
「ああ・・・これでようやく、我らの悲願が成就できる。・・・マコト、心の準備はいいか?」
「ああ・・・俺はこの時を待ってた。他の誰よりも、この俺が・・・」
右手に残る、愛する者の最期の感触。少年は手を強く握り締めると、仲間達に叫びかけた。
「決戦だ!この世界を守るために、向こうの世界のミナミを確保するんだ!」
「・・・!お父さん、また時空の歪みが発生した!」
それから、およそ10分後。SGDの基地で、再び時空の歪みが検知された。
「昨日に引き続きか!サニー、場所は?」
「えっと・・・KZ・・・48エリア!」
「マズいな・・・虹崎家のすぐ近くだ」
一瞬表情を歪めると、バーレーンはサニーに指示を出した。
「サニー、すぐにオケアノス刑事に連絡を!このままでは、ガイア刑事が危ない!」
「は・・・はい!」
サニーが慌てて、レイに連絡を取り始める。だがすでに、誠人とよく似た謎の少年は、仲間と共にその姿を現していた。
「ここがもう一つの世界、か・・・」
突如として生じた時空の歪みに、何事かと野次馬達が集まる。その好奇の視線には目もくれずに、少年は初めて訪れた世界を見渡した。
「俺達の世界によく似てる・・・が、近い将来この世界が、俺達の世界の災いになる」
「その通り。マコト、作戦は?」
エルダの問いかけに、少年はわずかな間をおいて答えた。
「エルダ、フェイス、お前達はここで暴れてくれ。こちらの世界のイリスにも仲間がいるはず、そいつらの目を引き付ける」
「承知した」
「オーケー」
エルダに続き、青いメッシュを入れた白髪の女が、手に銃を握り締めて言葉を返した。少年はさらに、モニカとキャロルに視線を向けて続けた。
「モニカとキャロルは、俺と一緒に動いてくれ。俺の勘が正しければ、こっちの世界のイリスも、ミナミも、これから向かう場所にいるはずだ」
「ああ」
「分かった・・・」
二人の同意の言葉を聞くと、少年は仲間達に告げた。
「さあ、行くぞ。俺達の行動に、世界の未来が懸かっている」
一方。レイのもとにもサニーから、時空の歪みが発生したという報せがもたらされていた。
「分かった。すぐにシルフィ達に出動してもらうから」
通信を早口で打ち切ると、レイはシルフィに視線を向けた。シルフィは覚悟を決めたように、座っていた椅子から立ち上がった。
「時空の歪みが発生したのですね?」
「うん、それもすぐ近くの繁華街で。シルフィ、ディアナ、今すぐ現場に向かってちょうだい」
「ええ、お任せください」
「じゃ、行ってくるわ。ボウズとミナミを頼んだぞ!」
レイ達に後を託すと、シルフィ達は現場に急行した。その背中を見送りながら、キリアが不安げに声を上げる。
「大丈夫かな、あの二人だけで・・・」
「・・・カグラ達にも、現場に向かってもらう。とにかく、今は彼女達を信じるしかない・・・!」
レイがキリアの言葉に不安を覚え、カグラ達に連絡を取り始めたその頃。シルフィが操縦するデュアルスピーダーが、時空の歪みが検知されたという繁華街に到着した。
『ここ、だよな・・・?』
「ええ、この辺りのは・・・ず・・・・・・」
ディアナに言葉を返そうとしたシルフィだったが、視界に入った物を見て思わず彼女は呆然となった。街の上空は無数のドローンに埋め尽くされ、さらにそのドローンが地上に照射した光の中から、無数のロボットが姿を現した。
『あれ・・・ソルジャーロイドじゃねえか!』
「ええ・・・けど、私達が知ってる物とは、少し違うような・・・」
シルフィの言葉通り、地上に現れたソルジャーロイドは、彼女達が知る物とは微妙に細部の形が異なっていた。そんな彼女達の目の前で、ソルジャーロイドは一斉に武器である銃を構え、周囲の人や物に向かって一斉に銃撃を開始した。
『っと、んなこと言ってる場合じゃねえか!』
「ええ・・・ディアナ、先に行かせてもらうわ!」
ディアナにそう叫びかけると、シルフィはGPドライバーV2を腰に装着した。そしてマシンを猛スピードで走らせながら、手にしたハリケーンのカードをドライバーにセットした。
「アーマー・オン!」
『Read Complete.疾風!烈風!暴風!アーマーインハリケーン!ハリケーン!』
シルフィの体を一陣の風が包み込み、その姿をハリケーンアーマーのデュアルへと変えた。デュアルはマシンを加速させてソルジャーロイドの群れに突っ込み、立ちはだかって銃撃を仕掛けてくる敵にボウガンモードのプラモデライザーで反撃し、敵の前線を撃ち崩した。
『Switch to flying-mode』
さらにデュアルはマシンをフライングモードに変化させ、それに飛び乗って飛行させることで敵の上空から次々と攻撃を放った。ソルジャーロイドを召還したドローンもデュアルに攻撃を仕掛けてきたが、デュアルはマシンを巧みに操ってその攻撃をかわし、お返しとばかりに放った光の矢が次々とドローンを射ち落としてゆく。
と、その時。突然近くから、乾いた拍手の音が聞こえてきた。
「・・・?何の、音・・・?」
デュアルが音のした方へ視線を向けると、そこには長い白髪の女の姿があった。彼女は建物に背中をもたれさせ、どこか馬鹿にしたような笑みを浮かべながら、デュアルを見上げてゆっくりと拍手していた。
「ナイスショット。ナイス・・・ショット」
『何だ、あいつ・・・?』
ディアナが不審げに声を上げたその時、女はズボンに巻き付けていたホルスターから二丁の拳銃を取り出した。そして上空のデュアルに素早く狙いを定め、引き金を引いて銃弾を連射した。
「うっ・・・ああっ!」
銃弾の威力はすさまじく、デュアルの強化された鎧でもそのダメージを防ぎきることは不可能だった。銃弾を立て続けに浴びたことでデュアルはバランスを崩し、デュアルスピーダーの上から落とされてしまう。
「・・・ッ!」
だが、シルフィもただではやられなかった。彼女は空中で全身に風を纏わせて体勢を立て直し、女に向けてプラモデライザーから矢を放った。その矢をかわした女はさらに銃を発砲しようとしたが、両方の銃から弾切れの乾いた音が聞こえた。
「フッ・・・オーケー、オーケー」
女は小さく笑みを浮かべると、両手の銃を投げ捨てた。そして懐から、GPドライバーV2を取り出した。
「レッツザゲームビギン」
「・・・!あれは・・・!」
驚きの声を上げるデュアルの目の前で、女はドライバーを腰に装着した。そして手にした青いカードを、ドライバーにセットする。
「アーマー・オン」
『Read Complete.激流!奔流!乱流!アーマーインスプラッシュ!スプラッシュ!』
女は青い装甲に身を包み、スプラッシュアーマーのイリスV2へと変身を遂げた。バイザー状の複眼が水色の輝きを放つと、彼女はその手にマグナムモードのプラモデラッシャーを握りしめ、デュアルに向けて水の弾丸を発射した。
「くっ・・・はっ!」
「フフフ・・・ハアッ!」
女は仮面の下で心底楽しそうな笑みを浮かべると、応戦してきたデュアルにさらに激しい銃撃をお見舞いした。そんな二人の戦いを、デュアルの死角からエルダが眺めていた。
「ほう・・・楽しんでいるな、フェイス」
イリスV2の戦いぶりを見て小さく笑みを浮かべると、エルダも懐からGPドライバーV2を取り出した。
「なら、私も行くとしよう」
彼女もドライバーを腰に装着すると、ホルダーから取り出したカードをドライバーに挿し込んだ。挿し込まれたカードには、赤く燃える燃える炎が描かれていた。
「アーマー・オン!」
『Read Complete.爆炎!獄炎!猛炎!アーマーインフレイム!フレイム!』
エルダの体を赤い鎧が覆い尽くし、フレイムアーマーのイリスV2がその場に姿を現した。頭部のバイザー状の複眼が一瞬赤い輝きを放つと、エルダは双剣モードのプラモデラッシャーを握り締め、デュアルの背後から奇襲を仕掛けた。
「はあっ!」
「!?きゃあっ!」
突然背後から現れた新たな敵に対応できず、デュアルは敵の剣に体を斬り裂かれた。その機を逃さずエルダは追撃を仕掛け、デュアルはプラモデライザーを構えるゆとりもなく、エルダにいいように斬り裂かれていく。
『ちっ・・・シルフィ、オレに代われ!』
「ええ・・・任せたわ、ディアナ・・・!」
シルフィはディアナに後事を託し、ホルダーからライトニングのカードを取り出した。デュアルがドライバーにカードをセットすると同時に、鎧の中の人格も入れ替わる。
『Read Complete.アーマーインライトニング!ライトニング!』
「選手交代だ、行くぜ!」
デュアルはハンマーモードのプラモデライザーを握り締め、エルダに接近戦を挑んだ。ハンマーモードのプラモデライザーと双剣モードのプラモデラッシャーがぶつかり合い、激しく火花が散る。
「てめえら・・・何者だ!?」
「ふふ・・・大方察しはついているだろう?私も、そこのフェイスも、こことは違う世界の住人だ・・・!」
激しい鍔迫り合いを制したのは、エルダが変身するイリスV2であった。彼女は隙が生じたデュアルに激しい連撃をお見舞いし、それを白髪の女・フェイスが変身するスプラッシュアーマーのイリスV2が後方から援護する。
「くっ・・・てめえらの目的は何だ?何のために、ミナミを狙うんだよ!?」
「お前が知る必要は無い。なぜなら、ここでお前は死ぬからだ」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
エルダは冷たく言い放つと、ドライバーにフィニッシュカードをセットした。電子音声が鳴り響くと同時に、プラモデラッシャーの刃に赤いエネルギーが充填されてゆく。
『ディアナ!』
「ああ・・・!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
デュアルもそれに対抗するように、プラモデライザーにフィニッシュカードを挿し込んだ。ハンマーに雷のエネルギーが充填され、紫色の輝きを放つ。
『フレイムフィニッシュ!』
『ライトニングクラッシュ!』
イリスV2の双剣から赤い炎の衝撃波が、デュアルのハンマーから紫の雷の衝撃波が、それぞれ敵に向かって放たれた。二つの衝撃波は真正面からぶつかり合い、その場で大爆発を起こす。
「くっ・・・あ!」
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
爆発が止んだその時、デュアルは視界にある物を捉えた。それはフィニッシュカードをドライバーに挿し込み、青いエネルギーを武器の銃口にチャージさせたスプラッシュアーマーのイリスV2であった。
「ロック・・・オン!」
『スプラッシュフィニッシュ!』
フェイスは仮面の下で笑みを浮かべると、プラモデラッシャーのトリガーを引いた。同時に水のエネルギーを凝縮させた光弾が発射され、デュアルの体に直撃した。
「うわあああああああああっ!」
その一撃にデュアルは大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた拍子に変身が解除された。地面に倒れこむディアナに、エルダが右手に握った剣を突き付ける。
「よくやった・・・と言いたいところだが、はっきり言って拍子抜けだ。この世界はイリスも弱ければ、その仲間も弱いと見える」
「くっ・・・なめたこと、言いやがって・・・!」
自分を必死に睨みつけるディアナの姿に、エルダは仮面の下で冷酷な笑みを浮かべた。そして彼女に突き付けていた剣を、大きく振り上げる。
「それが・・・遺言だな?」
エルダが剣を振り下ろそうとした、次の瞬間。突如としてその足元に黄色く光る円が出現し、そこから黄色い光の鎖が伸びてエルダの右腕に絡みついた。
「ッ!?これは・・・!?」
エルダが動揺の声を上げた、まさにその時。周囲を警戒していたフェイスが、こちらに向かって走ってくる数人の人物の姿を目に捉えた。
「ディアナ、大丈夫!?」
「・・・!姐御・・・!」
こちらに駆け寄ってきていたのは、レイの連絡を受けてカグラとミュウと共にやってきたソフィアだった。フェイスが三人に向けて銃を発射したが、ソフィアは一旦エルダを拘束する術を解除して左手をかざし、光の障壁を展開してその銃撃を食い止めた。
「はっ!」
さらに、上空からダーククロウと合体したエージェント・シャドウが姿を現し、エルダに急降下しながら強烈なキックをお見舞いした。予期せぬ一撃にエルダは対応できず、キックが炸裂して大きく吹き飛ばされ、フェイスの足元の地面に叩きつけられた。
「ファルコ、様・・・!」
「遅れてすまなかったね、二人とも。ここからは、私も相手しよう」
ディアナと入れ替わったシルフィに声をかけると、シャドウは二人のイリスV2にシャドウブラスターを突き付けた。カグラ達も二人を取り囲むように広がり、戦闘モードのGPブレスを突き付ける。
「多勢に無勢、か・・・・・・だが、我らの任務は無事に終わった」
「・・・?どういう、ことだい・・・?」
カグラが真意を測りかねて問いかけると、エルダは衝撃的な言葉を口にした。
「我らは端から囮よ。お前達はそうとも知らず、まんまとここに誘き寄せられてくれた。・・・今頃、我らの仲間はミナミ・ガイアと、ご対面を果たしているだろう」
「しまった・・・!皆、すぐに虹崎家に!」
敵の意図をようやく悟り、ソフィアが声を荒げて仲間達に告げる。だがその時、フェイスが銃を持っていない方の手を高く掲げ、嘲笑と共に声を上げた。
「ハハ・・・ゲーム、オーバー・・・!」
そう言うや否や、フェイスが手の指をパチンと鳴らした。すると上空に残っていたドローン群が一斉にソフィア達を包囲し、搭載された銃火器で一斉攻撃を開始した。
「うわっ!」
「ああっ!」
攻撃に翻弄されるソフィア達を尻目に、二人のイリスV2は大きくジャンプして悠々とその場ヵら逃走した。ソフィア達は始めこそ敵の攻撃に翻弄されていたが、ソフィアが術で簡易的な結界を生み出してその中に仲間を庇い、シャドウが背中の翼を展開して飛行しながらドローンを撃墜することで、何とか難を逃れることができた。
「大丈夫だった、皆!?」
結界を解除すると、ソフィアが仲間達に叫ぶように問いかけた。
「な、なんとか・・・・・・でも、急がなきゃ!」
「ああ、急ごう。このままじゃ、ミナミ達が危ない!」