狂気の帝王
スペクトルの日記にミュウが思わず声を上げた、まさにその頃。誠人もスペクトルから、二つの世界にやがて訪れる危機を聞かされていた。
「二つの世界が、いずれ一つに・・・」
「そうだ。ガモン・イレイダーは私の研究を認めなかったが、この世界で私は確信に至った。いずれ二つの世界は重なり、その時全てが滅びると」
「それを回避するためには、どちらかの世界が犠牲になるしかない。だが、俺達はこの世界を犠牲にするつもりはない」
強い意志を込めてそう言うと、マコトはもう一人の自分を鋭く睨み据えた。
「一度しか言わない、俺達の邪魔をするな。こっちの世界に来たのも何かの運命だ。それを受け入れて、この世界の住人になれ」
「断る。僕達の世界を、君達には壊させない」
「そうか。なら・・・仕方ない」
分かり切っていた答えを聞くと、マコトはドライバーを待機モードにした。そして手にした黒いカードを、ドライバーに装填する。
「アーマー・オン・・・!」
『Read Complete.アーマーインダークネス・・・ダークネス・・・!』
漆黒の鎧のイリスV2が、誠人に剣を突き付けた。だが全てを知った誠人には、彼と戦う意思はなかった。
「よせ、ここで戦って何になる?二つの世界が危ないなら、なんとか両方を救う方法を・・・」
「そんなものはない。このままでは数年のうちに、二つの世界に終末が訪れる。それを回避したければ、どちらかが消えるしかない」
誠人の声を遮ったのは、スペクトルの冷徹な言葉であった。彼はイリスV2に視線を向け、煽るように言葉をかけた。
「さあ、急ぎたまえ。君が愛したミナミ・ガイアのためにも、この世界は何としても救わなければ」
その言葉に、イリスV2は重々しくうなずいた。そして剣を握り直すと、雄たけびと共に誠人に襲い掛かった。
「よせ!こんな戦いに意味はない!」
イリスV2の攻撃を必死にかわしながら、誠人はもう一人の自分に訴えかけた。
「君の気持ちも分かる。けど、だからって他の世界を滅ぼしていい理由にはならない!」
「黙れ!」
イリスV2が剣を振り上げると、誠人の体が大きくのけぞった。剣は直撃こそしなかったが、誠人の服に一筋の切れ目が走り、その下からうっすらと血が流れ始める。
「うあっ!」
「誠人さん!」
ミナミが悲痛な声を上げる中、倒れこむ誠人にイリスV2がさらに追撃をかけた。それでも誠人は相手の攻撃をかわすだけで、反撃に出ようとはしない。
「どうした?変身して俺と戦えよ。ミナミを取り返しに来たんだろう?だったら俺達を倒さなきゃ無理だぞ!」
「そうです誠人さん!お願いです、変身してください!」
マコトのみならず、ミナミも誠人に変身を促した。だが、誠人はぼろぼろになりながらも、頑なに変身を拒否した。
「いや・・・僕は戦わない・・・・・・そんなことよりも、今はしなきゃいけないことがあるはずだ!」
と、その時だった。突然室内に金色の閃光が迸り、次の瞬間誠人の体は大きく吹き飛ばされた。
「うあっ!あっ・・・!」
「誠人さん!誠人さん!!」
誠人の体は壁に打ちつけられ、力なく床に崩れ落ちる。そして誠人が立っていた場所には、金色の光を宿したキャロルの姿があった。
「めんどくさい。ねえ、さっさと済ませちゃおうよ。無理やりにでもその子を変身させれば、それでうまくいくんでしょ?」
けだるげな表情で声を上げると、キャロルはミナミに視線を向けた。
「ふっ・・・それもそうだな」
キャロルの言葉に小さく笑みを浮かべると、エルダが再びミナミのもとに歩みを進めた。彼女は先ほど生み出したカードを手に、ミナミの腰のドライバーのパーツをスライドさせて待機状態にした。
「や・・・やめて!」
『Read Complete』
ミナミの叫びも虚しく、カードはエルダの手によってドライバーに装填された。同時に黒い鎧が、ミナミの体を覆い尽くしてゆく。
『進撃!斬撃!突撃!アーマーイングランド!グランド!』
ミナミの体は一瞬にして、グランドアーマーのイリスV2へと姿を変えた。それを見たスペクトルが、高揚したように声を上げる。
「よし・・・さあ、我らも変身するぞ!今こそ、最終兵器を完成させる時!」
その言葉を合図にしたかのように、モニカ、キャロル、フェイス、エルダの四人が、一斉に腰のドライバーを待機状態にした。さらにスペクトルもドライバーを腰に装着し、黄色いカードをその手に取った。
「アーマー・オン」
『Read Complete.幻想!幻惑!幻術!アーマーインムーンライト!ムーンライト!』
スペクトルの体が黄色い鎧に包まれ、新たなイリスV2がその場に姿を現した。同時にモニカ達も、ほぼ同時にカードをドライバーにセットする。
「「「「アーマー・オン」」」」
それぞれの変身音声が鳴り響き、四人のイリスV2が姿を現した。そしてスペクトルが手にした小型の装置を宙に投げた瞬間、七人のドライバーからそれぞれの体の色と同じ光が放出され、装置に吸収されていく。
「いいぞ・・・さあ、七つの属性の力を合わせ、最強の兵器を生み出すのだ!」
ドライバーから放出されるエネルギーが、装置に力を与えていく。そして一瞬装置は眩い輝きを放つと、意思を持つかのようにスペクトルの手に収まった。
『カイザートリガー』
「・・・?カイザー・・・?」
装置から発せられた音声に、倒れこむ誠人が思わず声を上げた。同時に七人のイリスV2の変身が自動で解除され、ミナミを拘束していた枷も外れて彼女の体が地面に降り立つ。
「ふ、ふふ・・・ふはははは!ついに!ついに完成したぞ、最強のパワーが!」
手にした装置を高く掲げながら、スペクトルがかすれた叫び声を上げた。マコトは怪訝そうな表情を浮かべたが、彼の仲間達は何の疑問も抱いていないようだった。
「ドクター・・・完成、したんだよな?・・・その兵器が、この世界を救うんだよな・・・?」
「ああ、君達のおかげで完成したよ。この装置を使い、私がこの世界を救うのだ。私の生まれ故郷である世界と、この世界を一つに合わせ、生まれる新しい世界を私が統治することによってな!」
「「な・・・!」」
「なん・・・ですって・・・!?」
スペクトルの言葉に、誠人とマコトが同時に声を上げた。ミナミも驚きのあまり、目を見開きながら声を上げる。
「ドクター・・・それは、何の冗談だ・・・?」
「冗談などではない。初めから私の目的はこれだったのだ。二つの世界を一つに混ぜ合わせ、新たに生まれた世界を私が統治する・・・それこそが、私に与えられた使命だったのだよ・・・!」
『時空の歪みの向こうに、私は別の世界を見た。この時私は確信した。マルチバースは存在すると』
『垣間見えた向こうの世界も、この世界と同様に混沌に満ちていた。二つの世界の混沌を鎮められるのは、誰よりも早くマルチバースの実在を知った、この私だけ』
『私は決意した。この世界と向こうの世界を一つに合わせ、生まれる新世界を私が統治すると。それこそが、この私の使命だったのだ』
惑星ブレビアの研究室に残された、スペクトルの日記。そこにはマルチバースの存在を研究するうちに、彼が狂気に吞み込まれていった様が克明に記されていた。
「どうかしてる・・・二つの世界を一つにって、一体、どうやって・・・」
ソフィアが呆然と声を上げたその時、カグラが何かに気づいたように言った。
「もしかして・・・そのために、V2ドライバーが必要だったんじゃ?それと、ミナミも!」
「このカイザートリガーは、私のエスパーの能力を極限まで高める装置。これを完成させるには、GPドライバーV2で生まれる七つの属性の力が必要だった。君達に声をかけ、イリスV2の力を与えたのも、全てはこれの完成のためだ」
一方。マコトにカイザートリガーを見せつけながら、スペクトルが冷たい笑みを浮かべて言った。
「マコト・・・君には特に感謝しているよ。二つの世界がやがて一つとなり、そして滅びる・・・あんな嘘を、よくも馬鹿正直に信じてくれたものだ」
「・・・!あの話も、嘘だったのか・・・?」
マコトは力なく声を上げると、その場にがくりと膝を折った。
「じゃあ・・・俺達は、ずっとお前の作り話を信じて・・・?」
「俺『達』?はっ、あんたと一緒にしないでよ」
マコトにそう声をかけたのは、彼に侮蔑の視線を向けるキャロルだった。彼女はフェイスとエルダ、そしてモニカと共に、スペクトルの隣に並び立って続けた。
「馬鹿なあんたと違って、あたし達はみーんな最初から知ってた。あんただけだよ、ドクターの言うこと真に受けてたの」
「ごめんね、黙ってて。でも、そうしなきゃあなた、モニカ達の思い通りに動いてくれなかったから」
「まったく、見ていて滑稽だったぞ。まさか・・・最愛の女を奪った男に、騙されるとはな」
「な・・・なん、だって・・・?」
エルダの言葉に、マコトは周囲の時が止まったかと思うほどの衝撃を覚えた。誠人に手を貸してなんとか立ち上がらせたミナミも、動揺の声を上げる。
「そんな・・・じゃあ、この世界の私を殺したのは・・・!」
ミナミとマコトが、同時にスペクトルに視線を向ける。するとそれに応えるように、スペクトルが冷酷な笑みと共に言った。
「マコト・・・全ては闇の属性に適合する、君を手に入れるためだ。欲しかったのは君だけだ。君の恋人は・・・・・・邪魔だったのでね」
自分の腕の中で死んだ、最愛の少女の顔。その時の記憶が脳裏をよぎり、同時にマコトの中に激しい怒りと、憎しみの炎が沸き上がった。
「くっ・・・・・・うわあああああああああああああああああっ!!」
「よせ!」
『アーマーインダークネス・・・!ダークネス・・・!』
誠人の制止も聞かずにマコトは変身し、剣を手にスペクトルのもとに駆け出した。そんな彼にフェイスが銃を向けたが、スペクトルは彼女を手で制すると、イリスV2に手を向けた。
「うわっ!」
手を向けられた瞬間、イリスV2の体は強烈な力に吹き飛ばされ、壁に激突して地面に叩きつけられた。そんな彼の目の前で、スペクトルはGPドライバーV2を腰に装着した。
「見せてやろう。これが、新たなる王の姿・・・!」
『カイザートリガー、スタートアップ』
手にしたカイザートリガーを起動させると、スペクトルはドライバーにセットしていたムーンライトのカードを抜き取った。そしてカイザートリガーを、ドライバーの上部にセットする。
『レディ』
ドライバーに取り付けられたカイザートリガーから、どこか荘厳な待機音が流れ始める。スペクトルはムーンライトのカードを握り直すと、ドライバーに一気に挿し込んだ。
「アーマー・オン・・・!」
『Enthronement!Invader!Destroyer!Conqueror!ルナティックカイザー!』
電子音声と共に、スペクトルの体が一瞬ムーンライトアーマーのイリスV2へと変わった。するとその鎧の各部に新たな装甲が自動で装着され、背中には真っ赤なマントが、そして頭部には相手に威圧感すら感じさせる、金色の巨大な王冠が現れた。
「はっ!」
変身が完了すると、ルナティックカイザーは右足を金色に光らせ、次の瞬間倒れこむイリスV2の前にその姿を現した。そして驚きの声を上げたイリスV2に、右手を握り締めた拳を叩き込んだ。
「うわっ!」
たった一発のパンチが炸裂しただけで、イリスV2の鎧からは火花が散った。さらにルナティックカイザーは右手に炎を纏わせ、立て続けに強力なパンチを放ち続けた。
「はあっ!」
ルナティックカイザーは左手でイリスV2の首筋を抑えると、右手を宙に掲げて念を込めた。するとその先にある空間が歪み、光の円が現れて雨が降りしきるどこかの森林地帯へと繋がった。
「ふん!」
ルナティックカイザーはイリスV2を捕らえたままジャンプし、その光の円の中に飛び込んだ。そしてイリスV2を地面に投げ捨てると両腕に緑の光を宿らせ、周囲の木々に手を向けるとその枝がするすると伸び、イリスV2に襲い掛かった。
「うっ・・・ぐあっ!うあああっ!!」
鞭のように伸びてくる木々の枝が、容赦なくイリスV2の体を打ち据えた。ルナティックカイザーは再び空間の扉を開いてイリスV2を捕らえ、今度は荒れ狂う海の上空へと移動してイリスV2をその海の中に投げ込んだ。
「ふふふ・・・はあっ!」
近くの岸壁に着地すると、ルナティックカイザーは青い光を宿らせた左腕を振り上げた。するとそれに応えるように大きな水柱が立ち上り、海に投げ込まれたイリスV2がその水柱に打ち上げられてルナティックカイザーの方へ飛んでゆく。
「はああああ・・・はっ!!」
大地の力を吸収したルナティックカイザーの強烈なキックが、飛んできたイリスV2に炸裂した。その一撃に吹き飛ばされたイリスV2の行く先に、再び空間の扉が現れる。
「分かったかね?君程度の力では、このカイザーには敵わないということを」
空間の扉の先は、一面が灰と霧に覆われた不思議な星であった。同じくその扉をくぐってきたルナティックカイザーが、倒れこむイリスV2に言い放つ。
「黙れ!俺は・・・お前だけは許さない!うわあああああああああっ!!」
イリスV2はグロッキーになりながらも、必死に自分を励まして立ち上がり、目の前の敵に駆け出した。それを見て小さく首を横に振ると、ルナティックカイザーはドライバーにフィニッシュカードを挿し込んだ。
『Read Complete.Be prepared for maximum impact.』
ルナティックカイザーの全身が輝き、エネルギーが充填されていく。そしてイリスV2が目の前に迫ると、彼は全てのエネルギーを右足に集め、ドライバーを展開して強力な回し蹴りを叩き込んだ。
『カイザー・ジ・エンド!』
「うわああああああああああああああああっ!!」
その強烈な一撃を受け、イリスV2の体は大きく吹き飛んだ。彼の体は空間の扉を通ってスペクトルの研究室へと戻り、地面に叩きつけられて変身が解除される。
「うっ・・・ああっ・・・!」
マコトの腰に巻かれたドライバーは、各部が破損していた。そんな彼の後を追い、ルナティックカイザーも研究室に戻ってくる。
「おい!大丈夫か!?」
誠人はもう一人の自分のもとに駆け寄ると、その体を助け起こして必死に叫びかけた。朦朧とする意識の中で、マコトはその声の主の顔を見て驚きの声を上げた。
「お前・・・どうして・・・?」
「今はここから逃げるぞ。ミナミ!」
「はい!」
誠人がもう一人の自分に肩を貸して立たせ、その場からの逃走を図る。ミナミはそれを手助けするため、GPブレスから光線を連射して敵を牽制した。
「くっ・・・待て!」
その後を追おうとしたキャロルだったが、ルナティックカイザーが手を上げて彼女を制した。そうこうしているうちに、誠人達はなんとかその場から逃れることに成功した。
「追う必要は無い。彼らの役目はもう終わった。放っておいても害はない」
「ならば・・・ドクター?」
エルダの問いかけに、ルナティックカイザーは小さくうなずいた。
「時が来た・・・今こそ、二つの世界を一つとする時!」




