【第7章】 廃村キャンプ編 10 高校時代1
10 高校時代1
「あそこは、やめといた方がいいわよ」
その後、幾度となく後悔することになる私の一言は、思いの外、教室に大きく響くことになった。
そこまで大声で言ったつもりはなかったし、休み時間の教室は多くの会話が飛び交っていたから、相手に対して届くかどうかも怪しいはずだった。だが、人生にはどうにも間の悪い瞬間というのがあるもので、私が口を開く一瞬前に、誰かが教室の引き戸を勢いよく閉めたものだから、その拍子木を打ち鳴らしたような、乾燥した高い音が、一瞬の沈黙を教室にもたらしていた。その凪いだ教室に私の声が妙に落とし込まれたのである。
教室中が私に注目した。当の私は自分の席で片肘を突き、本を読んでいた。他人事のように。だから初めクラスメイトの皆は私が発言者であったことに気づけなかったに違いない。皆の視線は付近を右往左往した。それでうやむやになってしまえばよかったものを、本来私が届けようとした茶髪の女子生徒は残念ながらしっかり受け取ってしまったらしく、私の横顔を胡乱げに見つめた。だからきっと、私の思うより、私の声はやっぱり大きかったのだ。
「何? どういう意味?」
ウェーブさせた茶髪を、爪をプラスチックのように塗り固めた指でかき上げながら、彼女は私に言い放った。さっきまで「今夜さ、心霊スポットいかない?」と騒いでいた黄色い声とは大違いである。
その声色を聞いた時点で、なんで余計なことを言ってしまったんだろうと私は自身の衝動性に心底あきれ果てた。
高校一年生の初夏。
少なくとも数人は同じ中学の級友がいるのが普通である大多数の生徒と違い、県外から進学してきた私は、友達はおろか知り合いすらいなかった。それでも人当たりがいい性格であればすぐに気の合う友人の一人二人は見つかるものなのだろうが、私は残念ながらそうではなかった。というか、絶望的であった。わかっていた。だって、中学校ではほとんど誰とも話さずに三年間を乗り切ったし、小学生の頃ですら、友人と自信を持って言えた関係の相手は二人しかいなかったのだ。それも一時的で、もう連絡先すらわからない。そんな体たらくで生きてきた自分が、高校生になったからと言って、友人ができるはずもないし、欲しいとも思っていなかった。
でも、高校進学という大きな転機を前にして、例に漏れず多感な十代だった私がまったくもってこれっぽっちも、一ミクロンも、一マイクロミクロンも、環境の変化を期待していなかったかと問われると、私は答えを濁すことになっていただろう。
だから、もしかしたら。自分の隣で楽しそうに喋っているグループの会話に私が唐突に割って入ってしまったのは、五月の連休が明けてた段階で、友人の一人もおらず自席で一人読書にいそしんでいた私が、どこか現状の打破を期待した結果なのかもしれない。認めたくはないが。
まあ、だとしてもクラスで一番のキラキラグループを相手にしたのは失策以外の何物でもなかった。
「そのままの意味よ。行かない方がいいって言ったの」
私は本に目を落としながら答えた。目を合わせなかったのと、声に愛想がなかったのは、まあ、あれだ。照れ隠しだ。
「はあ?」
だが、そんな可愛らしい事情を彼女は汲み取ってはくれなかった。明らかにご立腹だった。スクールカーストというやつだな。カースト上位グループの会話に、本ばかり読んでいる根暗女が不遜な態度で口を挟むなど、言語道断なのだろう。しかも、心霊スポット探検を提案したのはグループでトップらしき女子生徒だった。私は彼女の提案に横やりで異を唱えた形になったのだ。そのことに私が気づいたときには、私も引くに引けなくなっていた。だから繰り返した。
「あの廃墟でしょ。やめておいた方がいい」
私はちらりと彼女の取り巻きを見る。男女数人。女子は迷惑そうな表情を浮かべていたが、男子は明らかに面白がっていた。騒動の顛末を見届ける気満々だ。やれやれ。もう、うやむやにもできそうにない。
本来ならカースト下位からの発言など無視されて終わりだ。だが、この会話は運悪くクラス中が注目してしまっていた。まだまだクラスの序列も不安定な時期だ。彼女としても中途半端な対応は今後に響くと考えたのだろうか。わが物顔で占有していた他生徒の席を立ち、私の席に歩み寄ると、机に片手をついた。
「なんで斉藤さんにそんなこと言われなきゃいけないわけ」
彼女が私の名を記憶していることに密かに驚いた。まさか個として認識されているとは思わなかったのだ。私も彼女の名を呼び返すのが礼儀かと思ったが、よくよく考えれば私の方こそ彼女の名を正確に記憶していなかった。確か姫宮だか、宮姫だか、かわいらしい苗字だった気がする。うん。もう姫でいいや。よろしく姫。
「……親切心よ。あそこ、たぶんほんとにやばいところだから」
「なに。あんた、幽霊でも見えるの?」
姫が鼻で笑った。口角を上げてはいるが、一切面白くもなさそうなのが皮肉が利いていて面白かった。
その表情が、次の私の返答で固まった。
「ええ。見えるの」
私たちの会話に耳を澄ませていたクラスメイトが一斉に息を飲んだ。いや、そんないい反応ではなかっただろう。実際は口をあけ、ぽかんとあきれ果てたが故の沈黙が流れた。
私は後の展開に大まかな予想はついたが、もう、突き進むしかないと観念し、言葉を続けた。
「あの廃ホテル、何度か電車から見たことあるけど、なんか集まってるわ。あれは関わっちゃいけないタイプの場所。近寄らない方がいい」
その後の姫の対応は考えうる限りの完璧なものだった。
私に対して、姫はムキになって異を唱えるでも、馬鹿にして笑いものにするでもなく、「そうなんだ」とすっと身を引くと、「心配してくれてありがとう斉藤さん。なんかごめんね」と優しく微笑んでグループに戻っていった。私は「どういたしまして」と答えて本に目を戻した。そうするほかなかった。
彼女が友人達のもとに戻った後、取り巻きの女子の一人が小声で呟くのが聞こえた。
「やばくない。高校生にもなって」
それに対する姫の対応も見事なものだった。
姫は、博愛と憐れみと微かな優越が絶妙に混ざり合った声色で「だめだって。そんな風に言ったら。いろいろあるんだと思うよ」とやんわりと会話を終わらせた。
ちなみに、彼女らは結局、某廃ホテルには行かなかった。
そのあとすぐにある情報が入ってきたからだ。件の廃ホテルは一昔前は心霊スポットとして名を馳せていたが、最近はヤバめの不良のたまり場になっているという。なんでも薬やらなんやら危なげなことをする場として使われているということだった。それを聞いた瞬間、姫はなんの迷いもなく、その日の予定をラウンドワンでボーリングにいそしむことに変更した。彼女としては本気で廃墟に行きたかったのではなく、ただ友人とキャアキャア騒ぎたい、ただそれだけであったのだろう。実に迅速でよい判断であった。彼女がその後にクラスの女子のヒエラルキートップの地位を盤石なものとしたのも納得である。
そして、私の地位は地に落ちた。
これまでもクラスで気軽に話せる相手がいたわけではないが、どこか一目置かれている感はあった。皆が春の友達作りに精を出す中、集団に交わらず一人をつきつめる孤高の人として、ある種の敬意のようなものを払われていたように思う。
しかし、あの霊感発言以来、私は「みんなの輪に入りたいけど入れないからなんとか気を引こうとして中二病をこじらせた可哀そうな人」として皆の憐憫をほしいままにした。意地悪をされるでもない、無視をされるでもない、むしろ私に話しかける時は皆、過剰なほどに優しかった。姫ですらそうだ。
ある時など、私が中古で手に入れた黄色いアイポッドで音楽を聴いていると、わざわざ話しかけてきた。
「音楽、好きなの?」
「……まあ」
「私も一時期アイポッド持ってたよ。赤いやつ。スマホで聴くようになったから、人にあげちゃったけど」
姫はにっこり笑った。
「音楽って良いよね。日々が豊かになる」
話の趣旨がわからず、戸惑っていると、姫は「テストの打ち上げのカラオケに行くんだけど」と切り出した。「クラスのみんな誘ってるんだけど、斉藤さんも、よかったらいかない?」と実に慈愛に満ちた目で言われた。
「友達出来るかもだし」と。
勿論、丁寧に固辞させていただいたが、心に受けたダメージは相当なものだった。吐血するかと思った。
私は、小・中学生時代に嫌悪や悪意の視線には幾度となくさらされてきた。だから、もう孤立するなんて慣れっこだと思っていた。しかし、憐れまれるということがここまで精神を削るものだとは思ってもみなかった。これでは疎まれたり、避けられたりしたほうがよっぽどましだ。いっそ、嫌われてしまいたいと祈ったほどである。
そして、その祈りは唐突に叶うこととなった。
さあそろそろ一学期も終わりかという頃。とあるニュースが全国紙を飾り、街を賑やかした。
例の廃ホテルから死体が発見されたのである。
その有様はひどいものだったらしい。ニュースでは表現をぼかしてあったが、現場が地元の子の伝聞をそのまま引用すると「腐乱死体を飛び越えて、ほとんど白骨化していた」らしい。警察の調査で推定された死亡時期は数か月前。ちょうど私が姫に警告した直前というあたりだ。
そして、私たちの高校を本格的に戦慄させたのはその数週間後、死体の身元が分かったタイミングであった。
その死体は十代の少女。それもこの高校の生徒。さらに私たちと同学年だったのだ。しかし、校内では誰も面識がなかった。それもそのはず。入学から数日間だけしか在籍していなかったのだ。春休みの間に家出したらしい。入学式にも出ず、家に寄り付かず、日夜繁華街で遊びまわっていたという話だった。学費も馬鹿にならないと両親がすでに退学手続きを行っていたため、正確には在校生ではなく、あくまで、「生徒だった」という表現がふさわしいらしい。
さて、問題はこのことよって私のトンデモ発言が裏付けられてしまったわけだ。
さあ、これにより、私はクラスメイトから見直され、地位は向上したのか。
それこそとんでもない。
単に死体が見つかっただけならばまだ野次馬感覚で盛り上がる余地もあっただろうが、故人は面識が無かったとは言え、同じ高校の元生徒だ。実際に自分たちとかかわりが深い人間の死が関わっていることで、文字通り「洒落にならない怖い話」となった。そしてその主要登場人物には当然のように今回の事態を予言(?)した私である。私は八尺様やヤマノケのごとく関わっていけない特級呪霊としてその名を高校中に轟かせることとなった。
さらに面倒なことに、噂を聞きつけた警察の方が、なんと私に事情聴取を行ったのだ。強面の中年の刑事さんと若い女性の刑事さん。こんなうわさ話のためになんで二人もと思ったが、女性の刑事さん曰く、警察組織は単独で動くことはほとんどなく、このように二人一組とチームで行動することが基本であるそうだった。そういえば刑事もののドラマとかでも大体バディ組んでいるもんな。
そして、聴取自体はほんの一瞬で終わった。「通学電車の窓から廃ホテルを見た時、たくさんの幽霊が集まっていてやばいと思った」と私が素直に言ったところ、中年の刑事さんは顔をしかめ、校長先生はなんとも言えない苦笑いを浮かべ、女性の刑事さんは姫そっくりの慈愛に満ちた表情で微笑んだ。
早々に会はお開きになった。
ただ、ご丁寧にパトカーを学校に横付けして、放送で私を校長室に呼びつけやがったせいで、噂が噂を呼び、「斉藤が犯人なのではないか」という不名誉な噂まで広がり始めた。
学校が夏休みに入ってすぐ、薬物乱用の末の過剰摂取が少女の死因である可能性が高いと報道された。これによって殺人犯の汚名がそそがれたと安心していたら、新学期が始まる頃には「斉藤が呪い殺した」に噂が進化していた。
ということで、華の高校一年生斉藤ナツは、高校の全生徒に畏れられ、気味悪がられ、忌避される真の孤高の存在となったのであった。めでたしめでたし。
たった一人の例外を除いては、だが。
「行ってみようよ。廃ホテル」
「だめよ」
「なんで」
私は何度も繰り返した問答に辟易しながら弁当箱のふたを開けた。
「行く必要が全くないから」
高校一年生になったばかりの秋人はパンの袋をビリリと破った。
「解き明かそうよ。あの廃墟の謎を」
「謎なんて、なんにもないでしょうが」
私は高校二年生になっていた。季節は一回りし、再び五月が巡ってきていた。クラス替えがあっても相変わらず私の席には誰も近づかないし、どれだけざわついていても、私が廊下を歩けば、皆さっと道を開けた。海を割るモーセの気分だ。もう最近はちょっと面白がっている自分がいた。
とは言え、面白がっていられない場合もある。休み時間などは居場所に困った。教室にいれば無言で迷惑そうな視線を送られるし、図書室に通ってみると、利用者が激減して学校司書さんが嘆き悲しんだ。特に困ったのは昼休みだ。教室の自席で弁当を食べていると、「なんでいるんだよ。トイレで食えよ……」と微妙に耳に入る声量で文句を言われた。流石に腹がたったので、昼食スポットとして人気を博していた屋上のベンチで毎回昼食をとってやることにした。それまでは毎日賑わっていた屋上には誰も寄り付かなくなり、高校の青春の代名詞である屋上スペースはあっという間に私専用の貸し切りスペースとなった。皆が早いもの勝ちで取り合っていた数脚のベンチ群は閑散とし、私だけが独占する屋上からの眺めは絶景であった。ざまあみろ。
そうして勝ち取った私のプライベート空間に、最近になって足しげく通う少年が現れた。一つ下の後輩、日暮秋人である。コンビニで出会った際は同じ高校に通うことになるとは思ってもみなかった。
秋人は出会った当初はまだ中学生で、甲高い女の子のような声をしていて、それが可愛いらしかったのだが、いつの間にか声変わりがはじまってしまい、男子高校生らしい低い声色に変わろうとしていた。なんとなく残念である。
「死んじゃってた子。うちの高校の生徒だったんだよ。気にならない?」
「全然」
私はほとんど冷凍食品で埋められた弁当のおかずの中からシュウマイを箸で摘まみ取り、口に放り込んだ。うまいと唸るほどではないが、いつもの味だ。安心する。
「家出の末に薬をやって、死んじゃった哀れな非行少女。珍しくもないでしょ」
「いや、もしかしたらなんかあるかもしれないじゃん。隠された真相? 的な?」
「ないわよ。ドラマじゃあるまいし……あ、こら」
秋人は無断で私の冷凍シュウマイをひとつ摘まみ取り、頬張った。
「うん。冷凍ものって感じ」
「あんたは万引きしたパンでしょうが」
「失礼だな。これはちゃんと買ったよ」
「どうだか」
「こっちのメロンパンはね」
「そっちの焼きそばパンは盗んだのね」
この先輩に対して敬語も使えない少年は万引き癖がある。一度は止めてやったが、その後も繰り返しているようなので、もう最近は放置気味だ。
かといって、なぜかできてしまった腐れ縁を切ろうという気分に私がならなかったのは不思議である。
なんだかんだ、私も友達がいなくてなんだかんだ寂しいのだろうかと一時は思ったものだが、最近、それだけではないことに気が付いた。
ダメとわかっていても、何度も物を盗んでしまう。
その姿が、一人の友人とどうしても重なってしまうのだ。
そんな私の事情を全く知らない窃盗小僧は、今日も元気に万引きした総菜パンにかじりつきながら言った。
「じゃあ、なんなら僕一人で行こうかな」
「……やめときな」
最近は電車から見る限り、特に廃ホテルに影などは見えなかった。当時はきっと放置されていた死体がそこらの霊を呼び寄せていたのではないだろうか。今は死体も綺麗に片付けられているはずだから、霊的に問題なくなったのかもしれない。知らんけど。
だからといって、不用意に近づいていい場所ではないように思う。
「だって、ナツ姉が来ないって言うんだもん。一人で行くしかないじゃん」
「だから行かなければいいでしょ」
「もったいないよ。ナツ姉。せっかく幽霊が見えるんだから。その能力、人のために使わないと」
「知ったことか」
最近わかってきたが、この小僧は私の霊感的なものに多大なる幻想を抱いているようだった。私と一緒に心霊探偵ごっこをしたいのだろう。ほんと小学何年生だよ。
「四月からずっと頼んでるのに。このヘタレ姉。ビビり」
「どうとでも言いなさい」
私は唯一自分で作ったおかずである卵焼きを味わいながら鼻で笑った。少し砂糖を入れすぎたと反省。明日はうす口醤油で出し巻き風にしてみよう。
私の小ばかにした態度が癪に障ったのか、秋人は「もういいよ」とベンチから立ち上がった。
「今夜、一人で行くから。ナツ姉は家の布団の中で震えてなよ」
「はいはい。好きにしな」と私はせせら笑った後、すっと、表情を改めた。
「それはそうと、その背中のやつ、何とかしなさいよ」
秋人の顔色がさっと変わる。
「え、……いるの?」
「ええ」と私は秋人の背後を凝視する。
「女の子ね。高校生ぐらいかしら」
秋人は持っていたメロンパンの袋をその場に落として凍り付く。私は視線を弁当箱に戻した。秋人が泣きそうな声を出す。
「ど、どんな……」
「半分腐ってるわ。顎の骨が見えてる」
私はあえて目を上げず、淡々と言った。秋人は小刻みに肩を震わし始めていた。
よし。もう一押し。
「長い黒髪がべったり顔に張り付いてるわ。片目だけ髪の間から除いていて、その目玉であんたのことを……」
「いや、それ、貞子じゃん」
緊張させていた肩を秋人ががっくりと落とした。ちっ。ばれたか。
私の嘘を見抜いた秋人は、その場にしゃがみこんで、項垂れた。
「びびったあ……」
「ほら。この程度で怖がる奴が、死体遺棄現場なんて行けるはずないじゃない。あきらめなさいな」
数十秒ほど項垂れただろうか。秋人は突如猛然と立ち上がった。
「今のは流石に頭にきた。やるよ。やってやんよ」
あ、まずい。気持ちを削ぐつもりが、逆に十代男子のプライドを刺激してしまったかもしれない。
「今夜、十二時! 僕ひとりで廃墟に突撃してやる。そしてこの事件の手がかりを掴んでやる!」
いや、だから、別に未解決事件でもなんでもないんだから、手がかりとかねえんだよ。
「いい? 十二時! 午前零時だよ! 最寄り駅に十一時! 徒歩で一時間とみて、廃墟に着くのは十二時だ! 絶対ひとりでも行ってやる!」
そうなぜか事細かに時程と場所を叫ぶと、秋人はメロンパンの袋をひっつかんで走り去っていった。
そして、屋上を出る扉の前でもう一度叫んだ。
「絶対! 一人でも! いってやるからなああ!」
秋人は扉を抜けて階段を駆け下りていった。
私はぽかんとその背を見送り、食べかけの弁当箱に視線を戻してため息をついた。
来てほしいってことね。