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キャンプをしたいだけなのに【2巻発売中】  作者: 夏人
第7章 人は誰にもなり得ない
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【第7章】 廃村キャンプ編 3 作戦会議


 3 作戦会議


「ナツさん。それ、デートじゃないですか」

 美音は菜箸を握ったまま目を丸くした。

「……違うよ」

 私はなんでもないように髪をかき上げながら、牛肉が煮えたぎる鍋を覗き込んだ。すき焼きだ。

 秋人をアウトドアショップで殴り飛ばしたのはつい昨日のことである。今夜は友人の美容師、岸本美音の部屋にお邪魔している。

 先ほどお風呂を借りたので、風呂上がりだ。私はシャワーだけで済ますつもりだったのだが、気を利かせてお湯を張ってくれた。お洒落なバスソルトやらが入っていたそうで、湯船にもよくわからないハーブやらが浮いていてなんだか落ち着かなかった。人の家で風呂など借りるものではない。

 今は寝間着に着替え、二人で小ぶりな炬燵に入り、すき焼きパーティーと洒落込んでいるのだ。

 いつもはこの甘辛い香りに包まれた肉を前にすると抗いようもなく我先に箸を伸ばすのだが、今日はなんだかやけに目が泳ぐ。肉に集中できていない。

「あいつとは、そんなんじゃない」

 私は美音にそう返したものの、美音が言った「デート」という単語がなぜか脳内にちらつき、大好きなすき焼きの食べ方を思い出せなかった。え、卵ってどこに入れるんだっけ? 皿? 鍋?

「いやいや、男女二人きりでキャンプに行くことになったんでしょ。完全にデートですよそれは」

「だから、そんなんじゃないって。私のが歳上だし」

「十年前は、でしょ。そりゃあその当時は意識していなかったでしょうけど、大人にとって一、二歳の差なんてあってないようなもんですよ」

「なに、興奮してんのよ。阿保らしい」そう言って私は卵を取り皿のふちにコツンとやって取り皿に割り落とす。

「……ナツさん。それ、二個目ですよ」

 言われて気づく。取り皿には生卵が二つ収まってプルプル揺れていた。まるで双子のようだ。

「いやー。ナツさんの浮いた話なんて初めて聞いたかもです」

 美音はやけに上機嫌に自分の取り皿の卵を箸で混ぜ始めた。私も取り皿の二つの卵を混ぜ合わせながら「いや、ないって」と吐き捨てる。

「そもそも相手が何とも思ってないって。ナツ姉だよ。なつねえ。近所のお姉さんぐらいのイメージなんだって」

「近所のカッコいいお姉さんに憧れていた青年が、十年ぶりに運命の女性に再会……ときめき展開ですね」

「マンガじゃないんだから」

「でも、言ってたんでしょ。一日だって忘れたことなかったって」

 美音は両手を意味深に組み合わせた。

「秋人君、一途なんですね」

 まったく、最近の若いもんはすぐに色恋沙汰に結び付けたがる。困ったもんだ。

「脳内お花畑ね」と鼻で笑う私に、美音は冷静に突っ込む。

「ナツさん。卵、いつまで混ぜてるんですか。泡立ちそうですよ」

 私はふわふわオムライスができそうなほどに混ざり切った卵の皿を、無言で炬燵の上に置いた。勢いよく混ぜすぎて、置かれた後も取り皿の卵たちは洗濯機の中にいるようにくるくる回り続けていた。

 うん。認めよう。私は動揺している。

 仕方ないだろう。男性と二人で出かけるなんて、それこそ元カレの徹とが最後だっただろうから、数年ぶりだ。

 少しくらい緊張しても不思議ではないはずだ。

「結局、行くことになったんでしょ」

 私はこくりと頷いた。

 あの日、私は深く考えず、「あ、そんな約束してた?」「してたよ!」「そっかあ。じゃあ、今度行く?」「うん! いつあいてるかな?」「基本暇だけど」「ライン教えて! スケジュール確認してから送るから」「おっけ。キャンプ場は私が決めていい?」「もちろん! 楽しみだね!」みたいな、実にお気楽なやり取りを行い、とりあえず解散した。

 その後、一人になってキャンピングカーに帰宅。キャンピングカーに住み着いている憑依系女子高生カンナにその日あったことを何の気なしに話すと、どうも反応がおかしい。このJKはなんでこんなにはしゃいでいるんだ? そこでようやく私も事態に気が付いたのだ。

 そして急遽、美音に宅飲みを持ち掛け、今に至る。


「と、とりあえず、食べよう。煮込みすぎてもおいしくないし」

「そうですね」

 ちょっとご機嫌な美音は頷いた。

「腹が減ってはなんとやらですし。作戦会議は後にしましょう」

 なんだよ。作戦会議って。

 なにはともあれ、動揺する自分を冷静に客観視できたことで、私は少し落ち着きを取り戻した。すると目の前のごちそうに急に意識が向き始める。

 箸を取り、もちろん真っ先に牛肉に手を伸ばす。美音は、わりしたではなく醤油とザラメと日本酒を使う本格派だった。

 すき焼きはいい。西洋文化が急速に入ってきた明治時代、牛肉を食べる文化が庶民にも広まった。すき焼きは牛鍋から始まった日本人の近代化の息吹を感じられる素晴らしい料理だ。

 私はたっぷりの生卵に一際大きい牛肉を絡め、贅沢にも一口で頬張った。うまい。お口の中がパラダイス。文明開化万歳。

 しかし、至高の牛肉は口の中ですぐに溶けてなくなってしまった。私はその悲しみを打ち消そうと次の肉を求め、鍋に菜箸を突っ込む。これまた一際大きいに肉の塊を発掘すると皿に確保する。

「ちょ! ナツさん。お肉ばっかり取らないでくださいよ!」

「なによ。けちね」

「私のとっておきなんですからね!」

 この上等な牛肉は美音がふるさと納税の返礼品でゲットしたものらしい。

「野菜とか豆腐とかは全部買ってきてあげたじゃない」

「だったら野菜と豆腐を食べてください。はい、どうぞ」

 無理やり私の取り皿に白菜と豆腐が詰め込まれた。

「それがなくなるまで肉は取れません」

 くそ。やられた。姑息な真似を。

 とは言え、美音のいうことはあまりにもっともだったため、素直に野菜と豆腐を味わう。美音の味付けがよいのだろう。白菜だけでも感動するほど美味であった。

 しばらく二人ですき焼きを味わい、私が買ってきた酒の缶を傾けた。私はビール、美音はチューハイである。

 すき焼きの具材があらかたなくなり、締めのうどんが投入されたタイミングで、美音が再び切り出した。

「ナツさん。正直に聞かせてください」

「なによ」

 私は牛肉の甘美な余韻に浸りながら、ビール缶を傾けた。

「ぶっちゃけ、秋人さんは、ありですか。なしですか」

 ビールを吹き出しそうになった。

「いや、だからね、そういうんじゃ」

「正直に!」

 美音が、コンッとチューハイの缶を炬燵に置いて言った。

「ありか、なしかで」

 私はゆっくりとビール缶を炬燵の上に置き、腕を組んだ。

「まず、見た目は?」

 別にルックスにこだわりがあるタイプではない。そもそも異性には疎い。だが、冷静に考えるとやせ形で高身長。元恋人の有馬徹と身体的特徴は似通っている。顔は……高校生の頃は単に顔色の悪いガキという感じだったが、大人になった今では色白で端正な顔立ちと言える。つまり、イケメンであろう。

「まあ、まあ」

「ありなんですね! じゃあ、性格は? 一番大切ですよね」

 性格。まだまだ未知数だが、ちょっと話した分には悪い印象はなかった。ちょっとオタクっぽい側面も垣間見えてはいたが、まあ、別に私にとってはどうでもいいポイントだ。お互い様だし。むしろ、キャンプについては共通の趣味と言えるだろう。アウトドアショップで少しだがギアについて教えあったりするのも楽しかった。

「気は、たぶん、合うわ」

「いいじゃないですか。じゃあ、最後に収入面。大人のお付き合いにおいては大事ですよ」

 独立したいやらなんやら言っていたが、少なくとも現在は定職にはついているらしい。着ているものもそれなりに上等そうだったし、手取りは悪くないと思われる。趣味に没頭している感じもあったし、生活に余裕はあるのだろう。

「別に問題なさそうだったわ」

 美音がパンっと両手を合わせる。

「好条件じゃないですか!」

 そ、そうなのかな。そうなのか。

「でも」と美音が声のトーンを落とす。

「やっぱり、ナツさん自身が恋愛したいかどうかが一番大事なんですよね。勝手に盛り上がっといて申し訳ないんですけど、新しい恋に踏み出すかどうかはナツさんのタイミングがありますから」

 新しい恋? その口ぶりに、美音の誤解に気がつく。彼女は元彼の徹の死について気遣ってくれているのだ。慌てて否定する。

「あ、別に前の恋愛を引きずってるとかじゃないの。それは気にしないで」

「そうなんですか?」

 美音が意外そうな顔をする。

「てっきり徹さんのことが吹っ切れていないのかと……ナツさん、恋愛話全くしないし。紗奈子ちゃんともそう話してたんです」

 なるほど。と腑に落ちるところがあった。紗奈子なんかは明らかに恋バナとか好きそうなのに、私に対しては一切その話題を出したことがなかった。あの子なりに気を使ってくれていたのか。

「まあ、なんというか、そもそもあんまり色恋沙汰に興味があるタイプじゃないんだよ。私は」

「でしょうね。ナツさん基本は人嫌いですし」

「そ」

 鍋で程よく煮込まれたうどんを数本菜箸で拾い上げて皿に移す。

「徹の時だって、あいつの方からぐいぐい来たから、しゃあなしって感じの始まりだったし」

 皿にわずかに残った卵をうどんに絡ませ、すする。うまい。この味の染み具合が最高だ。

「それ以降は特に出会いもなかったしね」

 キャンプ場で知り合った男性とはなぜかことごとく殺しあう羽目になった。まったく何の因果なのか。

「で、ここにきて真打ち登場というわけですね」

 美音もうどんをすすりながらにやりとする。

「阻むものがないのなら問題ありませんね。恋愛の大海原に漕ぎ出しましょう」

 いや、勝手に出航するんじゃない。

「別に恋人がほしいわけじゃ……」

「そんなこと言ってると一生独り身ですよ!」

 いいよ。別に。

「そういう美音はパートナーとうまくいってるの?」

「え、誰のことですか?」

 美音がきょとんとする。あれ? 前に恋人がどうこう言ってたような……。

「湖畔キャンプの後ぐらいに言ってなかった? 相手いるって」

「ああ」と美音は頷いた。

「あの人とは別れました」

 真顔で言われてびっくりする。

「美容師同士だったので気が合うと思ってたんですけど、逆に意見の違いが明確になっちゃって……」

「え、なんかごめん」とうろたえる私に美音は「大丈夫ですよ。結構前ですし」と笑った。

「その後、また同僚の紹介で別の美容師さんと交際させてもらったんですけど、やっぱり一年ぐらいでダメになっちゃって。同業者はダメですね。てことで、今はアプリで知り合った方とお付き合いしてます」

 何のことはないといったトーンで話す美音にぎょっとする。

「え、今どきの子はそんなサバサバした恋愛観なの?」

「いや、もちろん、別れた直後とかは落ち込みますよ。なんであそこであんなこと言っちゃったんだろうとか、あれぐらい許してあげればよかったとか」

 美音は肩肘をついて息を深く漏らした。

「それに、さっき言った初めの美容師の人は、今から考えるといい人だったんですよ。同年代のわりに落ち着いてやさしかったし」

「より戻せばいいのに」そう言うと、美音はじとっとした目を私に向けた。

「結婚しちゃったんですよ。私と別れてすぐ。今じゃお子さんもいるみたいで……流れてくるタイムラインがもう幸せそうで幸せそうで」

 美音が恨みがましいため息をついた。

「じゃあ、別れなきゃよかったのに」

 率直にそう言うと「正論を言わないでください」と睨みつけられた。

「お互いに下積みの時期だったから余裕なかったんです。ああ、今ならうまくいくだろうなあとか夜な夜な思うんですよね。なんであの時、向き合うことを諦めちゃったんだろう」

「まあ、あとの祭り。覆水盆に返らずですけど」とつぶやきながら美音はチューハイの缶をグイッと煽った。

 そうは言いながらも新しい恋にどんどん挑戦する美音は素直に偉いと思う。

 ここ数年、徹との別れを通して、「私はもう恋愛とかいいや。キャンプもカメラもあるしー」てな感じで生きてきたが、美音のリアルな恋愛事情を聞いてなんだか変な心のざわつきを感じた。美音は一つの恋が終わってもすぐ気持ちを切り替えて行動しているのに、年上の私が数年間もうだうだしていていいのかという焦りに似た感情である。

 いや、別に結婚願望も特にないんだから、全然いいんだろうけど。

「今は今で新しい人がいるんでしょ? 問題ないじゃない」

「それなんですけど」

 美音はチューハイを飲み干すと、こたつから生える上体をぐうっと反らした。

「やっぱり、比べちゃうんですよね。初めの人と。もちろん、人には個性があって、得意不得意があります。前の人より今の人の方がいいなあってところもたくさんあるんですけど」

 美音は大仰な溜め息をついた。

「ふとした時に思っちゃうんです。ああ、あの人ならこういう時、こうしてくれたのになあ、とか。さみしさを埋めるために始めたお付き合いが進めば進むほど、喪失感が深まっていくこの皮肉な展開ですよ」

 美音は新しい缶を開けた。今日はよく飲むな。

「誰かの代わりなんて、誰にもできないんですよ。結局」

 難しい話になってきた。恋愛素人の私にはいまいちピンとこない。なので、想像してみよう。とりあえず徹で。

 もし、徹とそっくりな、眼鏡で細身の好青年に出会えていい感じになったとしよう。彼は徹に顔もそっくり、声もそっくり。で、理屈っぽくて話が長い。

 でも、それは結局のところ徹では、ない。

 たとえ、同姓同名であっても。一卵性双生児であっても。なんなら徹の真似をしてくれと頼んだとしても。

 彼は絶対に徹ではないのだ。

 そして、その違いを一番実感してしまうのは、きっと私だ。

 人は誰にもなり得ない。私が私以外になれないように。


 私まで考え込んだせいで、美音の小さな部屋に沈黙が流れた。すき焼きがぐつぐつと煮える音だけが浮かぶ。

「で、いつキャンプデートなんですか」

 空気を変えようと、明るい声色で話題を変えた美音に、「一週間後。十二月十日」と返す。デートじゃないと否定するのもそろそろ面倒臭くなってきた。

「すぐじゃないですか! キャンプ場は決まってるんですか?」

「うん。ちょうど市営のキャンプ場を予約してる日だったの。無料なのよ。フリーサイトだし、人数が増えても……」

「だめですよ! なに考えてるんですか!」

 美音がダンッと炬燵の天板を叩いて身を乗り出した。私は驚いて取り皿を持ったままのけぞる。

「え、何が?」

「初デートですよ! もっと綺麗なとこじゃないと!」

 私はむっとして言い返す。

「最近の市営は馬鹿にできないのよ。確かに設備は古いところが多いけど、清掃もわりと行き届いてて……」

「そうじゃなくて、もっと、なんというか、温泉があったり、サウナがあったり、売店があったり……」

 出たよ。高規格キャンプ場信者。

「インスタとかで取り上げられててキラキラワイチューバーが行くような、そんなお洒落キャンプ場です!」

 その理論だと、私はキラキラしてないワイチューバーってことになるぞ。失礼な奴め。

「言いたいことはわかるけど、別に誰と何をするかが重要で、場所は重要では……」

「いいえ!」

 美音はきっぱりと言い切った。

「そういう本質が大事みたいなことを言う人ほど、結局は手間を惜しんでいるんですよ。誰と何をするかが重要。確かにその通りです。でも、だからと言って相手のために場を整える努力を怠る理由にはなりません」

 私は「ええ・・・・・・」と声を漏らした。

「だって、わざわざ頑張って用意したりするの、なんか恥ずかしくない?」

「誰に恥ずかしがってるんですか!」

 美音が激高する。

 いや、秋人にだよ。

 ずいっと美音が鍋越しに私に顔を寄せる。

「想像してみてください。例えば、もし秋人さんが『キャンプ場選びは俺に任せて! 最高のとこ知ってるから!』って豪語したとしましょう。期待しますよね。で、いざついて行ってみたらそこらの無料キャンプ場だったらどう思います?」

「いや、別にどうも思わない……」

「本当に? まったくがっかりしませんか? なあんだ、彼にとって私はその程度の価値しかないんだって思いませんか? 一ミリも? 一ミクロンも?」

 こんなに早口の美音は初めて見た。あまりの剣幕に、「そ、そうかも……」と思わず頷いてしまう。

「そうでしょう! しかもナツさんは年上です。年上だからリードしなくちゃいけないなんて道理はもちろん無いですけど、今、ナツさんは話題のキャンプワイチューバーなんですよ! そりゃあ、そこらのキャンプ場に連れて行くわけにはいきませんよ」

 なるほど。「彼にとっての私の価値」みたいなくだりは正直わからんが、確かに、キャンプ場選びを任されたということは、私のキャンパーとしての力量が図られるということでもあることは納得できた。適当なキャンプ場に連れていけば、キャンプワイチューバー・ナツ姉の沽券に関わるということだ。

「誰かのために行動する、その想いだけは、絶対に間違ってないんですよ。ナツさん」

 そう、美音はご高説を締めくくった。

「よくわかったわ」

 私が頷くと、美音は満足げに席に戻った。美音が身を乗り出した勢いで若干傾いた鍋の角度をさりげなく戻す。

 実に理論的な説明で、美音の恋愛観はよく理解できた。が、今の勢いで、なんとなく、美音が恋人と長く続かない理由が垣間見えた気がする。歴代のパートナーさん達は皆、ご苦労なされたんだろうな。

「で、どうします? いい感じにお洒落なところ、ナツさん知ってます?」

「高規格なところは行ったことないわ」

「景色がいいとことか」

「私、あんまり景色は興味ないから」

「もういいです。私が調べます」

 美音はそう言うと、スマホを取り出してインスタを巡り始めた。

 私もマップアプリを使ってめぼしいところを探してみる。しかし、すぐに二人とも壁にぶち当たった。美音の言う「お洒落」なキャンプ場はどこも予約がいっぱいだったのだ。一週間前ではやはり動くのが遅いらしい。みんな、随分前もって計画しているんだなあと感心してしまう。酒を飲みつつ二人でネットをさまよったが、小一時間たったところで、美音が「ああ、全然空いてない……」と炬燵に突っ伏した。ちなみに鍋はもう片付けて、代わりにみかんが積まれた籠が置かれている。

「もういいじゃん……市営で」

 美音は酔いが回ってきたのか、赤ら顔で私を見上げた。

「なんか、ワイチューバーのコネとかで予約に割り込めないんですか?」

 できるわけがないだろう。

 そう答えたいのはやまやまだったが、つい、返事がよどんでしまった。

 その様子に、美音がびくりと顔を上げる。

「え、ツテ、あるんですか?」

 私は「まあ、あるにはある」と頷く。

「すごい! 流石!」と表情を輝かせる美音に、私は渋い顔を作り、「でも、気が乗らないのよね」と付け加えた。

「なんでですか?」

 そう問う美音に私は簡潔に答えた。

「怪しいから」





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― 新着の感想 ―
>キャンプ場で知り合った男性とはなぜかことごとく殺しあう羽目になった 笑ってしまった。ほんとにそう 新キャラが出てくるとこの人は幽霊か?殺人鬼か?と疑ってしまう
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