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キャンプをしたいだけなのに【2巻発売中】  作者: 夏人
第5章 言葉にしたって伝わらない
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【第5章】 高原キャンプ編 33


 33


「みんなさ、将来、どんな感じ?」

 そう切り出したのはシロマくんだった。

 ミアちゃんが「どんな感じってどういう感じよ」と突っ込む。

「アレだよ。将来の夢・・・・・・・っていう段階でもないか。予定? 目標? したいこと? だよ。俺はとりあえず大学生活を満喫するぜ」

 高校三年生の4月。

 カンナたちは新しいクラスの仲良しメンバーで屋上に集まり、お昼を食べていた。それぞれが持ち寄ったものをレジャーシートに広げての、互いにつまみながらの昼食会だ。

「俺は実家の整備工場を継ぐ。まあ、最初はこき使われるだけだろうけどな」

 そう答えたシンくんは唐揚げを頬張った。「うまい」と呟く。そのタッパーを持ってきたマイちゃんがほんのり頬を染めた。手作りだって言ってたもんね。よかったねマイちゃん。

「んー。俺も適当に大学進学かなー。俺の頭じゃ国立は無理かもー」

 そうぼやいたのはノブくん。今年からクラスが一緒になった。とってもノリがいい男の子だった。

「私はねー。大学もなんかめんどくさいのよねー。ていうか、うち、お金ないし」

 そう言いながら胸を反らしたのはアッコちゃん。とってもおしゃべりな明るい子だ。

「奨学金制度もあるよ」とマイちゃん。それにアッコちゃんは「ムリムリ」と笑った。

「国に借金とかまじでありえない」

「じゃあどうするんだよ」とシロマくん。アッコちゃんはため息をつく。

「あー。だれか結婚とかしてくれないかなー」

 そしてアッコちゃんは委員長に視線を送る。

「委員長は、推薦決まりそうなんでしょ。国立の。すごいよね」

 マイちゃんは「べ、別に大したことじゃないよ。それにまだ決まった訳じゃないし」と照れ笑いを浮かべてうつむいた。

 肉団子を頬張ったミアちゃんが、「私も大学ー。栄養士にでもなろうかなー」と言うと、シロマくんが「いや、栄養士なめすぎだろ。結構むずいらしいぞ」と笑った。

「え? ムリかな」

「勉強すれば大丈夫だよ」とマイちゃん。

「いや、それは委員長ならの話な」とノブくん。

 美亜が頬を膨らます。

「言っとくけどね。この中で委員長の次に成績いいのは私だからね。あんたらこそなめんじゃねえぞ」

「一位と二位の差は歴然だけどな」とシンくん。

「うるさい! あんたこそ委員長がいなかったらとっくに留年してるでしょうが。身の程を知れ!」

 カンナはクスクスと笑った。みんな面白いなあ。

 美亜が、がばっとカンナの背中に抱きついてきた。

「カンナあ。みんながいじめるんだよ。なんとかしてよ」

 美亜がカンナの頭に顎を乗せる。カンナは急なボディタッチにどきどきする。ミアちゃん、こういうとこあるんだよなあ。

「そういうカンナは、どんな感じ?」

 カンナは小首を傾げた。正直、将来の実感があんまりない。

「なんか、したいこととかないの」

 したいこと。

 ふと、長らく会っていない父との約束が思い出された。

『いつか、旅をしよう。このキャンピングカーで』

 旅。いいな。

 自分が行ったことない土地に、家族や、気の合う仲間と冒険する。きっとすっごくわくわくするし、毎日が楽しいだろう。

 カンナはマイちゃんにむかって、左手の掌の前でチョキの形の右手をくるりと回した。「旅」を意味する手話だ。

 しかし、角度的に右手がグーの形に見えてしまったのだろうか。マイちゃんは手話を読み間違えたらしい。

「サークル? ああ。カンナちゃんは大学でサークルに入りたいのね」

 マイちゃんの通訳にシロマくんが「そうだ。大学のサークル! 俺、何入ろうかなあ」と呟き、ノブくんも反応して話題が広がってしまった。

 あちゃー。伝わらなかったか。

 でも、まあ、いいや。

 そういうこともあるさ。

 カンナは背中で楽しそうにはしゃぐミアちゃんに体重をまかせ、空を仰いだ。

 でも、いつか行きたいな。旅。あのキャンピングカーで。

 屋上を心地よい風が吹き抜ける。

 カンナの目に映る空は、息を飲むほど青く、大きかった。





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