コミュ症たちは要塞都市へ行く。②
「嫌だあああああああ!誰か……誰か助けろやあああああ!ひひゅああああああああ!」
馬車中に悲鳴が響き渡る。
まさに限界を迎えている者の、地獄の様な悲鳴。
最初は当然心配し、悲鳴の原因となるものを解決しようとした。
しかし、十数分も悲鳴を上げ続けていれば、対応も変わってくる。
ついに限界が来たのか、カンナが大きく声上げた。
「あー……もうっ……いい加減にうるさい!もう少しで着くんだし、もっと静かに出来ないの!?」
「うん、カンナの言う通りだ。もっと静かに出来ないか?……スターチス」
「いや、無茶言うなやああああ!俺様はもう限界なんやああああ!もう馬車酔いが限界超えて限界なんやああああ!早く馬車を止めてくれええええええ!」
十数分前から、ずっとこの調子だ。
本人曰く、どうやらスターチスは乗り物に弱いらしい。
弱いと言っても、乗り物に乗って、すぐさま酔うという訳ではない。
数十分なら大丈夫らしいが、臨界点に達した瞬間、全てが爆発する。
一気に気持ちが悪くなり、信じられないほどの吐き気を催すらしい。
とは言っても魔剣だから吐いたりは出来ないらしいがな。
「あー……もうやばい!このままじゃ俺様大変な事になっちゃうで!本当に大変な事になっちゃうで!早く……早く馬車止めてええええ!」
「もう少しなんだから落ち着いてください。というか、瞬間移動できるんですから、一人で瞬間移動すればいいじゃないですか」
「それは駄目だ!ここで一人離れて、その間お前らに何かあったら大変やろ!俺様の身にもなってみろ!モモの奴にボコされるだろうが!」
「ボコされるって……自分の保身なのかよ……ん?あれは…………」
ふと外を見ると、一面の草原の中に一つの建造物が建てられているのが見えた。
石造りの長い塔のように見えるが、一体何なのだろうか。
「お、あれは見た事あるぞ。確かあれは試練の塔だな!となると……あ!おいコウキ、塔の向こうを見てみろよ」
アリウムに言われるがまま目をやると、そこには巨大な壁が並んでいるのが見えた。
その壁は学園のあった街を囲っていたものよりも巨大で、随分と長く続いている。
その圧巻の景色に思わず息をのみ、これからそこで日々を送ることを想像し、胸を膨らませる。
そんな時。隣から微かな声が聞こえた。
「もう……無理や……」
「……え?」
「もう限界やああああああああ!お前らあああああ!なんかもう……ちゃんとしろよ!俺様は外の空気吸ってくるううううううううう!」
突如としてそう叫ぶと同時に、スターチスはどこかへと消え去った。
ついに酔いが限界だったのだろう。
「……スターチス行っちゃったな」
「ああ……そんなに辛いのなら、もっと早くに行けばよかったのにな」
「その通りだな。全く……スターチスは……」
「アア、ニンゲン……カ?」
『!?』
余りにも突然だった。
突如、馬車内に冷たい声が響いた。
全員前を見ていたこともあり、その姿を見てはいないが、それでもその場の全員が理解した。
その声主が俺たちの格上の存在である、魔族であるという事を。
その存在に気づいたのか、馬車を引っ張っていた鳥はキャベツを追うのをやめ、凍り付いたかのようにその場に完全に停止した。
運転手も同じように完全に停止し、全く動こうとしない。
彼も魔族の存在に気づき、動いてはならない事を理解したのだろう。
その場の全員が沈黙していると、再び後ろの魔族は声をかけた。
「ニンゲンカト、キイテイル……」
答えなければならない。
答えなければ、殺されてしまう。
かと言って、答えたとしても、殺される可能性は高い。
どうしようもない。絶望的状況と言っても過言ではない。
それなら……。
「やられる前に……影!」
酷く怯えながらも、勇気を振り絞り、影を操る。
勝ち目はないと理解はしている。
しかし、師匠の時の様に、もう大切な人を失う訳にはいかない。
その一心で、勇気をもって立ち向かおうとする。
「シャドウハン……」
「モウイイ、シネ」
影で武器を作り終える直前。
魔族はその腕を俺の首元へと振った。
当然反応することは出来ず、本能的に自らの死を悟った。
その時、魔族の腕が吹き飛んだ。
それと同時に、俺たちの目の前に誰かが現れた。
その男は上の服は着ておらず、見た事がないほどの筋肉で身を包んでいる。
尖ったような橙色の髪をし、背中には巨大な傷跡がある。
男は振り向くと、一人一人の顔を確認する。
そして、それを終えたかと思うと、顔を戻し、動揺する魔族の顔目掛けて、拳を炸裂させた。
次の瞬間。魔族は突風と共に数十メートル先へ殴り飛ばされた。
その勢いから察するに、間違いなく即死だろう。
「いやー、悪かったな。一体魔族をやり損ねてしまってな。みんな怪我は無いようで安心した!」
「は……い……えっと……あなたは……」
「オレはゲッケイ!最強の異名を持つ、人類最強の男だ!」
彼はそう叫ぶと、ニッコリと笑った。
突如現れた男の実力は……?




