コミュ症たちは要塞都市へ行く。①
「仮冒険者の皆様、準備はよろしいですね。それでは出発します」
男はそう言うと、馬車の先頭に繋がれている鳥の眼前にキャベツを垂らした。
すると鳥は瞬時に立ち上がり、キャベツを追うように走り出した。
鳥に引っ張られ、馬車も道のりに走りだす。
馬車は相当な速度で進んで行き、デイングの町は見る見るうちに小さくなっていった。
その姿に様々な感情が湧き上がりながらも、荷物を置き、ゆったりと休み始める。
突然の連続で、流石に疲れた。
急に次の仕事が決まったかと思ったら、即座に移動とか……普通に考えたら有り得ない。
全く、モモ校長にはもっと俺たちの事を考えてほしい。
しかし、要塞都市グリトアか。
一体どんなところなのだろうか。
要塞都市と言うからには要塞のある都市なんだろうが、やっぱり壁に囲まれているんだろうか。
都市自体の防御態勢は相当高いのだろうが、技術力もデイングの町とかと比べて上がっているのだろうか。
学園があった街と比べて、防御態勢が低い事はないだろうが、どれほどの物なのか気になる。
取りあえず、要塞都市とついているを考えると、カッコいいのは間違いないはずだ。
ゲームの要塞みたいに壁は固く、防御体制も万全で、大量の騎士が街の周囲を警戒していたりしないかな。
大きな堀と壁で周りを囲んでいて、門番の許可がないと絶対に入れないと課でも良いな。
考えれば考える程、色々な妄想が湧き出てくる。
「駄目だ……なあ、アリウム。お前要塞都市グリトアの事、何か知らないか?……さっきから気になり過ぎててやばいんだよ」
「え、グリトアを知らないのか!?グリトアは世界一の要塞と呼ばれている街で、魔族と人間との戦場の最前線なんだぞ!これくらい子供でも知ってるぞ」
「世界一の要塞に……戦場の最前線!?」
魔族と人間の戦場の最前線って……魔族と人間の戦いが最も過激な所ってことだよな。
つまり、俺たちが戦ったような強力な魔族と冒険者たち人間が戦っている場所だってことだよな。
俺たちは今からそんなところに行くのか?
……まじかよ。
いやさ、確かに師匠の分も頑張るとは言ったよ。
冒険者としての覚悟も決めたよ。
だけど、いきなり魔族との戦いの最前線はないじゃん。
流石にそれは想定外すぎるって。
俺はまだ始まりの街を抜けて、小さな町をなんとか抜けたばっかりだぞ。
そんな俺が最前線は流石にやばいだろ。
俺は何でそんな所に行くのを楽しみにしてワクワクしていたんだ……。
「おい、急に頭を抱えてどうしたんだよコウキ」
「いや……ちょっと現実を見てしまって……アリウムは何かいつも以上に嬉しそうだな。なんかあったのか?」
「そりゃあ、嬉しくもなるよ。だってよ、俺らが今から行くのはあの要塞都市グリトアなんだぞ!あの最強の男。ゲッケイさんがいる街なんだぞ!」
「ゲッケイさん……誰だそれ?」
そう零すと、馬車に乗っている全員が驚いたように俺へと目をやった。
何か変な事を言ってしまったのだろうか。
そんな事を考えていると、カンナが溜息を吐いて話し始めた。
「いやー……、コウキは常識がないとは思ってたけど、ゲッケイさんの事も知らないとは……。良い、コウキ!ゲッケイさんはモモ校長と並ぶ、最強三人類の一人!最強の異名を持つ最強の男!それがゲッケイさんよ!」
最強三人類……また知らない言葉が出てきた。
……いや、よくよく思い出せば聞いた事があるような気がする。
確か、酒場で働いていた時にアフロとハゲが話していたのを聞いた事がある。
全人類の中で、最も強い三人の人類。
その三人を合わせて最強三人類と呼び、一人で魔族と同等の力を持つと言われているんだったか。
三人はそれぞれ異名を持ち、その異名に沿った途轍もない力を持っている。
その力は他の者の力とは格が違く、まさに最強だとか。
その最強三人類の一人がゲッケイさんだと。
話が壮大過ぎていまいち想像できないが、何となくは理解できた。
確かにそんな人の事を知らないとなれば、みんな驚くわな。
……あれ、カンナはゲッケイさんの事を最強の異名を持つ男って言っていたよな。
最強と言えば確かアリウムは……。
「アリウムの夢って最強だったよな?」
「お、覚えててくれたのか!そうなんだよ、俺の夢は最強になる事なんだ。だからさ、現最強であるゲッケイさんの戦いを見るのが楽しみでよ!一体どんな戦い方をするのか、俺は今どれくらい最強に近づけているのか。いろいろ知れると思うから、もう……楽しみなんだ!」
「なるほど。……何となく、お前が嬉しそうにしていた理由が分かったよ」
「そりゃあ良かった!いやー、本当に楽しみだ!今から待ちきれねえよ!」
アリウムは気持ちが抑えられなくなったのか、袋から「読むだけで最強になれる本」と書かれた、何とも胡散臭い本を読み始めた。
どこからどう見ても詐欺まがいの本に見えるが、本人が楽しそうだから何も言わない事にしておこう。
他のみんなもそれぞれ別の事をやり始めたのを確認すると、俺は馬車の外に目をやり、流れゆく景色を眺め始める。
まだ見ぬ要塞都市への不安と期待を胸に秘め、馬車に揺られながら目的地へと進んで行く。




