コミュ症たちは町を出る。
「あ、コウキ!」
「あ、アリウム!久しぶりだな」
俺はそう答えると、駆け足でアリウムの元へと向かう。
この日、俺たち仮冒険者はモモ校長から召集があったため、冒険者ギルドの前へ集まっていた。
治療や用事に、精神的な問題があったため、
数日間アリウムたちとは一度も顔を合わせていなかった。
魔族との戦い以来、初めての顔合わせとなる。
魔族の戦いで深手を負っていたにも関わらず、アリウムたちは包帯の一つも付けていない。
元気もあるようだし、怪我が残っているようには見えない
治療済みだと聞いてはいたが、ここまで完璧に治っているとは。
やはり、この世界の医療技術は感心するばかりだ。
「怪我も治って、元気そうだな。……なんか良かったよ」
「おう!今は元気いっぱいだ!コウキは……その……リュウガさんの事……」
「師匠の事か。それならもう大丈夫だ。心配ありがとうな」
「そうか?それなら良いんだが……まあ、とりあえずモモ校長の所に行くか。時間ももうすぐだしな」
そう話すと、俺たちは冒険者ギルドへと入って行く。
受付でモモ校長の事を尋ねようとすると、丁度二階から下りてきたモモ校長に呼ばれ、二階へと上がっていく。
言われるがままに部屋に入ると、高そうなソファに座り、モモ校長の話を聞き始める。
「久しぶりだな、仮冒険者諸君。諸君らをここに呼んだのは、諸君らの気持ちを聞くためだ。……正直に言え。仮冒険者を辞めたいと思う者はいるか?……魔族の一件で、様々な思いをしたことだろう。別に攻めたりはしない、辞めたいのであれば辞めたいと言ってくれ」
モモ校長の言葉に、室内は静まり返った。
仮冒険者を辞めたいか。
もしかしたら、以前の俺なら少し思っていたかもしれない。
しかし、今の俺の中には全くそんな思いはない。
俺は冒険者になると決めたんだ。
冒険者になるための近道をわざわざ逸れて、遠回りをする気にはなれない。
それに、仮冒険者でしか学べない事もあるはずだ。
仮冒険者で得られる物はまだまだあるはずだ。
こんな中途半端な状態で、辞めたりは絶対にしない。
自らの中で気持ちを定めると、他のみんなの様子を見てみる。
他のみんなは真っ直ぐに前を向いており、誰一人として辞めると言おうとしない。
その様子を見て、モモ校長は再度口を開く。
「……本当に良いのか?このまま冒険者を続ける事によって、より辛い目に合うかもしれない。嫌な思いをするかもしれない。それでも良いのか?」
「……うちは今回死にかけました。コウキやリュウガさんやモモ校長が居なければ、絶対に死んでました。怖かったし、最悪な思いをしました。……けど、だからと言ってこんな所で仮冒険者は辞めません。今辞めたら、きっと後で後悔しますし、辞めたらきっと冒険者にもなれませんから!」
「そうか……他の者も、辞める気はないのだな。……分かった。それでは、次の仕事を任せる!少し離れた要塞都市グリトアにて、アーズリバイスの幹部の目撃情報があった!これは騎士団として見過ごせないのだが、忙しく、そこまで手を回せない。そのため、ゲッケイに協力を求め、共に幹部の捕獲を試みよ!」
アーズリバイス。
俺たちの街を、学園を襲い、俺たちの平和な生活を破壊した集団だ。
ムクゲが一時期所属していた集団でもあり、俺を倒した太陽を操る幹部がいる集団でもある。
そんなアーズリバイスの幹部の捕獲。
様々な思いが湧いてくる中で、やる気が一気に増幅してくる。
幹部ってことは太陽を操る幹部がいる可能性もある。
もしかしたら、あいつと再戦することが出来るかもしれない。
リベンジが出来るかもしれない。
少し怖い気持ちもあるが、それ以上にワクワクしてくる。
速く、すぐにでも要塞都市グリトアとか言う場所に行き、仕事を開始したい。
余りにも気持ちが昂り、珍しく俺から質問を繰り出す。
「それで……その、出発はいつですか?」
「よくぞ聞いた。出発は……今だ!」
『……え、今?』
全員揃って聞き返してしまった。
今って……今だよな。
出発は今って……今だよな……。
「今って……そんな急に言われても。……まだ町の人と話さないといけない事もありますし……」
昨日キキョウと一応は話すことが出来た。
師匠の言葉も伝えたし、俺の言葉も伝えたが、まだ完全に立ち直るには時間がいるはずだ。
支えにはなれないし、何かできるわけでもない。
それでも、いないよりかはいる方が良いはずだ。
出来る事なら、もう少しの間キキョウの近くにいてあげたい。
別に大切だからとか、恋愛感情だとかそう言う訳じゃない。
同じ弟子として、師匠を救えなかった者として、出来る限りの事はしてあげたい。
「すまないが、出発は今してもらう。理由として、要塞都市グリトアには今日中に仮冒険者着くように言ってしまったのだ。そして、グリトアに今日中に着くにはこの時間に出なくては間に合わない。グリトアは巨大な国である為、突然予定を変えることは出来ない。すまないが、我慢してくれ」
いや、この人は何を言っているんだろうか。
そもそもとして、何で俺たちに知らせていない時点で到着日時を伝えているんだよ。
俺たちのうち誰かが行かないって言いだす事を考えなかったのかよ……。
それに、俺たちにも予定があるとは思わなかったのか。
流石に知らされてその日のうちに出発は難しいとは思わなかったのかよ。
この人凄いんだとは思うけど、やっぱり所々変だろ。
「よし、それではこれよりグリトアへと出発してもらう!カナリー、スターチス、部屋に入れ!」
モモ校長がそう呼びかけると、大きな音を立てて扉が開いた。
扉の前にはカナリーとカナリーに抱えられたスターチスの姿があった。
カナリーは一度頭を下げると、ゆっくりと俺たちの元へと近づいてきた。
そして、スターチスを丁寧に地面に突き刺すと、俺たちの方を向き、小さく口を開けた。
「あっとー……どうも、カナリー……です。……短い間でした……が……一緒に仕事してくださり……ありがとうございました。……その、これでも俺は沢山の冒険者を見てきました。……沢山の冒険者を見てきましたが……君たちはその中でもトップクラスに……才能があると思います。……だから……頑張ってくださ……い……」
カナリーは噛みながらも伝えたかったことを伝えきり、数メートル後ろまで下がった。
彼なりに俺たちに気持ちを伝えたかったのだろう。
殆ど聞き取れなかったが、その気持ちは伝わって来た。
「……さて、諸君!今現在町の出入り口は騎士団や商人が多く出入りしているため、相当な時間を取ってしまう。そのため、諸君にはスターチスの力で町の外に待機している鳥車へ瞬間移動してもらう。そこからグリトアへと移動しろ!何か質問はあるか?……ないのなら、全員スターチスへ摑まれ!」
モモ校長がそう言うと、アリウムたちは次々にスターチスに触れていく。
色々と思う事もあるが、仕方なく俺もスターチスに摑まる。
全員が摑んだのを確認すると、モモ校長はスターチスへ指示を送ろうとする。
その直後、カナリーが指示を送るのを止めさせた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくだしゃい!……その、まだ伝えてない事がありました。……コウキくん……その、リュウガの事は……残念だった。……君も色々辛いだろう。……もし、辛くてどうしようもなくなったら、ちゃんと仲間に相談するんだよ……。それで、その……キキョウは俺が預かることになったんだ。……心の傷を癒せるように……出来る限り尽力するつもりだよ。……だから……そこまで心配しなくていいよ。……ほら、何かと気にしてたみたいだからさ……あと……リュウガの分まで頑張ってほしい……その、弟子みたいだしさ……ね……?」
なるほど。
キキョウの事はカナリーが預かることになったのか。
師匠とカナリーはそれなりに仲が深そうだったし、それなら安心だ。
きっとキキョウが立ち直るまで面倒を見るだろうし、立ち直った後も師匠の代わりとなるはずだ。
そして、師匠の分まで頑張ってほしいか。
それは考えていたし、元からそうするつもりだ。
師匠の分まで人を助け、脅威となるモンスターや魔族を止める。
師匠が見れなかった景色を沢山見て、冒険者として全力で働く。
決して師匠の亡霊に縛られることはなく、自分のやりたい事をやりながら、師匠の意志も次ぐ。
師匠にも似たような事は話したし、覚悟も決まっている。
今なら、自信を持って、心の底から言える。
「はい!俺は……師匠の分まで色々な事をしますよ。安心してください、師匠の見れなかった景色も見て、師匠以上に冒険者として、頑張っていきますから!……それと、その……キキョウさんの事も、お願いします」
「あ、あ……ああ!……ま、まかせてくれよ!」
どこか自信なさげではあったが、それでもカナリー成りに胸を張ってそう言った。
その様子を見ていたスターチスは話が済んだのを確認し、大きく声を上げた。
「よっしゃあ!話も終わったみたいやし、それじゃあいくで!モモ!臆病ギルド長!元気でな!それじゃあ……テレポート!」
そう叫ぶと同時に、スターチスは眩く光り始めた。
色々な事があったデイングの町。
仮冒険者として、初めて冒険者の仕事を体験し、その苦労と楽しさを知った。
初めて冒険者の先輩が出来、尊敬できる師匠も出来た。
姉弟弟子も出来、見た事がない綺麗な景色を目にした。
見た事もないモンスターやダンジョン、そして魔族との衝撃的な出会いもした。
自らの実力不足を痛感し、師匠を失い、辛い思いもした。
それでも、前を向き、覚悟を決めることが出来た。
本当に……本当に色々な事があった町だ。
そんな町を出発し、俺たちは次へと進む。
次の目的地は要塞都市グリトア。
想像もつかない街を目指し、俺たちは馬車へと飛ぶのだった。




