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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
94/120

コミュ症は触手使いと話し合う。

「うん、完全に完治してるわね。とりあえず、これで体の治療はおしまい!定期診察はもう来なくていいわよ。後は……心の傷ね。大丈夫そう?」


「え、あ……は、はい。……だ、だ、大丈夫です」


 緊張しながらも、女医師にそう答えると、感謝を述べたのち、そそくさと病室を出た。

 医師と言っても、人と話すのはやはり緊張する。

 女医師なら尚更だ。

 

 あの日。魔族がこの町を襲った日から数日が過ぎた。

 モモ校長が魔族を倒した後、俺たちは急いでアリウムたちを医師の元へと運んで行った。

 全員が全員危険な状態だったが、医療系の力を持つ医師が大勢待機していたおかげで、奇跡的に全員助かった。

 今は全員治療済みらしく、一部破壊された町の復興を手伝っているようだ。

 

 あの日。俺たちが魔族の元へ行き、師匠も魔族の元へ行った後。

 ギルド長やキキョウは攻め入ったモンスターと壮絶な戦闘を行い、最終的に最小限の被害でモンスターたちを倒すことに成功したらしい。

 壮絶な戦闘だったのにも関わらず、ギルド長は無傷で生還し、今現在はギルド長として様々な書類の整理を行っているようだ。

 魔族がらみの事件だったこともあり、大量の書類が発生したらしく、途轍もないほどに大変そうだった。


 キキョウは多少傷を負ったが、それでも軽傷で生還することが出来たらしい。

 しかし、体の傷は軽くとも、心の傷は深かった。

 師匠が亡くなった事を聞いてから、キキョウは家に籠り、ご飯もまともに食べてないらしい。

 大切な師匠を、大切な家族を失ったことによる心の傷はそう簡単に治らないらしい。

 その気持ちを完全に理解することは出来ないが、多少なら理解することが出来る。

 俺だって、今現在その傷を治すことが出来ていない。


 身近で、大切な人の初めての死。

 気を抜くと、様々な感情が入り交じり、心を支配し、気分が沈み、涙が零れてくる。

 不安で、怖くて、情けなくて、悔しくて……このままでは心がどうにかなってしまいそうだ。

 このまま永遠に立ち直れない気すらしてくる。


「……師匠……俺はどうすればいいんだ?」


「まだメソメソしてんのか。……やっぱりどうしようもない奴だな!」


 聞き覚えのある声に振り替えると、そこには大きな荷物を持ったムクゲが立っていた。

 ムクゲは荷物を置くと、近くのベンチに座り、俺に座るように言った。

 仕方なくムクゲの横に腰を着くと、俺はゆっくりと口を開く。


「……いろいろ聞きたいことがあるが、何でお前はここにいるんだ?俺に倒された後、騎士団に捕まったんじゃなかったのか?」


「……あの日。お前が奇跡的に、運よく俺に勝った日。俺は騎士団に捕まって、そのまま牢屋にぶち込まれるところだった。……そんな時だ。モモさんが俺の事を助けてくれたんだよ」


「え、モモ校長が?……いや、え、何でだよ?」


「俺が知るか!聞いても教えてくれねえんだよ!……まあ、ともかく、モモさんが牢屋にぶち込まれる直前の俺を見つけると、全ての罪を帳消しにして、その代わり冒険者見習いとして傍に置いてくれたんだよ。……それから俺は心を入れ替えて、再び冒険者を目指しながら、日々モモさんの傍で頑張っていたんだ。……そう言えば、お前はどうやってモモさんたちが魔族の事を知ったか知ってるか?」


「え、ああ、知ってるよ。スターチスが知らせてくれたんだろ」


 そう、実はあの日。

 伝える事だけ伝え、どこかえ消え去ったスターチスはモモ校長がいる騎士団本部へと向かっていたのだ。

 スターチスは一早く町の危険に気づき、強力な魔族が近づいていることを察知すると、この町の冒険者では敵わない事を理解し、即座にモモ校長を呼ぶべきだと判断したらしいのだ。

 何でも、スターチスは一定距離なら瞬間移動できる能力を持っているらしく、瞬間移動を繰り返し、最速で騎士団本部へ向かったらしい。

 そして、その事を聞いたモモ校長はすぐに準備を整え、全速力で向かってきてくれた。

 これがモモ校長が魔族の事を知り、突如として俺たちの元へと現れたカラクリだ。


「知ってるなら話は早い。実は、あの魔剣が到着した時、運悪くモモさんは外出中だったんだ。どこに行くかも伝えられてなくてな、いつ帰って来るかも分からなかったから、一先ず代わりの援軍を送ることになったんだ。そこで立候補したのが俺だ!……まあ、他の奴らには止められたんだが、魔剣を脅して連れて行ってもらったんだよ。なんでも魔剣の瞬間移動は触れている人間も、一緒に移動できるらしくてな。その力で一気に援軍に来たってわけだ」


 なるほど。

 つまり、モモ校長の事を待つか、探しに行けば良いものを他の人の制止を無視し、勝手にやって来たという訳か。

 今回ばかりは助かったが、相当やばい事をしているな。

 ユリたちを襲った一件やアーズリバイスの一件で分かってはいたが、こいつ相当やばい奴だよな。


 ……と言うか、最後にあった時とは随分と変わった気がする。

 最初はがり勉系かと思ったら、魔防学園の学生を襲って、

 冒険者になるのを諦め、自暴自棄になり学園を襲ったかと思ったら、今度は冒険者を目指し、魔族と戦う。

 一体何があってこうなったんだ。


 そんな事を思っていると、ムクゲは一度考えるような素振りを見せた。

 すると、一度軽く深呼吸をし、真剣な表情で話し始めた。


「……そう言えば、親父たちに会ったよ」


「え……そうか……ど、どうだった?」


「……謝って来たよ。それに俺の味方だとか、ふざけたことを言っていたな。他にも泣きながら変な事ばっか言ってたよ。……本当にバカだな。罪を犯した俺の味方だとか、アホかよ。…………けどまあ、親父たちと話して、いろいろと分かった。……俺は少し、周りを見えてなかったかもしれないってな。……そして、周りを見た結果。俺は再び冒険者になろうと覚悟を決めた」


「そうか……まあ、分かったなら良いと思うぞ」


 家族と話し、ムクゲ自身大きく変わったのか。

 急に意見を変え、冒険者になると言いだして、どうしたのかと思ったが、そんな事があったのか。

 いろいろあったみたいだが、家族と話して、周りの人たちの気持ちを理解できたなら良かった。


「……前、お前は言ったな。ちゃんと周りを見ろって。……いろいろあった上で、今俺から言わせてもらう。……お前、ちゃんと周りをみろや!」


「……は?急に何言って……」


「いつまでもメソメソしやがってよ!イラつくんだよ!師匠師匠師匠って……お前には師匠しかいないのかよ、バカか!?周りを見ろよ!師匠が居なかろうが、お前には仲間や、家族や、先生やらがいるだろ。そんな事も分かんないのか!?」


「……お前には……お前には分からないんだよ。……目の前で大切な人を失った気持ちが……」


「知るかボケ!お前師匠が大切だなんだ言ってるけどな。師匠が大切なら、少しは師匠がしてほしい事をしろや!一応弟子なんなら、やって欲しいことくらいわかるだろ?自分の死をいつまでも引きづっててほしいと思うか!?」


「それは……」


 師匠がそんなことを思うはずがない。

 師匠ならきっと、気にしないで進めというはずだ。

 実際、師匠が最後に話していたのも、似たような事だった。

 それでも、そう簡単に割り切ることは出来ないんだ。

 師匠に対する気持ちや、弱い自分への憎しみ、後悔の様な感情が心を締め付ける。

 師匠の言ったように、前を向きたい。

 向きたいが……俺には……。


 俺がいつまでも悩んでいると、苛立ちに限界が来たのか、突如としてムクゲは動き始めた。

 座っている俺の胸ぐらをつかむと、力図良く引っ張り、大きく口を開いた。


「マジでいい加減にしろ!師匠のためを思うなら、行動しろ!いくらメソメソしてようが、何も変わらねえんだよ!お前は進むしかねえんだ。変わるしかねえんだ。強くなるしかねえんだ。それがお前にできる勇逸の事なんだよ!分かったか、このバカ!……俺はあの日からずっと努力してきた。全てを手に入れるためにな。……お前が止まってる間に、俺はお前を置いて強くなっていく。お前は泣いてその姿を見てろや。じゃあな」


 それだけ言うと、ムクゲは俺を突き放した。

 すると荷物を持ち上げ、元いた方へと引き返し始めた。


「……待てよ……待てよ!……あー、もう……分かってるんだよ!分かってるんだ……でも、どうしようもない。……だけど、それじゃあ駄目なんだよな……。前に進んでやる。……全部……全部抱えて前に進んでやる。……強くなってやるよ。……強くなってやる!」


「はっ……そうかよ。勝手にしろ」


 一度振り返り、それだけ告げると、再びムクゲは足を進める。

 そんなムクゲに対し、俺はもう一言伝えるべく、勇気を振り絞り、言葉を放つ。


「あ……忘れていた。……一つだけ、お前に行っておく!……俺は……俺はお前が大っ嫌いだ!死ぬほど大っ嫌いだ!この世界で一番嫌いだ!覚えとけ、この触手野郎!」


「……俺もお前が大っ嫌いだよ、クソ野郎が」


 最後にそう話し、俺はムクゲと真逆方向を向き、ゆっくりと歩き出す。

 不思議と、その足取りは数分前より軽く感じる。

 心も、幾分か楽になった気がする。


 明日だ。

 明日、師匠の元へ行こう。

 そして、覚悟を決めよう。

最近あつすぎてやばい…

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