コミュ症にとって、女騎士と魔族は格上の存在なのかもしれない。
「……やった…………訳ないよな」
「当たり前だろ。お前程度の攻撃で死ぬなら、そこの冒険者でも倒せてるはずだ」
そう話しながらも、倒せたという奇跡を信じながら、倒れて動かない魔族の方を監視する。
もしかしたら、師匠の攻撃の力で、少しの間他の攻撃も効くようになっているかもしれない。
もしかしたら、力を使いすぎたせいで、魔力が使えないかもしれない。
もしかしたら……。
様々な軌跡を想像するが、現実はそう甘くはない。
数秒後。魔族はゆっくりと立ち上がり、平然とした表情で自らの体を調べた。
すると、魔力を使い、俺たちの猛攻でついた傷を一瞬で再生してしまった。
想像はしていた。
していたが、やはりショックだ。
奇跡が起こることを信じていたが、世の中そんなに甘くはなかったか。
「……所謂、火事場ノ馬鹿力トイウヤツカ?中々ニ良イ攻撃ダッタ。片腕ガ無イトハ言エ、ココマデ私ニダメージヲ与エタノハ賞賛ニ値スル。……シカシ、私ノ命ニハ、一ミリモ届カナイ。モウ良イダロ、諦メロ」
「諦めか……嫌だね。……悪いけど、俺はもう……もう、諦めないぞ。何があっても、絶対に……お前を倒すまで、前を向いて、立ち向かい続ける」
「……ソウカ。ナラ、死ネ」
魔族はそれだけ言うと、左手に緑色の光を集め、全速力で俺たちへと向かって来た。
既に限界の体を動かし、攻撃を受けるべくシャドウハンマーを構える。
その時だった。どこからか声が聞こえた。
「よく言った!コウキ!」
反射的に声のする方を見ると、俺は声主に大きく吹き飛ばされた。
地面に転がりながらも、俺のいた方を見ると、声主であろう人の胸を、魔族の左腕が貫いているのが目に映った。
その状況を把握すると同時に、俺は驚きのあまり、動くのを完全に停止してしまった。
なぜそこまで驚いたのか、その理由は一つだ。
そこに立っていた声主が、俺の知る限り最も強い騎士。
モモ校長先生だったからだ。
モモ校長は魔族に左腕を抜かれると、一瞬にして息絶えた。
それから数秒後。モモ校長の傷口は一瞬にして塞がり、モモ校長は生き返ることに成功した。
「……も、も、も、モモ校長…………先生……」
「久しぶりだな、コウキ。仮冒険者の説明をした日以来か。よく、私が来るまで持ちこたえたな。後は私に任せ、ゆっくり休んでいるといい」
モモ校長は剣を抜くと、真剣な表情で魔族と向かい合う。
モモ校長が来てくれた。つまり、もう大丈夫だという事だ。
モモ校長の生呪の力は、少しの間、自分を殺した者より強くなる力。
普通の人ならば、全く意味のない力だ。
なぜなら、人は死ねばそこで終わりだからだ。
強くなろうが、死ねばどうする事も出来ない。
しかし、モモ校長は違う。
生き返り。モモ校長は死んでも生き返る特殊な力を持っている。
つまり、モモ校長は敵に殺されれば、敵より強くなって生き返る。
俺の知る限り、最強の人間だ。
しかし、大丈夫だといっても油断しちゃならない。
魔族は信じられないほどに強い。
どんな攻撃を受けようが、魔力を使い回復することが出来る。
あの回復のせいで、俺たちの攻撃は無意味と化したんだ。
モモ校長はどうやって倒す気なんだろうか。
「……貴方、ツヨイナ。ソレモ相当ダ。……貴方ナラ私ニ教エテクレルダロウカ。何故、生キテイルノカヲ」
そんな事を言いながら、魔族は地面を操り、モモ校長へと攻撃を仕掛ける。
モモ校長はそれを軽々と避けると、軽く地面を蹴り上げ、一瞬で魔族の目の前へ移動した。
次の瞬間。モモ校長は剣を振り上げ、魔族の胸に切り傷を与えた。
それに驚くこともせず、魔族は地面と左手で、連続攻撃を仕掛ける。
モモ校長は冷静に一つ一つの攻撃を受け流しながら、少しずつ魔族に傷をつけていく。
想像以上の動きだったのか、魔族はしばらく攻防を続けたのちに地面を蹴り上げ、数メートル後ろへ引いて行った。
「……なるほど、これは想像以上だ。貴様、魔族の中でも相当上位の実力を持っているな」
「貴方コソ、想像以上ダ。……ダガ、私ノ魔力ノ前デハ無力。コンナ傷、一瞬デ……」
そう言いながら体を動かすが、魔族の傷は一向に塞がらない。
数分前に師匠から受けた傷の様に、全くもって治る気配がしない。
「ここに来る途中、貴様の魔力は大体聞いてきた。確か、体を再生することも出来るんだったな。……しかし、それは私の前では無駄だ!私の生呪の力は殺されれば、敵より強くなって生き返る力。強くなるとは、その者を殺せる力を得るという事だ!分かるか?貴様が私を殺した時、私は貴様より強くなり、貴様の再生が作用しない攻撃を打てるようになったのだ!」
なるほど。
強くなるというのは、殺すことが出来る程の力を得るという事なのか。
今回の場合、魔力により再生されれば、絶対に魔族を倒すことは出来ない。
その状況を打破するべく、再生が発動しない傷を作る力を得たのか。
単純に強くなるだけかと思っていたが、こんな副作用もついてくるのか。
想像以上に、モモ校長の能力は圧倒的だ。
そう考えると同時に、モモ校長と魔族の間に張り詰める空気から、何となく理解した。
もう少し、もう少しで決着がつく。
「……全ク、今日ハ厄介ナ奴バカリニ会ウナ。……リュウガニ貴方。私ヲ倒ス事ガ出来ル者バカリダ。……決着ノ前ニ聞イテオク。生物ハ……生物ハ何故生キテイルト思ウ?」
「何故生物は生きるのか?……何故生きるのか、それはそれぞれ全く異なった理由を持っているから、一概にいうことは出来ないな。ただ確かな事は、全ての生物はあやふやながらも、生きる理由を……大切な夢を持っているという事だ。生物は、その大切な夢を叶えるべく、生きているのだと私は思う」
「ソウカ……生キル理由カ……夢カ……ナルホドナ。……最後ニ聞ク。ソレナラバ、貴方ハ何故生キテイル?ドンナ目的ガアリ、生キテイル?」
「私の生きる理由か。私は……今は亡き仲間たちの夢を叶えるために、世界で苦しんでいる者を一人でも減らすために、生きている。……他に、理由はない!」
「ソウカ……良イ理由ダ。……ソレデハ、モウ終ワラセヨウカ」
魔族は地面を操るのをやめると、左手に緑色の光を集め始めた。
光は操っていた地面や、付近の植物などから放出され、一直線に魔族へ集まっているように見える。
その光は少しずつ増していき、今までで見たことがないほどに大きく集まっていく。
それを見ると、モモ校長は一度大きく深呼吸をした。
一度胸に手を当てると、慣れた動きで剣を構える。
そして、二人が同時に動きを止めたかと思うと、二人は叫んだ。
「私ノ力ニ従エ!オーガリズエンジャー!」
「私の力に裁かれよ!シャイン・バースト・レクイエム!」
瞬間。
両者の全力の攻撃が炸裂した。
あまりの迫力に、俺とムクゲはその場で耐えしのぐことしかできなかった。
そして、両者の攻撃が終えると、俺たちはすぐさまモモ校長の方へと視線を向ける。
そこにはモモ校長が一人たっており、その前には魔族が一人倒れていた。
魔族には生気がなく、全く動く気配がしない。
これは……。
「見事な攻撃だった。安らかに眠れ、魔族よ。……さて、大丈夫か?もう終わった」
「終わったって……倒せたんですか……あの……あの魔族を……」
「ああ、倒した。これで、全てが終わった」
その言葉を聞くと、一気に緊張の糸がほぐれた。
やったのか……俺たちは勝ったのか。
諦めず、前を向き、立ち向かい……そのお陰でモモ校長が間に合い、勝利を手にできたのか。
アリウムたちもまだ息がある。生きてる……俺たちはこの戦いを生き残ることが出来たのか。
生き残れたんだ……俺たちは……。
師匠…………やったよ師匠。
俺……諦めずに立ち向かったよ。
諦めなかったお陰で、みんな助かったよ。
なあ……師匠……。
「……うぐ……師匠……師匠……あ……ああ……ああああああああ!」
それから俺は涙を流した。
何か行動を起こす事もなく。
周りの目も気にせず、ただ涙を流した。
ただ、只管に涙を流した。
長く苦しい戦いの決着。
師匠の死。格上の戦いを受け、コミュ症は何を思うか。




