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コミュ症異世界生存史  作者: GIN
仮冒険者編
93/120

コミュ症にとって、女騎士と魔族は格上の存在なのかもしれない。

「……やった…………訳ないよな」


「当たり前だろ。お前程度の攻撃で死ぬなら、そこの冒険者でも倒せてるはずだ」


 そう話しながらも、倒せたという奇跡を信じながら、倒れて動かない魔族の方を監視する。

 もしかしたら、師匠の攻撃の力で、少しの間他の攻撃も効くようになっているかもしれない。

 もしかしたら、力を使いすぎたせいで、魔力が使えないかもしれない。

 もしかしたら……。


 様々な軌跡を想像するが、現実はそう甘くはない。

 数秒後。魔族はゆっくりと立ち上がり、平然とした表情で自らの体を調べた。

 すると、魔力を使い、俺たちの猛攻でついた傷を一瞬で再生してしまった。

 

 想像はしていた。

 していたが、やはりショックだ。

 奇跡が起こることを信じていたが、世の中そんなに甘くはなかったか。


「……所謂、火事場ノ馬鹿力トイウヤツカ?中々ニ良イ攻撃ダッタ。片腕ガ無イトハ言エ、ココマデ私ニダメージヲ与エタノハ賞賛ニ値スル。……シカシ、私ノ命ニハ、一ミリモ届カナイ。モウ良イダロ、諦メロ」


「諦めか……嫌だね。……悪いけど、俺はもう……もう、諦めないぞ。何があっても、絶対に……お前を倒すまで、前を向いて、立ち向かい続ける」


「……ソウカ。ナラ、死ネ」


 魔族はそれだけ言うと、左手に緑色の光を集め、全速力で俺たちへと向かって来た。

 既に限界の体を動かし、攻撃を受けるべくシャドウハンマーを構える。

 その時だった。どこからか声が聞こえた。


「よく言った!コウキ!」


 反射的に声のする方を見ると、俺は声主に大きく吹き飛ばされた。

 地面に転がりながらも、俺のいた方を見ると、声主であろう人の胸を、魔族の左腕が貫いているのが目に映った。

 その状況を把握すると同時に、俺は驚きのあまり、動くのを完全に停止してしまった。


 なぜそこまで驚いたのか、その理由は一つだ。

 そこに立っていた声主が、俺の知る限り最も強い騎士。

 モモ校長先生だったからだ。


 モモ校長は魔族に左腕を抜かれると、一瞬にして息絶えた。

 それから数秒後。モモ校長の傷口は一瞬にして塞がり、モモ校長は生き返ることに成功した。

 

「……も、も、も、モモ校長…………先生……」


「久しぶりだな、コウキ。仮冒険者の説明をした日以来か。よく、私が来るまで持ちこたえたな。後は私に任せ、ゆっくり休んでいるといい」


 モモ校長は剣を抜くと、真剣な表情で魔族と向かい合う。

 モモ校長が来てくれた。つまり、もう大丈夫だという事だ。

 モモ校長の生呪の力は、少しの間、自分を殺した者より強くなる力。

 普通の人ならば、全く意味のない力だ。

 なぜなら、人は死ねばそこで終わりだからだ。

 強くなろうが、死ねばどうする事も出来ない。


 しかし、モモ校長は違う。

 生き返り。モモ校長は死んでも生き返る特殊な力を持っている。

 つまり、モモ校長は敵に殺されれば、敵より強くなって生き返る。

 俺の知る限り、最強の人間だ。


 しかし、大丈夫だといっても油断しちゃならない。

 魔族は信じられないほどに強い。

 どんな攻撃を受けようが、魔力を使い回復することが出来る。

 あの回復のせいで、俺たちの攻撃は無意味と化したんだ。

 モモ校長はどうやって倒す気なんだろうか。


「……貴方、ツヨイナ。ソレモ相当ダ。……貴方ナラ私ニ教エテクレルダロウカ。何故、生キテイルノカヲ」


 そんな事を言いながら、魔族は地面を操り、モモ校長へと攻撃を仕掛ける。

 モモ校長はそれを軽々と避けると、軽く地面を蹴り上げ、一瞬で魔族の目の前へ移動した。

 次の瞬間。モモ校長は剣を振り上げ、魔族の胸に切り傷を与えた。


 それに驚くこともせず、魔族は地面と左手で、連続攻撃を仕掛ける。

 モモ校長は冷静に一つ一つの攻撃を受け流しながら、少しずつ魔族に傷をつけていく。

 想像以上の動きだったのか、魔族はしばらく攻防を続けたのちに地面を蹴り上げ、数メートル後ろへ引いて行った。


「……なるほど、これは想像以上だ。貴様、魔族の中でも相当上位の実力を持っているな」


「貴方コソ、想像以上ダ。……ダガ、私ノ魔力ノ前デハ無力。コンナ傷、一瞬デ……」


 そう言いながら体を動かすが、魔族の傷は一向に塞がらない。

 数分前に師匠から受けた傷の様に、全くもって治る気配がしない。


「ここに来る途中、貴様の魔力は大体聞いてきた。確か、体を再生することも出来るんだったな。……しかし、それは私の前では無駄だ!私の生呪の力は殺されれば、敵より強くなって生き返る力。強くなるとは、その者を殺せる力を得るという事だ!分かるか?貴様が私を殺した時、私は貴様より強くなり、貴様の再生が作用しない攻撃を打てるようになったのだ!」


 なるほど。

 強くなるというのは、殺すことが出来る程の力を得るという事なのか。

 今回の場合、魔力により再生されれば、絶対に魔族を倒すことは出来ない。

 その状況を打破するべく、再生が発動しない傷を作る力を得たのか。

 単純に強くなるだけかと思っていたが、こんな副作用もついてくるのか。

 想像以上に、モモ校長の能力は圧倒的だ。


 そう考えると同時に、モモ校長と魔族の間に張り詰める空気から、何となく理解した。

 もう少し、もう少しで決着がつく。


「……全ク、今日ハ厄介ナ奴バカリニ会ウナ。……リュウガニ貴方。私ヲ倒ス事ガ出来ル者バカリダ。……決着ノ前ニ聞イテオク。生物ハ……生物ハ何故生キテイルト思ウ?」


「何故生物は生きるのか?……何故生きるのか、それはそれぞれ全く異なった理由を持っているから、一概にいうことは出来ないな。ただ確かな事は、全ての生物はあやふやながらも、生きる理由を……大切な夢を持っているという事だ。生物は、その大切な夢を叶えるべく、生きているのだと私は思う」


「ソウカ……生キル理由カ……夢カ……ナルホドナ。……最後ニ聞ク。ソレナラバ、貴方ハ何故生キテイル?ドンナ目的ガアリ、生キテイル?」


「私の生きる理由か。私は……今は亡き仲間たちの夢を叶えるために、世界で苦しんでいる者を一人でも減らすために、生きている。……他に、理由はない!」


「ソウカ……良イ理由ダ。……ソレデハ、モウ終ワラセヨウカ」


 魔族は地面を操るのをやめると、左手に緑色の光を集め始めた。

 光は操っていた地面や、付近の植物などから放出され、一直線に魔族へ集まっているように見える。

 その光は少しずつ増していき、今までで見たことがないほどに大きく集まっていく。


 それを見ると、モモ校長は一度大きく深呼吸をした。

 一度胸に手を当てると、慣れた動きで剣を構える。

 そして、二人が同時に動きを止めたかと思うと、二人は叫んだ。


「私ノ力ニ従エ!オーガリズエンジャー!」


「私の力に裁かれよ!シャイン・バースト・レクイエム!」


 瞬間。

 両者の全力の攻撃が炸裂した。

 あまりの迫力に、俺とムクゲはその場で耐えしのぐことしかできなかった。

 そして、両者の攻撃が終えると、俺たちはすぐさまモモ校長の方へと視線を向ける。

 そこにはモモ校長が一人たっており、その前には魔族が一人倒れていた。

 魔族には生気がなく、全く動く気配がしない。

 これは……。


「見事な攻撃だった。安らかに眠れ、魔族よ。……さて、大丈夫か?もう終わった」


「終わったって……倒せたんですか……あの……あの魔族を……」


「ああ、倒した。これで、全てが終わった」


 その言葉を聞くと、一気に緊張の糸がほぐれた。

 やったのか……俺たちは勝ったのか。

 諦めず、前を向き、立ち向かい……そのお陰でモモ校長が間に合い、勝利を手にできたのか。

 アリウムたちもまだ息がある。生きてる……俺たちはこの戦いを生き残ることが出来たのか。

 生き残れたんだ……俺たちは……。


 師匠…………やったよ師匠。

 俺……諦めずに立ち向かったよ。

 諦めなかったお陰で、みんな助かったよ。

 なあ……師匠……。


「……うぐ……師匠……師匠……あ……ああ……ああああああああ!」


 それから俺は涙を流した。

 何か行動を起こす事もなく。

 周りの目も気にせず、ただ涙を流した。

 ただ、只管に涙を流した。

長く苦しい戦いの決着。

師匠の死。格上の戦いを受け、コミュ症は何を思うか。

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