コミュ症と触手使いは、魔族へ挑む。
「リュウガト言ッタカ……中々ニ良イ生キ様ダッタ」
そんな事を言いながら、魔族は動かなくなった師匠を地面に転がした。
俺は涙を零し、体中を振るわせながらも、ゆっくりと動かなくなった師匠へと近づいて行く。
師匠が死んだ。
誰よりも優しく、強かった師匠が死んだ。
大切で、いろんなことを教えてくれた師匠が死んだ。
まだこれから沢山の事を教えてくれるはずだった師匠が死んだ。
「ああ……あああ…………あああああああ!」
初めて人の死を目にし、
初めて大切な人を無くし、
俺には泣く事しか出来なかった。
自らの弱さを呪い、師匠の最後を思い、只管に涙を流した。
「……悲シイカ?大丈夫ダ、貴方モスグニ同ジ所ヘ送ッテアゲヨウ」
地面を操りながら近づいてくる魔族に対し、俺は抵抗することも、立ち上がる事も出来ない。
体に力が入らないし、抵抗する気力もない。
全てがどうでもよくなっていた。
……太陽の男に負けてから、強くなろうと覚悟を決め、必死に鍛錬を積んできた。
師匠に戦い方を学び、様々なモンスターと戦い、一歩ずつ成長してきたはずだった。
それでも……それでもだめだった。結局、俺はあの時から全然成長できていない。
一人の敵すら倒せないし、大切な人すら守れない。
全部無駄だったのかもしれない。
なんかもう……疲れた。
もうどうでも良いんだ。
ここで死ぬのも良いかもな。
師匠、今俺もそっちに行くよ。
そう思い、迫りくる魔族に何をすることもなく、ゆっくりと瞼を落とそうとした。
それと同時だった。突如魔族が何者かに殴り飛ばされた。
反射的に魔族のいた方を見ると、そこには一人の男が立っていた。
水色で刈り上げられた髪形をしている、見覚えのある男。
髪型は変わっていたが、何者かはすぐに理解できた。
何かと因縁があり、幾度となく拳を交えた、俺の事が嫌いな男。
「……何でここにいるんだ…………ムクゲ」
「……よう、コウキ。相変わらず度胸のなさそうな顔してんな。…………モモさんにここに行って、魔族の足止めをするように言われたんだ。言わば援軍ってやつだよ。……まあ、今は敵じゃないから安心しろ」
「モモさん……校長先生か……なんで……?…………いや、そんな事はどうでもいいや。……もう……全部どうでも……いいや」
そう、どうでも良い。
師匠は死んだんだ。
今更誰が来ようが、何が起ころうが、全てがどうでも良い。
「……なんだそいつは?その出血、死んでるよな。……あー、分かった。魔族にやられて死んだのか。……それでなんだ?お前は死んだのが悲しくて、泣きわめいて、動けなくなってんのか?本当にお前はどうしようもない雑魚だな!」
「……いいよ……もう……」
「はー……イライラさせる奴だな!まあ、あの魔族は俺が倒すから、そこで子供みたいに泣きじゃくって見とけ!俺はそこで死んでる雑魚と違って強いからな!」
「………………は?」
「あ、んだよ?事実だろ?そこの冒険者は魔族に殺されてるんだ。弱いに決まってるだろうが!」
その言葉を聞き、俺は思わず立ち上がり、ムクゲの胸ぐらを強くつかんだ。
そして、嘗てないほどの怒りを露わにし、思うがままに言葉を放つ。
「弱くない……師匠は弱くない!強くて、優しくて……凄い人なんだ!魔族だって、倒せる力を持ってたんだよ!……師匠は……師匠は……」
「師匠ねえ……本当にムカつく奴だな!良いか、何を言おうがそいつが死んで、魔族に負けたのは事実なんだよ!泣いたって、何を言ったって、それは変わんねえんだよ!バカかてめえは!……お前がそいつの弟子だって言うなら、よく考えてみろ!その師匠はお前に何を教えた!?お前がいまするべきことは何だ?……そんな事も分かんないのか!」
そう言い放つと、ムクゲは軽く俺の事を殴り倒した。
その拳は強く、以前受けた拳の何倍も強かった。
一体何なんだ。
急に現れて、どうしようもないようなクズがぶつくさ言ってきて……俺が今するべき事なんて分かる訳ないだろ。
もう、どうする事も出来ないんだよ。
何をしようが、何が起ころうが、もう無駄なんだ。
そう思い、全てを諦めようとした時。
諦めず、前を向け。
「……え?」
声が聞こえた気がした。
諦めず、前を向け。
そう師匠が言ったような気がした。
勿論師匠は死んだ。声なんて聞こえるはずがない。
それでも聞こえた気がした。
諦めず、前を向けって……。
そんなこと言われても俺は……俺は……。
「……く……う…………分かった。……分かったよ……師匠。そう言う事なんだな……」
そう呟きながら、俺は立ち上がった。
涙を拭い、力強く拳を握り、振り返った。
分からない、分からないけど、何となく分かった気がする。
俺が今何をするべきなのか、師匠が俺に何をしてほしいのか。
師匠は俺に何を託したのか。
「……なんだよ、そこで泣いてていいんだぞ?」
「……うるせえ。……分かんない……分かんないけど……今ここで泣いて何もしないってのは、絶対に師匠が望んでいたことじゃない。……俺がするべき事じゃない。……だから……戦うんだ」
「はー……意味分かんねえな。どうでも良いが、邪魔は済んなよ」
俺たちがそう話していると、
右腕を抑えながら様子を見ていた魔族がゆっくりと口を開いた。
「フム……話ハ済ンダカ?……結局、戦ウノカ。私ニハ勝テナイトイウ事ガマダ分カラナイカ」
「…………いや、分かってるよ。……俺じゃお前に勝てない事なんて、分かってる…………けど……けど、やるしかないんだ。……諦めずに、前を向いて、立ち向かうしかないんだ!」
そう叫びながら、影を操り、シャドウハンマーを形成していく。
覚悟を決め、シャドウハンマーを構えると、全力で魔族へと駆けていく。
それと同時に隣にいたムクゲも魔族へと駆け出す。
その背中からは青い甲羅で覆われた数本の触手が生えている。
「……ムクゲ。……あいつは再生能力を持っている。……だから……だから、再生する間もなく、連続で攻撃を仕掛けるぞ!」
「うるせえ、俺に命令してくるんじゃねえよ!殺すぞ!」
「喧嘩シテイル余裕ガアルノカ?」
そんな事を言いながら、魔族は地面を動かし、俺たちを殺しにかかる。
俺たちは地面の動きを見極め、紙一重の所で攻撃を交わしながら、魔族へと迫る。
今の地面の動き、数分前と比べて格段に遅くなっていた。
恐らく、傷ついた体を治せないのが初めての事で、動揺し、魔力を上手くコントロール出来ていないのかもしれない。
それに加えて、師匠が与えたダメージも相当大きいはずだ。
右手は完全に封じたし、体中に傷が入っているのも見える。
あの状態から考えて、魔族は今相当弱っている。
それなら……守りを捨てて、今この瞬間の攻撃に全てを掛ける。
「……いくぞ、魔族!」
そう叫びながら、全力で魔族を殴り飛ばす。
魔族は抵抗を試みたようだが、上手くいかなかったのか簡単に殴り飛ばすことが出来た。
その様子を確認すると、再び魔族へ近づき、連続攻撃を繰り出す。
一撃一撃に力を入れ、魔族に抵抗する間を与える事無く、攻撃し続ける。
「ク……怪我ヲシテイルカラト言ッテ、私ヲ倒セルト思ウナヨ!」
魔族は左腕に緑色の光を集めると、俺の横腹へと左腕を動かす。
しかし、左腕は俺に当たることなく、遠くへ斬り飛ばされてしまった。
何が起こったのか、左腕があった方を見てみると、そこにはムクゲの触手が伸びていた。
「おいおい、俺を忘れてんじゃねえぞ!どうするよ、魔族。これで両腕無くなっちまったなー!」
「何ヲ勘違イシテイル!右腕ハ治セナクトモ、左腕ヲ治ス事ハデキ……」
「させるわけねえだろ!」
魔族は自らの腕を再生させようとするが、その時間を与える事無く、ムクゲは連続攻撃を開始した。
それに負ける事無く、俺も攻撃をし続ける。
叫びながら、魔族に何もさせる事無く、永遠と攻撃を続ける。
ここまでの連続攻撃に、普通なら相手は何も出来ず、諦めるしかない。
しかし、相手は魔族だ。
当然、このまま防戦一方のままでいる訳がなかった。
魔族は俺たちの隙を突き、俺たちと魔族との間に一枚の壁を作り上げた。
すぐさまその壁を破壊するが、破壊すると同時に次の壁が作り上げられていく。
これはまずい。
このまま壁を作られ続ければ、すぐに回復され、形勢逆転してしまう。
何とか壁を破壊し、魔族に攻撃を喰らわせないといけないが、どうする?
何かいい手は……。
「おい、コウキ!一度だけ聞く、お前は何か強力な必殺技を持ってるか?あの魔族を怯ませるような、一撃を持ってるか!?」
「……え…………必殺技かは分からないけど、強い一撃を出すことは出来る」
「分かった!……今回は仕方がねえから、魔族に攻撃を与える役目を、お前にやらせてやるよ!俺が壁を破壊する。お前は魔族に攻撃を仕掛けろ!分かったな!」
「……は?…………分かった」
そう答えたのを確認すると、ムクゲは甲羅で覆われた触手を一か所に集めて行く。
触手は一本一本が絡み合って行き、少しずつ粘土の様にくっつき始めた。
数秒立つ頃には、巨大な一本の甲羅で覆われた頑丈な触手へと姿を変えた。
「どうだ、これは俺の最強の技!最強の火力と、最強の防御力と、最強のスピードを持つ、最強の触手だ!……コウキ、今から壁を破壊する、行くぞ!」
ムクゲはそう言うと、触手を一気に引き始めた。
それを見ながら、俺も構えを始める。
左足を前に出し、右足を少しずつ引く。
それと同時にハンマーに角度をつけ、両手で握りしめる。
師匠から教わった、高火力を出すのに適した構え。
これで……魔族を倒す!
「いくぜ!テネコルスマッシュズ!」
そう叫ぶと同時に、ムクゲは巨大な触手で連続攻撃を放った。
高火力を持つ触手が放つ連続攻撃に、地面で出来た壁が耐えきれるはずもなく、壁はすぐさま壊されていく。
壁は瞬時に復活しようとするが、復活する直前に触手の攻撃を受け、破壊されていく。
そうなると、当然魔族を守っていた壁はなくなり、魔族を守るものは何もなくなった。
俺は左足に力を入れ、全力でハンマーを振りながら叫ぶ。
「……俺たちの……俺たちの力を喰らえ!シャドウハンマー!」
出せる力全てを使い放った一撃は魔族へ直撃し、魔族を一気に殴り飛ばした。
全てをのせた一撃が魔族へ炸裂する。
何故ムクゲがここに居るのか、詳しい説明は数話お待ちを。




